「あなたの意見はどうですか」スベンド・ブローダーセンが試合後に仲間に駆け寄った。ファジアーノ岡山らしさは金山隼樹から学んだ【コラム】
ファジアーノ岡山の守護神・スベンド・ブローダーセン【写真:Getty Images】
ファジアーノ岡山は11月30日、明治安田J1リーグ第37節で浦和レッズと対戦し、0-1で敗れた。ホーム最終戦に敗れ、リーグ戦10試合未勝利となったが、ドイツ生まれの守護神・スベンド・ブローダーセンは、今季限りで現役を引退するベテランGK金山隼樹からチームが大切にしてきたものを受け継ごうとしている。(取材・文:難波拓未)[1/2ページ]
——————————「ジュンキの存在や影響が大きかった」前半13分に訪れたベテランGKから守護神へのバトンタッチ
今季限りでの現役引退を表明しているGK金山隼樹はチームメイトに見送られ、ピッチを後にする【写真:Getty Images】
特別であり胸が熱くなるような光景だった。
時計の針が前半13分を回った頃、ベンチスタートだったスベンド・ブローダーセンがユニフォームに身を包み、ピッチの手前に姿を現した。
主審のホイッスルが鳴り、交代ボードに13番と49番が表示される。それを見たファジアーノ岡山の選手たちがピッチ上やベンチからメインスタンド中央側のタッチラインに集結していく。
今シーズン限りで現役引退を発表し、今節に先発出場したGK金山隼樹の交代に対して花道を作ったのだ。
背番号と同じ13分台にピッチを退く金山がチームメイトと手を合わせ、抱擁を交わし、労いの言葉を掛けられながら歩いていく。リスペクトが詰まったファジレッドの道を通った先で待っていたのが、ブローダーセンだった。
「ジュンキー!ジュンキー!」という大きな声と目一杯の拍手で9歳上の先輩GKを迎え、ハグをしてから勢いよくピッチに飛び出した。
「もう本当にいっぱい感謝してます。私の出番だったから『お疲れ様』という気持ちを込めて、いつも通りハグをしました。ジュンキは素晴らしかった。短い時間だったけど、みんながすごく強い気持ちで試合に入っていた。
ジュンキの後ろからの存在感を感じていたので、私が入った後の最初の30分も(チーム全体が)良いプレーを見せたと思います。それはジュンキの存在や影響が大きかった」
背番号13の魂を引き継いだチームは、アグレッシブさを発揮して相手コートに押し込んでいった。
前線から激しくプレスを仕掛ける。ロングボールをディフェンス陣が跳ね返す。中盤で球際を激しく戦い、セカンドボールを回収する。
アウェイでの前回対戦時に木山隆之監督が「自分たちが思ったようなプレッシャーを掛けられる場面が少なかった」と総括した浦和レッズを相手に、勇敢なサッカーを展開した。
しかし、0-0でスタートした後半にいきなり絶体絶命のピンチを迎えた。
すべてはホーム最終戦を勝利で飾るため、9歳上の先輩を最高の形で送り出すために
円陣後、それぞれの配置に向かうファジアーノ岡山の選手たち【写真:Getty Images】
左サイドを縦に突破され、グラウンダーのクロスからMFマテウス・サヴィオが右足を強振。DF田上大地とDF立田悠悟が身体を投げ出すも、低く鋭いシュートは隙間をすり抜けてゴールに飛んできた。
背番号49はシュートの瞬間を目視できなかっただろう。だが、左方向に素早く飛び、左手1本で掻き出した。
失点を覚悟する一瞬の沈黙から、スーパーセーブに興奮する大歓声へ。スタジアムの雰囲気を一変させたビッグプレーだったが、難しいものではなかったと淡々と振り返った。
「ちょっとボール見えなかったね。でも、完璧なシュートではなかった。(ゴールの)角よりかは少し内側だったし、自分の届く範囲のところに飛んできたから、落ち着いて対応できたと思います」
58分には立田が自陣ペナルティーエリアの手前でボールを奪われ、FWイサーク・キーセ・テリンが抜け出してきた。
元スウェーデン代表FWが深い位置からシュートモーションに入った瞬間、細かなステップワークで間合いを詰めて身体を広げる。伸ばした右足でボールを弾き出し、ピンチを防ぐだけでなく味方のボールロストもカバーしてみせた。
9試合未勝利の中でも常に前向きな応援で後押しをしてくれたサポーターのために。ホーム最終戦を勝利で飾るために。そして、切磋琢磨してきた金山を最高の形で送り出すために。
ブローダーセンを中心に無失点で時計の針を進めていたが、72分に失点を喫してしまう。MF中島翔哉のスルーパスに抜け出したMF肥田野蓮治にシュートを流し込まれた。
喉から手が出るほど欲しかった決勝ゴール。それを相手に与えてしまうことになったのは、自分たちらしい守備を100%で行えなかったから。
「なんでそんなに簡単にやられた?」ブローダーセンは岡山らしさが崩れていると感じ、ある行動に出た
浦和レッズ戦でプレーするファジアーノ岡山のスベンド・ブローダーセン【写真:Getty Images】
「セカンドボールを拾えなくて、相手の真ん中の選手(中島)がフリーになった。ディフェンスラインが少し崩れた形だったから、オフサイドになっていない。もしかしたらGKがもう少し前に出ていたら防げたかもしれないけど、良いシュートだったから防ぐのは少し難しい。あのタイミングと状況で、みんなが1秒くらい100%集中できてなかった。だから、僕もセンターバックもボランチも含めて簡単にやられてしまった。
(中島にボールが入る前の相手のクリア)ボールは高く浮いていたから時間があったけど、誰もちゃんと寄せられず、その後もみんながボールを見ているようだった。パスコースを閉じるとか、ディフェンスラインをしっかりと揃えて止めるとか、私の裏のカバーとか。そういうことができなかった。自分たちらしく100%で守備をしていたら、あのシュートは守れていたと思います」
チームとして初挑戦のJ1で開幕戦の勝利をキッカケに躍動し、第36節に自力で残留を決められたのは、簡単には失点しない粘り強い守備ができていたから。
個々人がディティールにこだわり、それぞれの考えを共有し、守備陣として意思を統一する。一見すると当たり前かもしれないが、必要なことを徹底し続けてきた。だから、肝を冷やすほどのピンチも切り抜け、勝利と勝点を積み重ねることができた。
そんなハイスタンダードが崩れてしまっているのではないか。そう感じたからこそ、試合終了後に相手チームとの挨拶を終え、ベンチに引き上げていく中で、一目散にディフェンスリーダーの田上のもとへ駆け寄った。
「失点のところをもう一回お互いで振り返った。『なんでそんなに簡単にやられた?あなたの意見はどうですか』と。もちろん私の意見も伝えたし、最後の試合で簡単な失点をもらわないようにすり合わせました」
勝利のために、守備をアップデートしていく。起こったエラーをGKのセービングで解決するのではなく、チームメイトとコミュニケーションを取り、良い関係性を築いた上で守備組織を向上させる。
GKを起点に“繋がり”を生み出すということは、岡山に来た2024シーズンから金山の一挙手一投足を見て学んだことだった。
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