牛がブラシで背中をかく様子を撮影、牛の道具使用の事例として初の記録 オーストリア

牛の「ベロニカ」は、自分自身をかくことで道具を使う能力を示した/Antonio J. Osuna-Mascaró

(CNN) 牛は背中のかゆみをどうやって解消するのだろうか。オーストリアの牛の「ベロニカ」は、家畜に対する見方を変えるかもしれない解決策を示した。

過去10年にわたり、ベロニカは口で棒を拾い上げ、端を巧みに操って、通常は届かない体の部位をかく様子が飼い主によって時折観察されてきた。ウィーン獣医大学の動物行動学の専門家チームが最近、この映像を目にしたとき、棒を使うベロニカの行動が並外れていることに気が付いた。

ベロニカの革新的な行動は、新たな研究で報告された。研究者によると、ペットとして飼育されている牛の道具使用を記述した初めての研究だという。論文は19日に学術誌「カレント・バイオロジー」に掲載された。

「この研究結果は、牛が道具の使い方を革新する可能性を秘めていることを示している。我々はこの事実を何千年も無視してきた」。論文の筆頭著者で、ウィーン獣医大学の博士研究員、アントニオ・オスナマスカロ氏は電子メールでそう語った。「世界にはおよそ15億頭の牛がいて、人類は少なくとも1万年にわたり共に暮らしてきた。それなのに、今になってようやくこの事実が明らかになったというのは衝撃的だ」

今回の研究は、より多くの牛でこの特性を観察する道を開き、家畜の認知能力がこれまで考えられていたよりも優れていることを示す証拠となる可能性があると、オスナマスカロ氏は指摘した。

筆頭著者のアントニオ・オスナマスカロ氏とベロニカ/Antonio J. Osuna-Mascaró

道具を使う牛

ブラウンスイス種のベロニカは、オーストリアの小さな町の農場で暮らしている。緑の牧草地が広がり、通りすがりの人々が声をかけてくれるなど、ペットとしての牛にとって理想的な環境だという。

研究チームが最初に、棒を使って体をかくベロニカの映像を見たとき、その行動が偶然ではなく、明確な意図を持ったものだということは明らかだったと、オスナマスカロ氏は語る。

研究者は、ベロニカの道具の使用能力がどこまで及ぶのかを調べるため、デッキブラシをさまざまな向きでベロニカの前に置く一連の実験を行った。ベロニカが長い舌を使って棒を拾い上げるたびに、どちらの端を選び、体のどの部位をかこうとしたのかを記録した。

人間や豊かな自然と触れ合える環境が、牛が道具を使うのに適した条件を提供したのかもしれない(Antonio J. Osuna-Mascaró)

研究の結果、ベロニカは真の意味での道具使用を示していることが分かった。道具が機能的な目的を果たし、被験者の身体能力の限界を拡張する場合、それは道具の使用とされる。また、道具の使い方にも明確な好みがあった。上半身の皮膚が厚い部分にはブラシの毛のある側を使い、乳房など皮膚がより繊細な下半身には、鈍い持ち手側を使っていた。

オスナマスカロ氏は「これは非常に驚くべきことだ。なぜなら、我々が知る限り、多目的な道具の使用の確かな例は、コンゴ盆地に生息するチンパンジーだけだからだ。このチンパンジーは二つの異なる端を持つ道具を使うことが時々観察されており、片方の端でシロアリ塚に穴を開け、もう片方の端でシロアリを釣る」と語る。「ベロニカの場合、空間的な関係はより単純だが、それでも牛がこのような能力を持っているというのは驚異的だ」

チンパンジーには手や対向する親指という利点があるが、ベロニカが口だけで見せた制御能力は研究者を驚かせた。ベロニカは、使いたいブラシの側や、狙う体の部位、必要な動きの範囲に応じて、くわえ方を調整していた。上半身の場合はこする動きを維持し、スティック状の先端はより正確に優しく前方に押し出すことを可能にしていた。

コロラド大学ボルダー校の生態学・進化生物学の名誉教授、マーク・ベコフ氏も、ベロニカのブラシ使用は明確な道具使用の事例だという点に同意する。ベコフ氏は今回の研究に関与していない。

「ベロニカがブラシを作ったわけではないが、ブラシを使ってかゆみを和らげることができることを明らかに理解し、そうすることで気持ちが良かった。ベロニカがブラシを巧みに操っていることから、他の牛にも同様の知能があるはずだ」と、ベコフ氏は述べた。

「牛をはじめとする非常に知能が高く感情的な動物は、あまりにもしばしば愚かで感情がないと決めつけられがちだ。詳細な研究により、牛は非常に活発な脳と豊かで深い感情生活を持つ、完全に知覚力のある生き物であることが示されている」(ベコフ氏)

家畜の知性

1960年、著名な霊長類学者のジェーン・グドール氏は、チンパンジーが道具を作り、使用することを発見し、道具使用は人間特有のものだという考えを覆した。

「現在では、カラス類やオウムが、大型類人猿と同等の能力を発揮できることがわかっている。これは、かつては想像もできなかったことだ」とオスナマスカロ氏は言う。「これは一例にすぎない。我々は、利用している動物の認知能力について、いまだに強い偏見を持っている。ベロニカは、その誤りを指摘してくれている」

研究者によると、人間や豊かな自然と触れ合えるベロニカの環境が、この行動を身につけるのに必要な条件を与えた可能性がある。ただし、ベロニカが「牛のアインシュタイン」だとは考えていない。見過ごされてきただけで、同じ能力を持つ牛や家畜は他にも多くいる可能性が高いという。

研究チームは今後もベロニカの能力を詳しく調べる予定だが、家畜が物を道具として使うのを目撃したことがある人にはメールやSNSを通じて連絡してほしいと呼びかけている。

関連記事: