被害者の人生を破壊する「ディープフェイクポルノ」、韓国で深刻化
韓国では「ディープフェイクポルノ」の被害が深刻化している/Illustration by Leah Abucayan/CNN/Getty/Adobe Stock
ソウル(CNN) 2021年夏のある日、昼食をとっていたルマさん(仮名)の携帯電話に、大量の通知が届き始めた。
メッセージを開いてみると、とんでもないことになっていた。SNSから切り取ったルマさんの顔写真が裸体と合成され、通信アプリ「テレグラム」のチャットルームで数十人のメンバーにシェアされていた。
チャットルームのスクリーンショットには屈辱的で下品なコメントが並ぶ。画像を送って来た匿名の人物からも、同じように「面白いだろう? 自分のセックス映像を見るなんて」「正直に楽しいと言え」というメッセージが投げ付けられた。
嫌がらせはさらにエスカレートし、画像をもっと拡散するという脅しや、警察は絶対に犯人を特定できないとあざ笑う内容のメッセージが届いた。送り手はルマさんの個人情報を握っているようだったが、こちらから相手を見つける術(すべ)はなかった。
「それまでの人生で想像したこともなかったような画像を大量に送られた」と、ルマさんは言う。CNNは本人のプライバシーと安全に配慮して、仮名を使っている。
本人の承諾なしで性的な画像を公開する「リベンジポルノ」の被害は、インターネットの登場以来ずっと続いてきた。一方、最近は人工知能(AI)ツールが広まった結果、過去にヌード写真を撮ったり送ったりしたことがない人も、AIで性的な画像や動画をつくる「ディープフェイク」の標的にされている。
特に韓国では近年、デジタル性犯罪の横行が目立っていた。公共施設に隠しカメラが仕掛けられた例や、テレグラムのチャットルームで未成年者を含む女性たちが屈辱的な性的コンテンツの投稿を強要され、脅迫された例などがある。
そこへディープフェイク技術が新たな脅威を及ぼし、特に学校現場での危機が深刻化している。教育省の統計によると、昨年1月から11月初めまでの間に、学校の生徒や教師、職員900人あまりが、ディープフェイク性犯罪の被害を届け出た。被害は大学でも続発しているが、この統計には含まれていない。
教育省は対策として、緊急のプロジェクトチームを立ち上げた。昨年9月には国会で、ディープフェイクポルノの所持、閲覧に最大で禁錮3年または3000万ウォン(約300万円)の罰金を科す法改正が可決された。
本人の承諾なしでディープフェイク画像を作成、配信した場合の禁錮刑は、最大5年から7年に延長された。
また韓国警察庁は警官らに、「ディープフェイク性犯罪の撲滅を主導」するよう指示した。
だが警察庁によれば、昨年1~10月に報告されたディープフェイク関連の性犯罪964件のうち、警察が容疑者の逮捕にこぎつけた例は23件にとどまっている。
国会議員のキム・ナムヒ氏はCNNとのインタビューで「これまでの捜査や刑罰はあまりに受動的だった」と指摘した。そのためルマさんのような一部の被害者は、自力で調査に乗り出している。
行動を起こす被害者たち
ルマさんは悪夢が始まった時、27歳の大学生だった。警察に届け出たところ、テレグラムにユーザー情報を要求してみるが、そういうデータの共有には応じないことで知られる相手だと聞かされた。
ルマさんはかつて、学校が大好きで社交性のある学生だったが、あの一件で人生が一変したという。
「世界観全体が壊された。あんな下品で乱暴な画像を使って相手を極度に侮辱し、汚す人たちがいる。その事実は、ほとんど取り返しがつかないほどの傷になる」と、ルマさんは語る。
警察がほかの学生たちの届け出に対し、容疑者特定は困難だとして捜査を2~3カ月で打ち切ってきたと聞いて、ルマさんは行動を起こす決心をした。
仲間の学生らとともに、活動家のウォン・ウンジ氏に協力を求めた。同氏は20年に、テレグラムを使った韓国最大のデジタル性犯罪集団を暴いたことで知られる女性だ。
ウォン氏はこれに応じ、30代の男性を装ってテレグラムの偽アカウントを作成。ディープフェイク画像が出回っていたチャットルームに侵入した。それから2年近くかけて慎重に情報を集め、ほかのユーザーたちと会話を交わした末に、警察と共同でおとり捜査を実行した。
警官が容疑者の男と対峙(たいじ)した時点で、ウォン氏がその男にメッセージを送る。電話の通知音が鳴り、男は拘束された。
韓国の名門、ソウル国立大学(SNU)の元学生2人が、昨年5月に逮捕された。主犯の1人は性的搾取映像を制作、配信した罪で、最終的に禁錮9年の刑を言い渡された。もう1人は禁錮3年半となった。
警察によると、さらに捜査を進めた結果、SNUの元・現学生12人を含む少なくとも61人の被害者が見つかった。SNUはその後の記者会見で、デジタル性犯罪に関する大学内部の意識を高め、被害者の保護と再発防止を図るために、予防教育を強化すると表明した。
ルマさんの弁護士らが公表した判決文は、被告の作った「忌まわしい」偽映像や、それをめぐる「衝撃的」な会話を非難。被告らは「獲物を狙う」かのように被害者らを標的にし、卒業写真や結婚、家族写真を使って性的な屈辱を与えたり、尊厳を破壊したりしたと断じた。
この事件は、韓国各地で起きている数千件のうちのひとつにすぎない。ルマさんのように警察の協力を得ることができなかった被害者もいる。高校教師のキムさん(仮名)は、自身の経験で人生が一変したと話す。