過酷なF15訓練、強いGの中で瞬時の状況判断…同乗取材「まともに息できない」

 日本周辺で中国軍やロシア軍の動きが活発化する中で、外国軍機に対応する航空自衛隊の戦闘機パイロットの育成が一層重要になっている。3月、 新田原(にゅうたばる) 基地(宮崎県)に拠点を置く戦闘機「F15」パイロットを養成する国内唯一の部隊を訪ね、同乗取材した。(社会部 溝田拓士)

90度回転

機体下部からフレア(熱源)を発射するF15戦闘機(3月17日、宮崎県沖の太平洋上空で)=溝田拓士撮影

 頭上から両肩の下あたりまでキャノピーと呼ばれる透明の風防に覆われたコックピット(操縦席)。水色の空の中で視界が大きく開け、眼下に群青色の日向灘が広がっていた。

 F15の最高速度はマッハ約2・5(音速の約2・5倍)だが、燃費を考慮し、時速800キロで飛ぶ。首を回して後方を見ると、数分前に離陸したばかりの基地の滑走路がどんどん小さくなっていった。

 F15は1人乗りだが、教育部隊では教官も搭乗する2人乗りの機体を使う。記者は第23飛行隊長の外川裕之2佐(46)が操縦かんを握るF15の後席に座り、訓練生の小川洋介2尉(27)が乗るもう1機のF15とともに、宮崎県沖約100キロの上空約6000メートルに設定された訓練空域に向かった。

 突然、機体の前後を軸にして機体がくるりと時計回りに90度回転し、右肩を下にした状態になった。体をシートベルトでしっかりと固定されながら大きく傾いた。数秒後に機体が水平に戻ったときには平衡感覚が乱れ、乗り物酔いを感じ始めた。

 戦闘機は高速で縦や横、斜めに急旋回する。そのたびに体重の何倍もの重力加速度(G)がかかり、体を座席に押さえつけられた。

 同時に、装着した耐Gスーツが膨らんで太ももや下腹を空気圧で締め上げる。脳に強制的に血液を送るためだ。これがなければ、目は開いているのに視野が暗くなる「グレーアウト」に陥る。全く見えなくなる「ブラックアウト」になる危険もある。

荷重500キロ以上

 「ドッグファイト」と呼ばれる戦闘機同士が対戦する訓練が始まった。小川2尉のF15が守備側となって、敵役となった記者が乗るF15に対応する想定だ。

 「強いGがかかりますよ」。前席の外川2佐から呼びかけられ、コックピット両側に付いている取っ手をしっかりと握った。

 機体が急旋回を始めると、体がどんどん重くなる。首を動かすことさえできない。視線だけをキャノピーの外に向ける。ただ、どの方向にどんな姿勢で飛んでいるのか、理解する余裕すらなかった。

 この訓練では最大7・5Gがかかっていた。体重70キロの記者に対し、500キロ以上の重さがのしかかったことになる。耐Gスーツの膨らみに耐えるため腹に力を入れており、まともに息ができない。パイロットはこんな状態で瞬時の状況判断と機体の操縦を求められるのか――。

 左斜め下方向に旋回した時、記者が乗ったF15に追われる小川2尉の機体が視界に小さく入った。その機体からオレンジ色の光が4発放たれ、後方に流れた。自機に飛来する赤外線誘導ミサイルをかわすためのおとりとして出す「フレア(熱源)」だ。

 フレアは相手に警告の意思を伝える手段にもなる。昨年9月に北海道周辺でロシア軍機が3時間のうちに3回も領空侵犯した時には、緊急発進(スクランブル)した空自戦闘機が初めてフレアを使って警告した。

 飛行時間は62分間。基地に着陸した時には冷や汗もすっかり乾き、吐き気と全身の筋肉のこわばりでぐったりしていた。

闘志としなやかさ

 戦闘機のパイロットは空自隊員の中で素質を見極められて選び抜かれた者たちだ。

 練習機で基本操縦を学んだ後、第4世代機の「F15」課程(宮崎・新田原基地)と「F2」課程(宮城・松島基地)、さらには最新の第5世代機の「F35」課程(イタリア)に分かれて専門的な訓練を受ける。第5世代機はレーダーに映りにくい「ステルス性」に優れた点が特徴だ。

 機種ごとの課程を終えると全国7か所の基地に拠点を置く戦闘機部隊に配属される。

 主要な任務が、対領空侵犯措置でのスクランブルだ。

 昨年8月には長崎県沖の上空で中国軍機が初めて領空侵犯した。

 F15パイロット出身の内倉浩昭・航空幕僚長は直後の定例記者会見で、「海上では船舶に対して放水や体当たりといった物理的手段があるが、航空機の物理的手段には武器の使用しかない。結果的に撃墜となることがほぼ確実だ」と語り、緊迫した状況での対応の難しさを説明した。

 領空は国際法上、その国が排他的な主権を持つ。政府は対領空侵犯措置での武器使用基準について、正当防衛などの場合に限ると厳格に定める。パイロットが航空管制やレーダーなど地上部隊と連携して対応する。

 教官陣を束ねる外川2佐はパイロットに求める資質として「闘志」とともに、「どんな状況でも任務を完遂して基地に無事に戻るしなやかさ」を挙げた。

 小川2尉は「任務をやり遂げるために、知識も技術も貪欲に追求していきたい」と熱っぽく語った。

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