「30代社員が足りない」7割 賃金・キャリア重視で流出

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「管理職候補者が少ない(50代、製造業)」「上下の世代の負担が増え、下の世代のモチベーションが低下している(40代、その他)」「上司と若手部下の年齢差が広がり、指導が困難になっている(50代、金融・不動産)」「世代交代ができない(40代、通信、IT・ネット)」「イノベーティブな発想・行動力が減退している(60代、小売り・サービス)」──。

日経ビジネス電子版の読者を対象に10〜11月に実施したアンケートでは、職場における30代社員の不足に苦悩する声が上がった。「あなたの会社や部署で30代は足りていますか」という質問に対し、「やや不足している」「かなり不足している」と答えた割合が67.3%と3分の2以上を占める。

30代は就職して10年前後の経験を積んでいる人が多く体力もあり、「脂が乗っている」世代。Z世代(1990年代半ばから2010年代初頭生まれ)の先輩で、Y世代(80年ごろから90年代半ば生まれ)やミレニアル世代とも呼ばれる。社内では幹部候補生、チームリーダー、若手のエースなどとされ貴重な戦力だ。

そうした30代が今、多くの企業で不足しさらには流出の危機にある。03年には1434万人だった30代の労働力人口は、23年には1193万人へと241万人も減った。一方、中高年の労働力人口は増加傾向にある。30代が全体に占める割合は03年に21.5%だったが、23年には17.2%まで落ち込んだ。

中途市場の拡大などに伴い転職率も上がっている。マイナビの「転職動向調査2024年版」によると、30代の転職率は新型コロナウイルス禍の影響で20年には落ち込んだものの、その後、上昇に転じ、23年は9.8%と過去最高となった。

この傾向は30代にとどまらず、Z世代の中核である20代ではさらに顕著だ。20代にとって30代社員はよきメンターであり、ロールモデル(手本)でもある。30代が流出すれば、20代も雪崩式に流出するリスクもはらむ。

さらに、30代は結婚・育児など多くの人がライフイベントを迎える。転職や辞職など会社を去るだけでなく、社内でも勤務時間の制約などからこれまでの部署から異動せざるを得ないなど、社内流出とも言うべき事態も起きている。

22年の国民生活基礎調査(厚生労働省)によると、30代は他の世代(20〜60代)に比べて「仕事」「育児」「家事」に関する悩みやストレスがある割合が一番多い。悩みやストレスがある割合自体も52.0%と、半数を超えている。共働き世帯が増加し、夫婦ともフルタイムで働くことが当たり前となっていることなどがその背景にある。

30代はワークライフバランスを考える一方で、将来を考え賃金やキャリアにおける成長なども重視する。本誌調査では会社に対する不満について「賃金・待遇」と回答した割合が66.7%と最も多く「人材配置」(61.1%)「人材育成」(50.0%)と続く。働く上でより重視するのは、お金と社会貢献のどちらを選んでもらったところ30代は72.2%がお金と回答、40代の58.0%に比べ多かった。

社員の高齢化が進む日本。一方、米国では30代が次世代リーダーとして活躍をしている。人口に対する30代の割合は日本の10.3%に比べ米国は14.0%。全世代で30代が最も多い(国連の中位推計、24年時点)。これでは、海外と伍していくにも将来が危うい。

30代は同世代との年収の違いが顕在化し始めることもあり、給与を理由に転職を検討する傾向が他の世代と比べて最も強い。子育てにお金が必要なため、金銭面の条件を重視するという面もある。その上でキャリア形成の価値観を見ると、「成長したい」という欲求がある一方で、「自分らしく働きたい」「生活を崩してまでは働きたくない」という意識も強い。今の30代は、日本特有の(年功序列や終身雇用を前提とする)メンバーシップ型雇用を背景に会社への帰属意識が高かった40代以上と、(人材の専門性を優先し職務を限定する)ジョブ型雇用などを前提に自分の市場価値を高めなければならない20代の狭間の世代に当たる。先輩の世代が持つ会社への帰属意識を一定程度理解しつつ、ネットで転職市場の情報を積極的に集めるなど若い世代の特徴も持つ。性別に関係なくキャリアを積むのが当たり前になり、夫婦のどちらかが仕事に全力を傾けることが難しくなったのもこの世代の特徴だ。優秀な30代社員を確保するために企業がすべきことは2つある。1つめは自社の給与テーブルや報酬水準が外部環境と比べてどの水準なのかを把握し、他社に負けないようにすること。2つめは、キャリアパスの中で「自分の市場価値が上がる」と感じてもらうことだ。挑戦する機会や、社員の市場価値が上がるプロジェクトを提供し、その人のキャリアプランにとって将来的に重要な意味を持つということを明示する必要がある。

以前のように管理職を目指すのではなく、専門性を生かせる職務に就きたいというニーズも高まっていくだろう。ジョブ型制度などで一人のプロフェッショナルとして活躍できる環境を用意するのも重要だ。(談)

(日経ビジネス 原田寧々、松本萌)

[日経ビジネス電子版 2024年11月25日の記事を再構成]

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