沖縄県北谷町で冬の3カ月だけ開業する食堂 こだわりの「すーちかーそば屋」 新潟・佐渡島と2拠点で郷土の味を提供

 新潟県の佐渡島と沖縄県北谷町で、季節によって交互に開店する食堂がある。

 「夕食堂」は春から秋にかけて佐渡島で営業し、冬の約3カ月間だけ北谷町吉原で営業するユニークな食堂だ。今シーズンは3月20日まで沖縄で営業した後、佐渡へ移り、今年の12月にまた沖縄に帰ってくる。店主の髙橋祐さん(42)こだわりのスープとスーチカー(豚肉の塩漬け)を合わせた「スーチカーそば」を、文字通り看板メニューにと、最近店名を「すーちかーそば屋」にした。 

 宮城県出身の祐さんは2007年に沖縄に移住し、沖縄市でイタリアンバル「夕食堂」を開いた。北谷町出身の裕子さん(39)と結婚し、3人の子どもが生まれ、沖縄での暮らしを築いていった。

 祐さんは幼少の頃、田植え前の水面の輝き、青葉が芽吹く山を見て、稲刈りの時期のにおいを感じながら育った。子育てをする中で「季節の移り変わりを五感で感じる人生を子どもたちにも体験させたい」と、沖縄から県外への移住を考え始めた。

 長崎県の五島列島や、香川県の直島などが候補に挙がったが、祐さんが最も引かれたのは佐渡島だった。裕子さんは「いきなり雪深い新潟になぜ?」と反対したが、祐さんの決意は固く、2018年に移住した。

 佐渡金山の世界遺産登録で昨年話題になった佐渡島はS字にくびれた形をしている。北側の山地・大佐渡と、南側の山地・小佐渡の間に国仲平野が広がる。田んぼの中を一直線に貫く道を日々通っていると、稲の成長が季節を知らせてくれる。国の特別天然記念物のトキも姿を現す。新潟県の中では雪も少なく、島の風景やのんびりした空気を、家族全員が気に入った。

 髙橋さん夫妻は飲食店で生計を立ててきたが、佐渡では需要があればやろうという姿勢だった。島の人たちと交流する中で、食材の豊かさを知り、洋食を提供する飲食店が求められていると感じた。祐さん自ら古民家を改装して「夕食堂」をオープンした。佐渡産の魚介や肉、野菜を使ったこだわりの洋食が評判を呼び、地元客をはじめ観光客、帰省客でにぎわう店となった。

タコライスの旗が店内へと誘う佐渡の夕食堂=新潟県・佐渡島
佐渡の夕食堂のレギュラーメニュー「魚介のオイルパスタ」(提供)

 佐渡の冬は厳しい。雪こそあまり降らないものの、冷たい強風が吹き荒れる。「冬だけ暖かい沖縄で暮らそう」。子どもたちが冬休みに入ると北谷の店舗兼住宅に引っ越し、沖縄で「夕食堂」を開くようになった。子どもたちは毎年3学期だけ、北谷町の学校に通い、佐渡と沖縄の両方で交流を楽しんでいる。

 沖縄で提供するのは、祐さんが研究を重ねた沖縄そばを中心としたメニュー。佐渡で沖縄そばが食べたい時に自作したことがきっかけでとりこになった。裕子さんの実家で食べたスーチカーに「塩で漬けただけでこんなにおいしいのか」と衝撃を受け、スーチカーと特製スープのそばを作った。「ベストを目指してまだ追求の途中」という。

沖縄の夕食堂のメニュー。最近店名を「すーちかーそば屋」に変更した

 ソーキそば、てびちそば、「麩~チャンプル定食」「ちきなーチャンプル定食」などの沖縄料理に交じって、メニューに並ぶのは佐渡産のコシヒカリおにぎり、リンゴジュース、日本酒だ。「佐渡のお米のおいしさをぜひ知ってほしい」と、契約農家から直接買い付けた270キロの米を、佐渡から車に載せて運んできた。おにぎりは粒が立っていて喉ごしがいい。テイクアウトもできる。

佐渡産コシヒカリおにぎりやちんすこうを並べている商品台=北谷町吉原

 祐さんは「洋食から沖縄料理に変えても喜んでくださる沖縄のお客さま。冬の3カ月間店を休んでも、再開時に『待ってました』と来てくれる佐渡のお客さま。支えられてこの『ちょっと変わったぜいたく』ができている」と感謝する。

 沖縄の味を佐渡へ、佐渡の味を沖縄へ。来シーズンも2拠点生活で豊かな食を提供する。 (出版コンテンツ部・城間有)

黄色い建物が目印の「すーちかーそば屋」。店主の髙橋祐さんと妻の裕子さん。春~秋の間、店舗を借りてくれる人を募集中=2025年3月5日、北谷町吉原

すーちかーそば屋(夕食堂) 北谷町吉原883 沖縄での営業は3月20日まで無休 営業時間11:30~16:00 電話070(9146)0490

最新情報はインスタグラム https://www.instagram.com/sadoyuushokudou/ 

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