夜の街に舞う歌舞伎町ホスト、扇を手に挑む上方舞 ミスマッチな金髪・長髪も真剣に稽古
日本最大の歓楽街、東京・新宿の歌舞伎町で働くホストたちが今、日本舞踊の稽古に励んでいる。夜の街にスーツ姿で出勤する前、稽古着の浴衣に着替え、三味線が奏でる地唄に合わせて上方舞を舞う。何ともミスマッチに思えるホストと日本舞踊。仕掛け人の歌舞伎町商店街振興組合常任理事、手塚マキさんは「日本文化に親しみ、所作もきれいになる。接客業にも役立つ」と狙いを語る。
歌舞伎町2丁目のビル内にある「新宿歌舞伎町能舞台」に夕方、金髪や長髪の若いホストたちが次々と集まった。「それでは始めます」。上方舞山村流の師範、山村若静紀(わかしずき)さんの声に、きちんと正座して一斉に「お願いします」と頭を下げる。
山村若静紀さん(手前左)の指導のもと、真剣な面持ちで上方舞の稽古に励む歌舞伎町のホストたち=4月22日、東京都新宿区(安元雄太撮影)情緒ある地唄の三味線音楽が流れ、扇を手に舞い始める。「音をしっかり聴いて」「扇の扱いは丁寧に」と若静紀さん。振りがところどころ覚束ない人もいれば、くるりと回る際にぐらつく人も。しかし、約3時間続いた稽古で次第にさまになってきた。
彼らが上方舞を始めたのは昨年6月。今月16日からの発表会を目標に、真剣に取り組んできた。
「めちゃめちゃ難しいけど楽しい」というのは亜樹(あき)さん。「指先まで神経を使わないといけないので自然に動きがきれいになります」
桐咲虎(きりさきたいが)さんはホストになる前、バックパッカーとして世界中を旅した。外国人に「日本のいいところを教えて」と言われたが、日本の文化についてしっかり伝えることができなかった。「ですからこの話を聞いて、やってみたいと思いました」
ホストの若者たちに上方舞を教えようと考えたのは若静紀さんだ。交流サイト(SNS)を通じ、歌舞伎町に能舞台があることを知ると、能舞台オーナーの手塚さんに連絡。歌舞伎町でホストクラブも数多く経営する手塚さんは、令和2年にホストが詠んだ短歌集「ホスト万葉集」を中心になってまとめ、茶道と能の稽古をするなど日本文化に傾倒していた。
「日本舞踊を歌舞伎町から発信したい」という若静紀さんと、「ホストに日本文化に親しんでほしい」と考えた手塚さんの思いが一致。手塚さんが手掛けるクラブに所属するホストたちに呼びかけ、現在10人ほどが上方舞の稽古を続けている。
「おもてなしの精神が共通」
そもそも上方舞は江戸時代、京都・大阪で生まれた日本舞踊のジャンルだ。特に大阪は商いの町。人々が集い、もてなす空間として座敷が重要な意味を持ち、座敷で舞う上方舞が発達した。若静紀さんは「おもてなしの精神が共通している」と話す。
歌舞伎町商店街振興組合常任理事でホストクラブを経営する手塚マキさん=4月22日、東京都新宿区(安元雄太撮影)手塚さんにとって、舞踊の稽古は歌舞伎町の未来にもつながる。
「社会の第一線で働く女性たちはもっと増えていく。ホストクラブがそういう大人の女性の娯楽の一つになっていけばうれしいし、そのためにはホスト側も日本文化をはじめさまざまなコミュニケーションを取れるようになることが大切。今回の日本舞踊がきっかけになればいいですね」(亀岡典子)
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ホストたちの発表会「好色一代男 日本舞踊山村流舞ざらえ」は16日から23日まで(19日休演)、新宿歌舞伎町能舞台で開催される。入場料千円。問い合わせは同舞台事務局(03・6380・3990)。