「スマホが前提なんて…」行きつけ飲食店を失ったシニアも セルフレジに「戸惑う」
スーパーや量販店で客が自ら操作する「セルフレジ」が広まっている。飲食店でも、客自身がスマートフォンでQRコードを読み取ったり、タブレット端末で入力したりして注文するタイプが増加。効率的で利便性に富むが、電子機器に不慣れなシニアには負担に感じる人は少なくない。デジタル化が加速する中、人と人の「対面」の大切さを訴える声もある。
スマホ利用が前提
「操作方法が分からないと店員さんを呼んでいる。申し訳なさもある」
こう語るのは、東京都練馬区に住む77歳の女性。店頭でセルフレジを使う際、自分の後ろで利用客が待っていると「迷惑をかけたくないという焦りで戸惑ってしまう」という。
「ガラパゴスケータイ(ガラケー)」と呼ばれる従来型の携帯電話ユーザーの女性(81)=東京都中野区=は、行きつけの飲食チェーン店がスマホでQRコードを読み取って注文するスタイルになり、足が遠のいてしまった。
「世の中、スマホを持っていることが前提につくられているようで生活しづらい。ガラケーを使うのが精いっぱいなのに…」。テーブルのタブレット端末で注文するタイプの飲食店でも、視力の低下で細かな操作に苦労している。「操作が難しいし、見づらい。紙のメニューを置いてほしい」という。
半数超の店が導入
決済代行を手がけるSBペイメントサービスが今年1~2月に行った調査によると、店舗でのセルフレジ導入率は55.5%に上っている。
東京都内に複数の店舗があるスーパー「アキダイ」では、新型コロナウイルス禍を機に一部の店舗でセルフレジを導入した。中村橋店(練馬区)の大竹次男店長(57)は「初期コストがあまりかからず、レジに配置する人数を減らすことができた」と利点を説明する。
ただ、高齢の利用客には電子機器に不慣れな人もいる。レジ近くには目立つように大きな文字で、《お釣りをとったらレシートがでます!》という注意書きが掲示されている。大竹さんは「特に導入当初は、操作に慣れない高齢者に従業員が寄り添い、最大限のサポートをした」と振り返る。
あらかじめ検証を
大手シンクタンクの日本総合研究所でシニアの社会参加などを調査する高橋光進研究員は「企業は高齢者が慣れる前に、セルフレジなど非対面のサービスにかじを切ってしまった」と指摘する。
コロナ禍で早急に非対面サービスを導入せざるを得なかった面はあるが、サービスの向かう方向と、新技術に抵抗感や不慣れさを覚えやすいシニア世代に生じたギャップを解消することは喫緊の課題だ。
高橋氏は「モニターテストで高齢者でも使えるのかどうかをあらかじめ検証してサービスを導入するなど、ユーザーの意見を重視すべきだ」とした上で、「人による直接的な支援が最も大切だ。企業側には、シニアに寄り添う姿勢が求められている」と話している。
外食店でのスマホ注文、60代の利用経験は半数程度
飲食店などで、客自身のスマートフォンを使っての注文を利用した経験はシニア世代ほど少ない。
外食市場の調査などを手がける「ホットペッパーグルメ外食総研」が今年8月、20~60代の男女約7500人を対象に行った調査によると、外食店で、QRコードを読み取るなど客自身のスマホで注文するスタイルを利用したことがある割合は、60代女性で53.1%とほぼ半分だった。20代の87.0%に比べ、かなり低い。男性も傾向は同じで、20代が77.5%に対し、60代は56.8%にとどまっていた。
すべての世代でみると、67.5%が自身のスマホでの注文を利用した経験があり、令和3年の26.0%から急増していた。コロナ禍でスマホを活用したスタイルの導入が加速・普及したことに加え、深刻化する人手不足も相まってデジタル化が進んでいる。(佐藤侑歩)