「Windows一強」の法人PC市場に変化の兆し?ビジネスの現場で変わるMacの評価(NANA)

Macはクリエイター向け、企業で使うPCといえばWindows。そんなイメージを持っている人も多くいるかと思います。

実際、日本の法人PC市場ではWindowsが圧倒的なシェアを占め、多くの企業で社内システムや業務ソフト、運用体制がWindowsを前提に構築されています。この構図は長年、大きく変わっていません。

その市場で、Appleの動きが少しずつ活発になっています。7月に開催された法人向けイベント「SoftBank World 2026」に初出展したほか、5月に開催された教育分野の展示会「EDIX東京2026」にもブースを構え、Macを「クリエイター向けPC」ではなく「ビジネスや教育現場で使うPC」として前面に打ち出していました。

Appleはこれまでも法人向けの取り組みは続けてきましたが、近年は企業や教育機関へ直接アピールする機会を増やし、これらの市場において存在感を増していきたいようです。

Windowsが圧倒的なシェアを持つ法人PC市場で、Macは新たな選択肢になれるのでしょうか。SoftBank Worldで見えたAppleの取り組みと、実際に導入を進める企業の事例から、その可能性を探ります。

Appleが「SoftBank World」に初出展。その狙いは?

(画像提供:Apple)

「SoftBank World」は、ソフトバンクが主催する、法人向け(B2B)に特化した年次テクノロジーカンファレンスです。主に企業・ビジネスリーダーを対象に、AIを中心とした最新技術の発表・事例紹介・ネットワーキングを行う場となっています。

以前は、ソフトバンク自身のサービス・取り組みだったり、戦略的パートナー企業や一部スタートアップ企業など幅広く出展していた傾向にありましたが、数年前からは昨今のAIブームの影響を受け、MicrosoftやGoogle CloudなどのAI基盤を提供する大手企業の出展が目立つようになりました。

そこに今年新たに出展したのがAppleです。しかも、Apple Storeを彷彿とさせるような展示ブースを出展し、iPhoneやMacといった自社製品の実機展示を行なっていました。

Apple Storeでは、どちらかというとコンシューマー(主に写真編集、動画編集、音楽制作といったクリエイティブ用途が多い)を意識した展示が中心的ですが、今回は、資料作成や表計算、オンライン会議、メールなど、多くの企業で日常的に行われる業務を意識した展示が前面に出ていました。

Appleはコンシューマー向けのデモでは、「Numbers」や「Keynote」といった自社アプリを用いて紹介することが多いですが、今回は企業で広く使われている「Microsoft 365」を使い、Macでも普段の業務を支障なくこなせることをアピールしていました。

たとえば、10万行を超えるExcelファイルをMacで操作するデモでは、Appleシリコンの高い処理能力を活かし、大容量のデータでも快適に作業できることを示し、「仕事で使うMac」を強く意識していることが伝わってきました。

また、Appleデバイス同士の連携機能として、iPhoneで撮影した領収書をそのままMacへ取り込み、書類に添付する。あるいは、iPhoneで読み取った文字をMacへコピーするといったデモも。どちらも新しい機能ではありませんが、こうした小さな効率化の積み重ねが日々の業務の生産性を上げられることをアピールしていました。

筆者も知らなかった機能として、Apple Intelligenceによる音声の文字起こし機能があります。メモアプリに音声データを挿入すると音声の書き起こしをしてくれるというものです。しかもオンデバイスで処理しているため、外部への流出に対する心配を減らすことができます。

昨今の生成AIの発達を受けて、「生成AIを活用したい」と考える企業は多いです。しかし一方で、機密情報を外部へ送ることには慎重なケースも少なくなく、データをできるだけ端末内で処理できる仕組みがベースとして構築されているAppleデバイスは、セキュリティを重視する企業にとって安心材料のひとつになりそうです。

Appleが「SoftBank World」に出展した背景には、法人PC市場での存在感を高めたい狙いがあると思われます。

もっとも、Appleが法人市場へ取り組み始めたのは今に始まったことではありません。以前から企業向けの営業体制を整え、Apple Business ManagerやMDM(モバイルデバイス管理)への対応、パートナー企業との連携などを進めてきました。近年は、そうした取り組みをより積極的に発信するフェーズへ移りつつあるように見えます。

その背景にあるのが、生成AIの普及です。これまで企業におけるPCは、メールや資料作成、表計算、Webブラウジングなどが快適に動作すれば十分という考え方が一般的でした。しかし現在は、文書の要約や議事録の作成、データ分析、プログラミング支援など、生成AIを業務へ取り入れる企業が急速に増えています。

AIを快適に利用するには、CPUだけでなくGPUやNPUを含めた処理性能、十分なメモリ容量、そして長期間快適に使える性能が求められます。つまり、PCは事務機器ではなく、「AIを活用するためのプラットフォーム」へと位置付けが変わり始めています。

企業がPCを選ぶ基準も変わりつつあります。従来は本体価格が重視される傾向がありましたが、現在は導入後の設定や配布、アップデート、故障対応、回収までを含めた総保有コスト(TCO)や、セキュリティ、管理のしやすさも重要な判断材料になっています。

Appleが今回の展示で繰り返し訴求していたのも、まさにそうした点でした。Appleシリコンによる高い処理性能、Apple IntelligenceによるオンデバイスAI、iPhoneとのシームレスな連携、そしてMDMを活用した端末管理まで含め、「Mac」という1台のPCではなく、業務全体を支える環境としてApple製品を提案していました。

こうしたAppleの考え方は、実際にMacを導入している企業の事例からも見えてきます。

Appleが挑むWindows一強の法人PC市場。Macに勝機はあるのか

(画像提供:Apple)

こうしたAppleの提案は、果たして企業に受け入れられているのでしょうか。その事例のひとつとして紹介されていたのが、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)の取り組みです。

FFGは福岡銀行や熊本銀行、十八親和銀行、デジタルバンク「みんなの銀行」などを傘下に持つ金融グループです。同社ではDXを推進するなかでMacを導入しており、現在はエンジニアの約8割がMacを利用しています。

金融機関といえば、セキュリティやシステム運用に厳格な業界という印象を持つ人も多いでしょう。社内システムの変更や新たなデバイスの導入にも慎重な企業が少なくないなか、FFGがMacを積極的に採用していることは興味深い事例と言えます。

FFGによると、エンジニアの採用活動では「開発環境はどうなっているのか」「Macは利用できるのか」と質問されることが少なくないといいます。特にiOSアプリの開発者をはじめ、多くのエンジニアは日頃からMacを利用しており、使い慣れた環境を用意することは、生産性の向上だけでなく、採用競争力の強化にもつながると判断したそうです。

端末管理ツール「Jamf」を活用することで、Macの初期設定にかかる時間はWindows PCと比べて約40%短縮。企業ではPC本体の価格だけでなく、設定や配布、アップデート、回収といった運用にも多くのコストがかかるため、こうした管理負荷の軽減は大きなメリットになります。

一般には「Macは高価」というイメージがあるかもしれませんが、FFGではメモリ24GB以上といった一定の性能条件でWindows PCと比較した場合、実はMacの方が安価、あるいは同程度の価格になるケースもあります。現在は本体価格だけではなく、管理工数や耐用年数を含めた総保有コスト(TCO)でPCを評価する企業が増えており、「Macは高い」という従来のイメージだけでは語れなくなってきています。

さらにFFGでは、Appleシリコンを搭載したMac Studioを利用し、ローカルLLMの検証も進めているそうです。機密情報を扱う金融機関では、生成AIを活用しながらもデータを社外へ送らない仕組みへの関心が高く、こうした取り組みはAppleが掲げる「オンデバイスAI」という考え方とも重なります。

多くの企業では、業務システムや独自アプリケーション、ExcelのマクロなどがWindowsを前提に構築されており、PCだけをMacへ置き換えることは簡単ではありません。サポート体制や運用ルールを含め、長年かけて築いてきたIT環境全体を見直す必要があるためです。

それでも、AIの活用が企業の競争力を左右する時代を迎え、PCに求められる役割は大きく変わり始めています。Appleが目指しているのは、Windowsを置き換えることではなく、「企業がPCを更新する際、Macも有力な選択肢の一つとして比較される存在になること」なのでしょう。

Windows一強だった法人PC市場に、その変化の兆しが生まれるのか。SoftBank Worldへの初出展は、Appleのそんな長期的な戦略を感じさせる出来事でした。

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