クモのように糸を紡いで、状況に合わせて自分の体を作り出す最先端のロボットが誕生!

この画像を大きなサイズで見るMarie Vihmar et al Credit: Authors, CC-4.0

 最先端のロボットは状況に応じて自分の体をその場で糸を紡いで作り出すというニュータイプだ。

 このロボットはあらかじめ決まった姿形を持っていない。その場に合わせて自分で紡ぎ出すのである。いわばクモが巣をつくるような感じなのだ。

 これはロボットが遭遇する環境の「予測不能性」に対処するためのアイデアで、不定形のボディを持つことであらゆる状況に柔軟に対応することを可能にするという。

 ChatGPTなど、大規模言語モデルをベースにした昨今の生成AIは、様々な状況にかなり柔軟に対応できる。

 人間なら思わず答えに屈するような質問でも、即座に的確な答えを返してくるのだから、その臨機応変ぶりには脱帽だ。(時にシレっと嘘をつくこともあるが)

 だが、そうした頭脳を搭載することになる機械の体はどうだろう?

 現在はヤギドブネズミのような四足歩行ロボットから、人間のような自然さを再現した二足歩行ロボットまで、さまざまな形状のロボットが開発されている。

 だがそれはあらかじめ設計されたもので、一度組み立てられれば基本的にはずっとそのままの姿だ。

 そうしたボディデザインは、使用が想定されている環境内では最適だろう。だが、もし設計者が予想もしなかった環境に遭遇してしまったらどうだろう?

 きっとそのボディデザインが足を引っ張り、本来の性能を発揮できなくなってしまうはずだ。

 予測不能な環境にでも対応できるボディデザインを目指して考案されたのが、今回のクモの巣がヒントになったというロボットのコンセプトだ。

この画像を大きなサイズで見る紡ぎだされたロボットの糸のようなボディパーツ Marie Vihmar et al Credit: Authors, CC-4.0

 エストニア、タルトゥ大学の研究チームが考案したアイデアは、加熱されたポリマー溶液を射出するというもの。すると溶液が冷えて細い繊維に変化し、まさにクモの糸のごとく広がり、周囲に付着する。

 合成クモの巣は周囲の環境に応じて自由に形状を変え、ロボットのボディやツールの役割を果たす。それはある意味、ボディと周囲の環境を一体化してロボットを運用するようなものだ。

 実験では、ボディデザインが固定された普通のロボットでは対応が難しいだろう複雑な環境であっても、合成クモの巣を柔軟に運用できることが実証されている。

 それを利用すれば、断崖絶壁があろうとも自ら橋を渡すことができるし、鋭利なガラスが散乱していようと、柔らかな鳥の羽が敷き詰められていようとへっちゃらだ。

この画像を大きなサイズで見る合成ポリマー溶液を加熱し糸に変え、状況に応じて体を作る Credit: Marie Vihmar et al , CC-4.0

 またロボットが自らの”手”を紡ぎ、繊細な花をそっと摘むといった、”硬い”ロボットではありえないような器用さも発揮したという。

 しかも合成クモの巣は、物体の形状・材質・まとまりなどに関係なく、ほぼあらゆる面にくっつく。

テフロン・油を含んだスポンジ・ワックス質におおわれた植物の葉など、接着が難しいような表面であっても問題ない。

 その接着力の秘密もまた、クモの巣と同じ。物理的な粘着力と、機械的な絡み合いの両方の力でくっつくことなのだそうだ。

この画像を大きなサイズで見る蜘蛛の糸の仕組みを応用したポリマー繊維を使い、その場の状況に合わせて作られたグリッパー(物をつかむ部品)の例。画像には、さまざまな用途に適した試作品が並んでいる  Credit: Marie Vihmar et al CC-4.0

 今回の研究の中心人物であるマリー・ヴィフマー氏は、もともとデザイン学を専攻していた人物だ。

 ロボットの形状をあらかじめ定めず、その場に応じて紡ぎ出すという型破りな発想ができたのもそのおかげかもしれない。

 この環境に合わせてボディを変化させるというコンセプトは、状況の予測が難しい災害現場の救助作業や、機械と風景がシームレスに融合した適応型建設技術まで、これまでの産業的な発想をくつがえす可能性を秘めているとのことだ。

 この研究は『npj Robotics』(2025年2月19日付)に掲載された。 

References: Nature / Interestingengineering / Techxplore

本記事は、海外の記事を参考にし、日本の読者向けに独自の考察を加えて再構成しています。

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