トランプ大統領、米東海岸の洋上風力5件をめぐる訴訟で全敗: そもそもはトランプの「私怨が発端」との指摘も

電力需要の逼迫が懸念される中、トランプ政権は2025年12月、米東海岸で建設中の洋上風力発電所5件すべてに停止命令を出した。国家安全保障上のリスクが名目だ。しかし連邦裁判所は、2026年2月までに5件すべてで命令を違法と判断し、建設再開を認めた。大統領の洋上風力嫌いと、化石燃料業界の構造的な影響力が背景にある。数週間の停止で企業の損失は1日あたり数百万ドルに達し、そのしわ寄せは、環境弱者に押し付けられる。(在テキサス編集委員・宮島謙二)

トランプ大統領は、2025年1月20日の就任直後に、連邦海域での風力発電事業へのリースを全面停止した。「エネルギー緊急事態」を宣言したにもかかわらず、供給を促進するエネルギーの対象から風力発電と太陽光発電を外した。 同年12月8日にマサチューセッツ州の連邦地裁がこの措置を「恣意的かつ気まぐれであり、法に反する」と無効にした。だが、わずか2週間後の12月22日、トランプ政権は国家安全保障上のリスクを盾に、建設中の5件すべてに90日間の停止命令を出した。 対象となったのは次の5件だ。 ・バージニア州沖のCVOW(米ドミニオン・エナジー社) ・ニューヨーク州沖のエンパイア・ウィンド(ノルウェーのエクイノール社) ・ニューヨーク州沖のサンライズ・ウィンド(デンマークのオーステッド社) ・ロードアイランド州沖のレボリューション・ウィンド(オーステッド社) ・マサチューセッツ州沖のビニヤード・ウィンド(米アバングリッド社) 発電容量の合計は約5.8GW、総投資額は約250億ドル(約4兆円)に上り、完成すれば約250万世帯に電力を届ける。

これに対し連邦裁判所は、2026年1月12日にレボリューション・ウィンド、15日にエンパイア・ウィンド、16日にCVOW、27日にビニヤード・ウィンドと、次々に停止命令を覆し、2月2日のサンライズ・ウィンドでトランプ政権の5件全敗が確定した。 ジャマー・ウォーカー判事は、「政府が挙げたリスクは風力発電所の運営に関するもので、建設作業には該当しない」と指摘した。 米国ではエネルギー政策が「文化戦争」の一部になりつつある。 米シンクタンクのピュー・リサーチが実施した2025年の調査で、共和党支持者の67%が化石燃料を優先すると回答した。2020年の第一次トランプ政権時には逆に65%が再エネ優先だった。エネルギーの選択が、政策ではなくアイデンティティとなる国で、党派を超えた司法が歯止めをかけた意義は大きい。


Page 2

停止期間中の開発企業の損失は深刻だった。 CVOWは1日500万ドル(約7.9億円)以上を失い、26日間の停止と関税の影響で総事業費が108億ドル(約1.72兆円)から115億ドル(約1.82兆円)に膨らんだ。 ビニヤード・ウィンドは1日200万ドル(約3.2億円)、サンライズ・ウィンドは1日250万ドル(約3.96億円)の損失を計上した。エクイノールは、2025年4月のエンパイア・ウィンド停止で約10億ドル(約1570億円)の減損処理を迫られた。 こうした追加コストは電気料金として消費者に跳ね返る可能性が高い。

ハーバード大学のアンドリュー・マーゲン教授は、この経緯を政策論争ではなく個人的復讐と分析する。 トランプの風力発電嫌いには明確な起源があるからだ。2006年、スコットランド東部のアバディーンでゴルフコースを開発した際、海上に計画された風力タービンが景観を破壊するとして、トランプ氏は猛反対した。英国最高裁は、2015年に全員一致でトランプの訴えを退け、発電所は2018年に稼働を開始した。

ここに化石燃料業界の影響も重なる。 非営利の消費者権利擁護団体であるパブリック・シチズンは、報告書でテキサス州の石油系富豪が政権の要職に人材を送り込む構図を明らかにした。 例えば、洋上風力の建設停止命令に署名した海洋エネルギー管理局のマシュー・グラコナディレクター代行は、石油業界団体の元ロビイストだ。 トランプの個人的な怨恨と業界の利益が一体となって、国のエネルギー政策を動かす構造は、米国政治の暗部を映す。 (この続きは) ■AI時代に逆行するトランプのエネルギー政策 ■風力発電を止めればそのしわ寄せは環境弱者に ■世界に遅れをとる米国 ■反気候変動政策で世界に遅れをとる米国

関連記事: