【コラム】中国の反発は演出、より戦略的な動きこそ注意-リーディー

中国の当局者はしばしば「歴史を鏡とする」と語り、過去の教訓を現在の行動指針に用いる。

  日本と中国の関係が緊張している今、日中が国連やトランプ米大統領に向けて自国の見解を競って発信する中で、日本は同盟国と共にまさに歴史を鏡として行動すべきだ。

  台湾有事の際に日本に影響が及ぶ可能性について高市早苗首相が言及したことに反発した中国は、高市氏の首を「斬ってやる」などとSNS上で非難し、日本産水産物の輸入停止や2026年まで続く旅客便減便に加え、軍事行動を示唆するような動きにも出ている。

  なぜこれほどの過剰とも言える反応が起きたのか疑問の声が上がっている。中国政府は国際的な影響力を誇示する機会と見なしている可能性があり、これは24日に行われた習近平国家主席とトランプ氏の電話会談でも顕在化した。

  今回の一件は、中国経済への懸念から自国民の目をそらすためのものだと疑う声や、首相就任からわずか1カ月余りの高市氏の覚悟を試していると見る向きもある。

  政治的な演出はさておき、中国が自ら統治しなければならないと主張する台湾を巡る問題が、習氏にとって譲れない一線であることは間違いない。

  だが、第2次世界大戦後の歴史が示す通り、こうした出来事の内容自体はそれほど重要ではない。今回の騒動は、規範を再定義し中国の立場を確立するためのパフォーマンス的な枠組みの一部だ。結局のところ、日中関係とは、歴史と、歴史を両国が自らの目的のためにどう用いるかに尽きる。

  このような事態はおなじみのパターンで展開する。まず、中国が、実際か否かを問わずに日本側による何らかの侮辱と断じたものに反応する。正式な抗議や国営メディアの論説から、時に暴力的な抗議行動、明示的あるいは暗黙の貿易禁止措置に至る多様な手段に訴える。

  その後、日中関係は数カ月、時には数年冷え込むが、緊張緩和の機会が探られる。世界的なサミットの傍らでデタント(緊張緩和)が提示され、休止していた2国間あるいは多国間の協議が再開される。そして、また同じパターンが繰り返される。

  中国当局者や国営メディアによるコメントの大洪水、さらに日本を侵略者として描こうとする大量のSNS投稿を目にすると、現実を見失いがちだ。

変わる基準

  直近で関係が悪化した例を考えてみよう。2023年だ。この時は東京電力福島第1原子力発電所の処理水海洋放出を巡り、日中間の緊張が高まった。

  中国側は日本が処理水を放出した太平洋を「私的な下水道」として使っていると非難し、中国メディアの漫画では当時の岸田文雄首相を、核兵器を海に投下する神風特攻隊のパイロットとして描いた。

  外交的な往来は中止され、科学的根拠のない水産物輸入禁止が行われ、反日感情とボイコットがあおられた。その後、対中関係改善を重視する石破茂氏が首相になると、出口が模索された。

  こうした流れは示唆に富む。処理水を巡る中国の懸念に正当性がほとんどなかったのと同様に、高市政権下で「日本の軍国主義」が復活するとの見方にも実質的な理由はない。

  教科書問題も1980年代以来、何度も中国政府を刺激してきた敏感なテーマだ。そのたびに、中国は日本が戦時中の残虐行為を矮小化し、戦争責任を薄めていると道義的な憤りを示す(問題となった教科書は、ごく一部の学校でしか使われていなかった)。

  中国は、日本が歴史と向き合わないと主張し、ボイコットをちらつかせ、関係を断つと警告する。靖国神社も、中国が長く反発する口実となっていた。2000年代の小泉純一郎首相(当時)による靖国参拝は、日中関係悪化の原因としてしばしば引き合いに出されてきた。

  その理屈では、小泉氏が参拝を控えれば中国側の不満は解消され、関係は改善に向かうとされた。だが、これは本質を見誤っている。靖国参拝は火種をあおる機会であり、理由ではなかった。

  小泉氏が参拝しなかったとしても、別の不満が生み出されていただろう。実際、首相による参拝が12年間途絶えていても、日中関係が常に緊張していることがそれを示している。

  一方で、反応が鈍かった例もある。21年に当時の菅義偉首相が台湾を「」と呼んだ際の中国側の対応は比較的控えめだった。中国は抗議したものの、日本政府が発言を撤回しなくてもエスカレートしなかった。

  日本が今年、閣議決定した戦後80年談話を出さず、戦争責任について改めて謝罪しなくても問題は起こらなかった。日本は反省が足りないとの主張が頻繁に持ち出されるが、その基準は常に変動し、日本が何を示しても十分とはされない。

  日本政府が22年に国家安全保障戦略で中国を「最大の戦略的な挑戦」と明確に位置付けた際も、強い表現の論説こそあったが、激しい応酬には発展しなかった。

  また、トランプ氏よりはるかに明確な表現で台湾防衛を約束したバイデン前米大統領の発言でも、「斬首」を示唆するような威嚇はなかった。これらの場合、中国はより大きな戦略的もしくは国内的な目標を見据え、緊張を高める機会を看過する。

  もちろん、日本も対外関係を自国の目的に利用する。靖国参拝の小泉氏は典型的な例で、中国に過去との向き合い方を決めさせない姿勢を貫いた。強いリーダーを演出したい政治家は、中国の要求に屈しないことで容易にそれを示せる。

  高市氏は今、まさにそうしており、世論調査も現時点では同氏の立場を支持している。トランプ氏も25日の電話会談で、高市氏との関係を再確認したようにみえる。

  中国にとって、日本政府は脅すことができるからこそ有用だ。日中戦争では、旧日本軍が多くの残虐行為を行っており、過去の亡霊を呼び起こして脅しをかけるための根拠となる。

  一方で日本は中国をいらだたせる存在でもある。中国のトップとなった習氏は、中国共産党を米国と並ぶ第2次大戦の勝者として位置付けてきたが、共産党が中国大陸で政権を握ったのは日本の降伏から4年後だ。

  学校教育を通じて反日感情を1世代以上にわたり植え付けてきた中国は、時に圧力弁を開放する必要があるのかもしれない。反日感情は中国の台湾に対する主張を補強する役割も果たす。

  足元の騒ぎに目を奪われるより、より広い戦略的動きに注意を払うべきだ。

  緊張の時期を経て、中国はしばしば沈黙し、世論の関心が他へ移る間に、中国海警局の機関砲を搭載した船舶を日本の領海に侵入させるといった、異常な状態を既成事実化する動きを進めてきた。

  歴史は確かに有用な鏡だ。しかもその鏡は、双方向に作用する。 

(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)   

原題:China’s Anger at Japan Is Political Theater: Gearoid Reidy(抜粋)

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