トランプ関税は合法か、看板政策が覆る可能性も-最高裁で弁論始まる

トランプ大統領が課した包括的な対外関税の合法性をめぐり、米連邦最高裁判所で5日、口頭弁論が開かれた。トランプ氏が主張する1977年制定の国際緊急経済権限法(IEEPA)の適用に複数の保守派判事が疑問を呈し、同氏が柱とする経済政策が揺らぐ可能性が出ている。

  トランプ政権を代表して弁論に立った司法省のサウアー訟務長官に対し、最高裁のロバーツ長官は関税について「実質的に米国民への課税であり、それは本来常に議会の根幹的な権限だ」と述べた。保守派のゴーサッチ判事とバレット判事も、IEEPAが大統領に数百億ドル規模の関税を徴収する権限を認める根拠となり得るのか、懐疑的な見方が示された。ただし3人は関税に抗議する原告側の主張についても追求した。口頭弁論は冒頭から2時間半余り続けられた。

動画:トランプ関税の合法性を巡る最高裁口頭弁論を伝えるブルームバーグテレビジョン

  リベラル派のケーガン、ソトマイヨール、ジャクソン3判事も関税の合法性に疑問を示した。最高裁は異例の迅速なスケジュールで審理を進めており、年末にも判決が出る見通しだ。

ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)の法務担当アナリスト、Holly Froum氏は、最高裁がトランプ政権の上乗せ関税やフェンタニル関連関税を違法と判断する可能性を60%と予想。判断は12月中旬か下旬に下る公算が大きいとみている。

  トランプ氏に不利な判断が下された場合、1000億ドル(約15兆4100億円)を超える返還が命じられる可能性がある。現在関税を負担している米国の輸入業者は、重荷が軽減される。またトランプ氏は外交と通商で多用してきた関税という万能兵器の威力を失いかねない。

  一方、バレット判事は関税が無効とされた場合の返金処理について尋ね、「大変な混乱を招きそうだ」と述べた。逆にトランプ氏が勝訴した場合、今後も米国の大統領が非常事態を名目に広範な措置を取る先例が確立される恐れがある。

  トランプ氏はIEEPAが国家安全保障や外交、経済上の緊急事態に対処するための包括的権限を大統領に認めると主張。同法には関税について明記はないが、輸入財産の「規制」を通じて危機に対応できるとする条文がある。

  この訴訟で争われているのは、トランプ氏が4月2日に発表した「解放の日」関税で、輸出国別に10-50%の関税を課す一連の措置。大統領は長年にわたる米貿易赤字に対処するための正当な政策だと主張している。

  またカナダとメキシコ、中国を対象としたフェンタニル(合成オピオイド)密輸対策名目の関税措置も今回の審理対象に含まれる。

バレット、ゴーサッチ両判事

  バレット判事はIEEPAの条文に基づいて関税賦課の権限が与えられた前例があるのかと、サウアー訟務長官に質問し、解釈の根拠を問いただした。

  ゴーサッチ判事はさらに踏み込んで、議会が憲法上有する関税賦課の権限を大統領に委譲したと政権が解釈している点に懸念を示した。その解釈に基づくと「議会が通商だけでなく宣戦布告の権限までも、大統領に丸投げすることを妨げる根拠がなくならないだろうか」と警告した。

  最高裁は中小企業が起こした2件の訴訟と、民主党勢力の強い12州の司法長官が提起した別の訴訟を併合して審理している。これまで3つの下級審はいずれも、トランプ政権の関税措置は違法との判断を下している。

  トランプ氏が敗訴しても、政権側は他の複雑な法的手段を用いて多くの関税を維持できるとしている。鉄鋼とアルミ、自動車への関税は別の法律に基づくもので、今回の判決は直接影響しない。

  ロバーツ長官はこの訴訟を行政法上の「重大な問題の法理」の枠組みで捉えており、「あらゆる国のあらゆる製品に、いかなる税率でも無期限に課税できる権限を主張しているように見える。これは重大な権限といえる」と述べた。最高裁は過去にこの法理に基づいて、バイデン前大統領の権限を繰り返し退けていた。

  この日の審理にはベッセント財務長官とルトニック商務長官、米通商代表部(USTR)のグリア代表ら政権幹部も出席。議会からは民主党のクロブシャー、マーキー両上院議員、共和党のスミス下院議員が傍聴した。コメディアンのジョン・ムレイニー氏の姿もあった。

原題:Justices Question Legality of Trump’s Tariffs at Supreme Court(抜粋)

— 取材協力 Justin Wise

関連記事: