倉重篤郎のニュース最前線 石破茂前首相、熱論100分 自らの政権総括、高市政権への諫言
広島・長崎から80年所感まで、一連の歴史認識文書に達成感
2026年は過去の過ちを繰り返さない年にせよ
石破茂政権から高市早苗政権への移行は日本社会の歴史的な転換点であろう。歴史観に裏打ちされたリベラル保守政治が、統制型の右派執政に変わったとも言えるが、石破前首相はこの時代の変転をどう捉えているのか。同時代への洞察と自省が底光りする、必読インタビュー100分。
首相経験者の役割とは何か? いろいろあるだろう。
郵政改革に政治生命を賭け、「人生いろいろ」と言った小泉純一郎氏は、首相退任後、反原発に目覚め、原発がいかに安価でなく、クリーンでもなく、何よりも「トイレのないマンション」(放射性廃棄物の捨て場がない状況)であることを訴え、全国行脚した。1年足らずの任期で選挙制度改革を成し遂げた細川護熙氏は、政治家であった過去を投げ捨て、作陶の世界に弟子入りし、轆轤(ろくろ)回しの職人として新たな人生を歩み、書家、画家のキャリアも加え、アートの人となった。
いずれも見事な転身ぶりであったが、やや異例のコースとも言えよう。通常は、政治生活の延長線上で、首相在任中に得た知見、経験、人脈を使って、後世のためにその政治的影響力を行使する、という形を取ることが多い。
福田赳夫氏は、シュミット元独首相らとOBサミットを組織して、環境問題から戦争、核問題、貧困など国境を超えたあらゆるテーマについて、国際社会に提言し続けた。中曽根康弘氏は、「国際政治の球拾い」役を自ら任じ、世界平和研究所というシンクタンクを作り、100歳を超えるまで、国際問題に関する知見の発信をやめなかった。
言うまでもなく、首相(内閣総理大臣)は、国の最高権力者である。国務大臣の任免権を持ち、行政権を一手に掌握、司法に対し最高裁長官の指名権を有する他、党首としては公認権を通じて政権与党を掌握する。専権事項として衆院の解散権も握る。多くの政治家が目指すものの、誰もがなれるわけではない。選びに選び抜かれ、かつ、時の運と地の利と人の和に恵まれたごく少数の者が手にする王冠のようなものである。
それだけに、首相経験者たちは、自らの幸運を改めて噛み締め、自らがその地位で体得したものを、その機を与えてくれた相手に返さなければならない。相手とは国民である。間接民主制とは、国民がその持てる権利を、選挙により国会議員に負託、その国会議員がまた選挙で首相を選ぶこと(首班指名)により、間接的に国民の権利を負託、集約するシステムである。最高権力者の権限は国民の負託を根拠にしている。得た富は知的、物理的にかかわらず、国民に還元するのが筋とも言えよう。その観点に立つと、現在なお政治活動をしている首相経験者たちに求めるものは大である。
この稿では、最も新米の首相経験者を俎上(そじょう)に上げたい。石破茂前首相である。この欄で何度も扱ったが、多くの期待を背負いながら、応えきれず1年でその座を去った人である。ただ、最後は粘り腰で、節目の年に相応(ふさわ)しい、石破氏らしい戦後80年所感を内外に発信した。これまでの首相談話にはなかった、あの戦争を防げなかった国内的システム(文民統制、議会、メディア)の不全に踏み込んだ、現在にも鋭い警鐘を鳴らすメッセージであった。各界45人のメッセージからなる新刊『私の戦後80年、そしてこれからのために』(岩波書店)に石破氏は、戦時期日本の加害責任と、戦後復興を支えたアジアの寛容に言及しながら、歴史の中の責任とは何かを探る一文を寄稿している。
小欄としては、石破氏に対しては、その所感の高みに立った、リベラル保守の立場からの闊達(かったつ)なる言論活動を望みたい。もともと自民党内で党内野党と言われ、時の政権への歯に衣(きぬ)着せぬ言動が売りであった人である。ブレーキ役の公明党がいなくなり、右旋回を続ける自民党の中では、ますます希少価値が出てきたともいえる。最高権力者1年の経験を踏まえ、よりグレードの高い発信ができるはずである。年の瀬の一時、現行政情の見立てと、政権総括をしていただいた。
日中関係、どう見る?
「なかなか抜き差しならない局面になってきたと思っている。私の在任中は、トランプ関税、TICAD(アフリカ開発会議)の対応があり、対アジアでは、李在明(イ・ジェミョン)韓国大統領と3回会談した他、ベトナム、フィリピン、マレーシア、インドネシア等の東南アジア外交にウエートを置いた。対中国は、就任直後のG20で習近平国家主席と面談した後、与党外交に一定程度をお任せした。森山裕(自民)、西田実仁(公明)の両幹事長にそれぞれ努力して頂いた」
「中国とはホットラインが機能するようにしようと、私と習主席、あるいは李強総理と電話一本でいつでも話ができる関係を作りたいと思っていた。明示的合意には至らなかったが、体制はできていると思う」
「高市総理(の台湾有事)発言については、今後一層のあいまい戦略が必要だと思っている。台湾やその周辺で戦争が起きて得をする国はどこにもない。トランプ大統領もバイデン時代の教訓を経て、またあいまい戦略に戻っている。トランプ氏が『ピース(平和)』を強調するのは、お花畑的平和愛好者だからではなく、戦争は結局損をする、商売にもならないと思っているからだ。中国だって台湾を焼け野原にしてしまえば損をする。米国と戦争して得るものも少ない。もちろん、台湾自身も望んでない。合理性で考えれば、やる必然性はどこにもない」
「ただ、メンツや順番は死活的に重要だ。第一次世界大戦はサラエボでオーストリアの皇太子が暗殺された、あの一発が原因となったが、その時は誰も世界大戦になるとは思わなかった」
なぜ「減税より給付」と訴えたか
米国の歴史家バーバラ・タックマンが『八月の砲声』(1962年)で、その経緯を詳細に検証、ケネディ元大統領も愛読していた、という。
「まさにそうだ。あくまで偶発的なことで、こんなはずではなかった、ということで戦争が起こる。第一次大戦勃発直前、英独では、史上最も活発といえる経済交流が行われていた。だから経済が緊密なら戦争が起きないということもなくて、むしろ、こんなことで起こるなんてということがはるかに多い。そういう偶発的な戦争を防ぐためにはホットラインを機能させることだ」
どうしたらいい?
「お互いに表で言えることや重んじるべきメンツ、国内事情があるから、まずは信頼できるバックチャンネルを作ってはどうか。そして、日本として戦争なんて全く望んでいないということを粘り強く伝えるべきだ。高市総理の発言には、抑止力を強化する意図もあったのだから、撤回することが国益になるとはあまり思わない」
中国戦闘機の自衛隊機へのレーダー照射問題は?
「軍事常識としては、ロックオンに直結するレーダー照射はかなり危険な行為であるということだし、それ以上に国際常識として無礼な行為だ。しかし、これをどう扱うかは、現在の日中関係全体の中のバランスを見ながら考えるべきだ」
関係修復に向け政治決着が必要な局面ではないか?
「田中角栄政権で日中国交回復が実現した時、橋渡し役として動いてくれたのが公明党だった。当時の竹入義勝委員長はもういないし、公明党は連立離脱しているが、トップ同士で一度は会われているのだから、あらゆる資源を最大限に活用すべきだ。OBも含めて、自民党にも中国に信頼されている立派な政治家はいる。中国と対話を積み重ねていこうという人たちを、媚中(びちゅう)派と切って捨てるような一部の論調が、政権の足を引っ張っている」
首相経験者の役割では?
「対中関係の改善では岸田文雄元総理が大変ご尽力された。現状を少しでも改善できる人がいるとすれば、その活用も考えるべきではないか」
頼まれたらどうする?
「お国に頼まれたら、それは誰であれ受けなければならないものだと思う」
積極財政論どう見る?
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