[社説]AIの衝撃を課題克服の原動力に
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生成AI(人工知能)の進化が止まらない。かつての活版印刷や蒸気機関、インターネットを上回る速度と規模で普及が進み、人類の営みを一変させる可能性がある。日本もその有効性と限界を冷静に見極め、低成長や人口減少など積年の課題を克服する「道具」として使いこなす必要がある。
生成AIが一般に知られるようになったのは2022年11月、米オープンAIが「Chat(チャット)GPT」の提供を始めてからだ。あれからわずか3年。サム・アルトマン最高経営責任者(CEO)は「毎週8億人が使うサービスに育ち、AIはおもちゃから道具へ進化した」と語る。
文章の作成や要約、あたかも人間と対話するような情報検索に加え、現在は人の指示や目標を理解し、自ら計画を立てて実行する「AIエージェント」が普及期に入った。コード生成や顧客対応、研究開発など複雑な作業をこなす。
オープンAIが8年間で1.4兆ドル(約220兆円)を投じる計画を表明するなど、米IT(情報技術)大手は開発投資を競う。中国も国家主導で対抗し、米中の覇権争いが進化をけん引する。
経済価値を生む道筋はまだみえない。米マサチューセッツ工科大の調査では導入企業の95%は生成AIを収益化できていない。過剰な期待が先行する「AIバブル説」がささやかれるゆえんだ。
それでも対象企業の90%が「社員が日常的に使っている」と回答したことに注目すべきだ。ネットは今世紀初めにバブルがはじけ、関連企業の株価が暴落したものの、普及自体は止まらなかった。AIも同じだと考えるべきだ。
プライバシーや著作権の保護、悪用防止など課題は多いが、日本も社会実装を着実に進めていかねばならない。
内閣府などのデータでは23年まで5年間のAI関連の政府投資は約1.5兆円。米国の33分の1、中国の13分の1で、民間企業の利用率も劣る。高市早苗政権が先月まとめた国家戦略「AI基本計画」は「出遅れが年々顕著になっている」と警鐘を鳴らした。
巻き返しへ注力するのは、現実世界で動くロボットや自動運転車などの「フィジカルAI」と呼ぶ分野だ。産業界が蓄積してきた質の高いデータ、安定した通信環境といった日本の優位性が生かせる。妥当な指針といえよう。
AI時代に適応するため、会社や社会は変化を迫られる。
まず開発や活用の主要な担い手となる企業の意識改革が求められる。AIの衝撃は全産業に及ぶ。経営者は今後の競争力を左右すると認識し、戦略的に投資を振り向ける必要がある。リスクをとり、失敗を許容する姿勢が不可欠だ。
組織のあり方も変わる。管理職が束ねるのは人間だけでなく、多数のAIエージェントだという時代が迫る。高度な判断力や思考力、倫理観を養う人材教育が要る。
AIに業務を奪われる「ホワイトカラー不要論」が語られる。だがイノベーションはある分野の仕事を代替しても、別の新たな雇用を生むはずだ。
職種転換を見据えたリスキリング(学び直し)は欠かせない。個人や個別企業の努力に任せるのではなく、横断的な職業訓練の枠組みを労使でつくってはどうか。
学校教育の変革も重要だ。AI時代に必要な知識やスキルを明確にし、教育内容に反映させていくべきだ。問いを立てる力や創造性のような、AIが代替できない能力を伸ばすことが主体となろう。AIの理解を考えれば、もはや「文系に数学は不要」といえる時代ではなくなる。文理融合の実践と同時に、過度のAI依存といった負の側面も教えていきたい。
AIの膨大な情報処理を担うデータセンターは、安価でクリーンな電力を大量に必要とする。増える需要を満たせなければ、成長産業が海外へ逃げてしまう。安全第一での原子力発電の活用、再生可能エネルギーの拡大、火力発電の低炭素化など、安定供給確保へあらゆる手を尽くしてほしい。
1990年代のバブル崩壊後、日本は生産性向上が進まず、低成長に甘んじてきた。足元の人手不足への切迫感は、AI活用にむしろ追い風となる。人類史的なイノベーションを、日本経済の再興の原動力に位置づけたい。
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