「また共産党か」練馬区長選候補・吉田健一さん陣営をめぐる、自称「完全無所属」の看板と確認団体のYouTube広告公選法上の疑義|山本一郎(やまもといちろう)

 練馬区選管、いただけないことにほとんど動きがないとのことなので記事にするんですが、都知事選での「無所属」蓮舫さんの件といい、かなり堂々と公職選挙法違反が強く疑われる選挙活動をやらかしている件については、さすがにどうにかしたほうがいいんではないかと思っております。

告示日公開で33万再生という異常値

 そんなわけで、4月5日に告示され、12日に投開票される東京都練馬区長選は、いずれも無所属新人を名乗る吉田健一さん(59)、尾島紘平さん(37)=自民・都民ファーストの会・国民民主・東京維新の会推薦=、三上恭平さん(43)の三つ巴のたたかいとなっています。

 吉田健一さんについては、日本共産党がほぼ丸抱えで選挙活動を行っていることは経緯からも明らかなんですが、この吉田さんの政策を紹介するYouTube動画が、告示日当日に公開されてからわずか数日で33万8000回を超える再生数を記録しております。どう考えてもネット広告に銭ブチ込んでるのは間違いないんじゃないのかねと思うわけですが、いわずもがな、チャンネル登録者の規模や通常の区長選候補者の発信力を踏まえると、オーガニックな拡散では到底説明がつかない数字です。

 当然のことながら、関係者からは「告示日公開で33万回ですから、広告をまわしていますね」との指摘が出ており、きっと誰かが刑事告発することでしょう。というか、こんなの選管がちゃんと警告なりして止めないと駄目なんじゃないですかね。

動画の運営主体は本人ではなく「確認団体」

 で、本件が興味深いのは、この動画が吉田さん本人の公式アカウントから配信されているのではなく、公職選挙法上の確認団体「よし、行こう。練馬。」が企画・運営するチャンネルから配信されている点です。

 あのさあ…。

動画の概要欄にも「本チャンネルおよび配信される広告・動画は、公職選挙法に基づく確認団体『よし、行こう。練馬。』が企画・運営しております」と明記されています。

 内容は「吉田健一が約束する『新時代練馬』の政策」として、箱もの区政からの転換、住まいの安心、ジェンダー平等・多様性、子育て・教育といった公約を列挙するもので、吉田さん本人が街頭演説などで訴えている政見とほぼ同一です。まあ、ご自身の確認団体でばら撒くネット動画ですから、そら同じだわなとは思いますけれども。

142条の6との関係 「黒に近い」という見方

 ここで問題になるのが、公職選挙法142条の6(有料インターネット広告の制限)です。同条第1項は選挙運動のための候補者の氏名等を有料で表示することを禁じ、第2項では、その禁止を免れるための行為についても禁じています。 公職選挙とネット動画配信に関しては一定の見解が出ている分野のはずなのですが、改めて法的な見解を総合すると、「あえてお金をかけて広告で動画を見せている目的は何なのかを鑑みれば、吉田さん本人に有利に働かせるためにやっていることは明らかであって、実質的には選挙運動のために氏名表示をやっていること(142条の6第1項)、または禁止行為を免れる行為としてやっていること(142条の6第2項)に該当するとみるのが自然」だという整理になります。候補者本人ではないという建前にするために、敢えて確認団体で迂回をして実質的な選挙公報を有償で行っていることになるわけですから、これはもう単純に悪質です。 201条の13第1項2号により、選挙期間中の確認団体による候補者氏名表示だけであれば、インターネット上では認められています。したがって動画での「表示そのもの」は合法でも、それを有料広告として配信する部分が142条の6に抵触しうる、という二段構えの論点です。候補者本人が街頭で訴えている政見公約と同じ内容を動画でも語っている以上、その氏名表示が純粋な確認団体の政治活動なのか、それとも候補者個人のための選挙運動の禁止を免れる脱法行為なのか、というのが争点になります。

「完全無所属」の看板と共産党の自主的支援

 もう一つ見逃せないのが、吉田さんが繰り返し強調している「完全無党派・完全無所属」の看板と、実際の支援構造との乖離です。

 吉田さんは自身のオフィシャルサイトや選挙ドットコムの政治家ページで「完全無党派。だから、公平公正」「特定の組織の意見を優先すれば、後回しにされる人が出てきます」「だから、完全無党派・完全無所属なのです」と繰り返し訴えています。

 一方、日本共産党東京都委員会は3月11日までに吉田さんを「自主的支援」することを決定し、機関紙「しんぶん赤旗」でも告示日翌日の4月6日付で立候補を大きく報じています。4月5日の出発式や練馬駅前での第一声には、和光大学名誉教授の山本由美さんら、従来から共産党レッズ系の市民運動と関わりの深い応援弁士が立っています。社民党、新社会党、生活者ネットも同様に自主的支援に加わっています。 2022年の前回区長選を思い出しておきたいのですが、当時の吉田さんは共産党・立憲民主党・社民党・生活者ネット・新社会党の正式「推薦」を受けた「市民と野党の共同候補」として出馬し、2143票差で惜敗しています。つまり今回は、前回と支援構造の実態はほぼ変わらないまま、形式上の「推薦」を外して「自主的支援」に切り替え、本人は「完全無所属」を標榜しているという構図です。普通に嘘やんけと思うわけですが、この辺の左翼隠しは中道改革連合の成立で立憲民主党さんの関係先が独自路線を掲げる地方選が増えたことなどからこのようなケースが激増しているわけです。

 形式と実態のあいだにこれだけの距離があると、「完全無党派」「特定の組織の意見に偏らない」という有権者向けのメッセージそのものの信頼性が問われることになります。

有権者が見るべきポイント

 整理すると、今回の練馬区長選で吉田さん陣営をめぐる論点は二つあります。一つは、確認団体名義のYouTube有料広告が142条の6との関係でどう評価されるかという公選法上の問題。もう一つは、「完全無所属」を前面に押し出しながら実態として共産党をはじめとする特定政党の組織的支援を受けているという、有権者に対する自己紹介の仕方の問題です。

 前者は警察の事実認定次第(というかやる気の問題)であり、後者は最終的には有権者一人ひとりの判断に委ねられるものです。ただ、告示日に公開された動画が数日で33万再生に達するという異常値は、通常の選挙運動では起こりえない現象であり、そこに広告費が投じられているとすれば、その原資と意思決定の主体がどこにあるのかは、選挙の公正性にかかわる問題として看過しちゃマズいんじゃねえのと思います。選挙後であっても、きちんと検証されるべき論点なんじゃないですかね。

普段はザンギエフを使っています。オークランド・アスレチックスのファン。1996年慶應義塾大学法学部政治学科卒、23年新潟大学修士(法学)、一般財団法人情報法制研究所/事務局次長・上席研究員。専門は統計分野、社会調査、制度設計と、投資実務および置物系コンサルティング業務全般。

関連記事: