トランプ経済に下振れの予感、減税より関税が先行-1期目とは逆

米経済の成長加速を掲げていたトランプ大統領が就任早々、関税や不法移民の強制送還などに関する大統領令を矢継ぎ早に打ち出していることで、経済への影響を分析するエコノミストの間では予想を見直す動きが出始めた。成長に対するリスクの方が先行して顕在化し、恩恵が受けられるのは早くても来年以降になるとの慎重な見方が出ている。

  トランプ氏はカナダやメキシコに対する25%の関税(1カ月の発動先送りで合意)や中国に対する10%の関税(予定通り1日発動)を相次ぎ打ち出したほか、不法滞在者の強制送還も加速させている。9日には全ての鉄鋼とアルミニウム輸入に対して25%の関税を課す方針を明らかにした。またイーロン・マスク氏が率いる「政府効率化省(DOGE)」は、政府機関のスリム化を進めている。

  こうした動きは、それぞれ短期的に成長を抑制する可能性が高いとみられている。何より、持続的な追い風を提供するとトランプ氏のチームが話している減税や規制緩和よりも、優先で実施されている点は注目に値する。これは第1次トランプ政権とは逆の展開だ。1期目では、共和党主導で2017年に大型減税を成立に導き、貿易戦争が勃発している時期に減税の効果が出始めた。

  シティグループのグローバルエコノミスト、ネイサン・シーツ氏は、就任後数週間の動きを受けてトランプ経済に関する見方を再評価し始めたエコノミストの一人だ。「関税に関するトランプ大統領の姿勢は、予想以上に強硬かつ厳しい内容だ」とシーツ氏。2025年は「経済が打撃を受け、26年には景気刺激的なものが幾分出てきてその影響を相殺する」といったシナリオを想定している。

  国際通貨基金(IMF)の元チーフエコノミスト、モーリス・オブストフェルド氏(現ピーターソン国際経済研究所シニアフェロー)は、公約に掲げていた成長促進政策はいずれも時間と労力がかかるが、関税の引き上げ、不法移民の強制送還、連邦職員の削減はより容易だと就任早々にトランプ氏が判断したことを示唆していると指摘。その上で「何かを創造するよりも、破壊する方がずっと簡単だ」とし、「破壊は景気収縮的だ」と述べた。

  その上で、混乱が収まるまで企業が投資を保留することが大きなリスクになるとオブストフェルド氏は指摘。第1次政権でも、トランプ氏が関税を相次ぎ発動すると、企業は投資に対して様子見姿勢になったと話した。米通商政策の不確実性に関する指標の1つは、第1次トランプ政権時をはるかに上回る水準に達しているという。

Trade Policy Uncertainty Index

Source: TPU Index

  JPモルガン・チェースのエコノミスト陣は3日付のリポートで、おそらく意図せずして「政策ミックスが企業に優しくない方向に傾いているリスクがある」と述べている。同行のチーフエコノミスト兼グローバル経済調査部門責任者、ブルース・カスマン氏は関税だけが懸念事項ではないと指摘。不法移民の強制送還は25年の米成長率を0.5ポイント下押しする恐れがあるほか、連邦政府の契約業者に対する最大1兆ドル(約152兆円)の支払いが打ち切られれば、経済に重大な影響を及ぼし得るとした。カスマン氏もシティのエコノミスト陣と同じく、米成長見通しが引き下げられる可能性は数週間前より高まっていると指摘した。

  法人減税や規制緩和といったトランプ氏が掲げる成長促進策の実現はまだ先になりそうだ。上下両院の多数派を僅差で握る共和党は、トランプ氏が求める減税をどのように実現し、財源をどう手当てするかについて、まだ検討を始めたばかりの段階だ。そのため企業や家計の支出計画に減税の影響が表れるのは早くても来年以降になるとの見方が出ている。

原題:Front-Loading Tariffs Undercuts Trump’s Pledge of Faster Growth(抜粋)

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