サーバーを水ゼロで冷やせる技術で、もっとデータセンターを作れるようになる
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長谷川賢人 ( GIZMODO編集部 )次の焦点は「冷却」ですね。
ChatGPTに質問したり、画像生成AIで遊んだりするたびに、どこかのデータセンターのサーバーが熱くなっています。そして、その熱を冷やすために、また電力が使われている…。
今のデータセンターは、AIモデルを動かすチップを冷やすだけで、全消費電力のおよそ3分の1を使っているそう。しかも、冷却用の水まで大量に消費する。
そんな地球環境まるっと大喰らいなデータセンターを何とかしようと、MITの研究者たちが立ち上げたスタートアップが次なる打ち手を見いだしました。
サーバーを特殊な液体に丸ごと浸して冷やす技術です。
「原子炉の技術を応用しよう」
image: Ferveretスタートアップ「Ferveret」が開発した冷却技術は、サーバーを特殊な液体に浸すことで、ファンからの空気よりもはるかに効率的に熱を吸収できる仕組みです。
共同創業者のReza Azizian氏は、2017年に初めてデータセンターを訪れたとき、大量の巨大なファンが轟音をたてて回っている光景に驚いたそうです。「空冷はいまだにデータセンターの電力の40%を食うことがある。50年前の技術なのに、誰も気にしていなかった」。
そこで彼は、MITで原子炉の熱伝達を研究していた間柄のMatteo Bucci氏と共に、そこで培った知識をデータセンターへ持ち込みました。
着目したのは冷やし方。そもそも液体は、空気よりも熱を奪う力がずっと強いものです。室温20度の部屋にいるのと、水温20度のプールに入るのとでは、体が感じる冷たさって、まるで違いますよね。
そして、熱いものを液体に入れて冷やそうとすると、液体の表面には「小さな気泡」が次々と発生します。この気泡が熱を素早く運び去り、すぐに液体へ戻る。つまり、この気泡の出入りが速ければ速いほど、チップをどんどん冷やせるわけです。
Ferveretが開発した「Adaptive Phase Cooling(APC)」は、ほかの液冷システムよりも極小の気泡をチップ表面に発生させ、高頻度で離脱させることで熱伝達をより速めます。これは原子炉で用いられる「過冷却沸騰」と呼ばれるプロセスを応用した手法なのだそう。
丸ごとドボン技術は昔にもあったけど…
そもそも「液体に浸して冷やす」という発想は、自作PC界隈では昔からありますよね。
マザーボードごとミネラルオイルの水槽にドボンと沈めてオーバークロックするのは、ガジェット好きの「ロマン枠」として長年親しまれてきた手法です。
油は電気を通さないのでショートせず、空気より熱伝導率が高いので冷却効果もある。ただ、メンテナンスのたびに油まみれになること、長期運用でのパーツ劣化リスクがあること、そして結局は「冷却よりロマン」の工作コンテンツという域を出なかったのが正直なところです。
企業レベルでは、化学メーカーの3Mがフッ素系溶剤の「Novec(ノベック)」という高性能な誘電体液体を開発し、データセンター向けの液浸冷却として一時注目されました。
ところが「NovecはPFASを含む」として環境規制が強まり、3Mは2025年末をもってNovecを含む全PFASの製造を終了。業界に「次の液体はどうする?」という空白を残しました。
image: Microsoftちなみに変わり種として、Microsoftはスコットランド沖の海底にコンテナ型のデータセンターを沈める「Project Natick」という実験を2018年から2年間実施しました。
海水で冷やすというアイデアで、陸上サーバーの故障率が5.9%だったのに対し、水中サーバーはわずか0.7%と大幅に低い結果が出たのですが、実用化には至らず…。現在は事実上休止状態です。「海底にサーバーを沈める」は、さすがにスケールしませんでした。
こうした試行錯誤の系譜を見ると、Ferveretのアプローチが面白いのがよくわかります。「浸す」という発想自体は新しくない。でも「どんな液体に、どう浸すか」という観点に、原子炉研究から持ち込んだ気泡制御の工夫が入ることで実用レベルに届いたわけです。
なお、こういった「ドボン系」の液浸冷却技術そのものは、今やFerveretだけの話ではありません。Submer、GRC、LiquidStack、Iceotopeといったプレイヤーが市場に参入していて、業界全体で急速に広がっています。日本でも富士通が取り組んでいますね。
そんな競合がひしめく中で、Ferveretは原子炉研究から持ち込んだ気泡制御の高い精度と、水ゼロで使える組み合わせがアピールポイントです。
同じ電力で35%もトークンが増える
image: Ferveretシステムはサーバー1台分のモジュール型ボックスとして提供され、既存のラックにそのまま組み込める設計になっています。
大きな水槽にドボンと浸けるのではなく、一つひとつのサーバーにフィットする小型サイズ。導入のしやすさも考えられています。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校との共同研究によると、Ferveretのソリューションは最先端の液冷システムと比べて、計算電力効率が15%向上したことが確認されています。
さらにFerveretの電力制御ソフトウェアと組み合わせると、同じ電力でAIモデルから35%多くのトークンを得られるとのこと。つまり「同じ電気代で、AIがより多く答えてくれる」ということです。
しかも水を一切使わないのが大きな特徴で、砂漠や水資源の乏しい地域にもデータセンターを建てられる可能性があります。
「アフリカ、中東、アメリカの一部といった、太陽光が豊富でも水がない場所にも、これまで建てられなかったデータセンターを置けるようになる」とBucci氏。再生可能エネルギーと組み合わせられるとすれば、AIの電力問題にとっても大きな一手です。
すでにCleanSpark、FuriosaAI、Switchといったデータセンター関連企業との実証試験が進んでいて、NVIDIAのスタートアップ支援プログラムにもFerveretは参加しています。
Ferveretに限らず、こういったデータセンターの液浸冷却技術は研究が進められていますから、さらなる方法も生まれてくるでしょう。AIはこれからも電力を食い続けます。でも「冷やし方」を変えるだけで、同じ電力からもっと多くを引き出せるなら、それはかなり賢い選択のはず。水はみんな必要ですし。
Source: MIT News, 3M, Microsoft Project Natick, Microsoft Source, Puget Systems ,Fortune Business Insights