これまで研究されてこなかった「女性のうつ」と「日本食」の関連を明らかに、20〜70代の女性を調査

本稿は、東京西徳洲会病院小児医療センター小児神経科の秋谷進医師による寄稿記事です。日本食が身体的健康に良いことはよく知られていますが、実は精神的健康にも良いようです。執筆を終えた秋谷医師からは、「読者企業の方々には、この論文の知見を活用して食育に繋げてほしい」とのコメントが編集部に届けられました。今回は、ありそうでなかった未研究の分野、「女性のうつと日本食の関連」を明らかにした論文を解説します。

健康的な日本食が女性の抑うつ症状を改善

健康な生活を送ることを考えると、最初に思い浮かぶのが食生活の改善です。食事を改善することで様々な生活習慣病を予防することができ、健康に過ごすことができます。さらに、食生活の改善は身体的な健康だけでなく、精神的な健康にも関連しています。健康的な食事様式は抑うつ症状の予防に重要な役割を果たすことが知られているのです。今回は昭和女子大学の小西香苗氏が「健康的な日本食」は日本人女性の抑うつ症状を改善することを示した論文を紹介します(Public Health Nutrition誌オンライン版2020年7月17日号報告,Associations between healthy Japanese dietary patterns and depression in Japanese women.Kanae Konishi . Associations between healthy Japanese dietary patterns and depression in Japanese women. Public health nutrition. 2021 May;24(7);1753-1765.doi: 10.1017/S1368980020001548)

これまで研究されていなかった「女性のうつ」と「日本食」の関連に着目

研究の背景

うつ病は一般的な精神障害であり、世界的な疾病負担が非常に高く、今後20年間で増加傾向が予想されています。WHOの調査によると、大うつ病性障害は2020年末までに世界の疾病負担において2番目に大きな要因になると予測されています。12ヶ月間の有病率は男性5.8%、女性9.5%で、女性は男性の1.6倍高くなっています。この男女差は卵巣ホルモンレベルの変動などの理由が考えられています。

さて、抑うつ症状の予防に健康的な食生活は重要な役割を果たすことは古くから知られています。例えばn-3系長鎖多価不飽和脂肪酸、魚、葉酸、その他のビタミンB群の摂取が多いとうつ病予防効果がある一方、トランス脂肪酸、ファストフード、市販の焼き菓子の摂取が多いと、うつ症状やうつ病発症リスクが高くなることが報告されています。また果物と野菜の摂取は、単独でも、または組み合わせても、うつ病予防との関連が示されています。特に以前の研究で地中海式の食事パターンはうつ病を抑えることが示されています。日本食も健康的な食事として知られていますが、うつ病を抑えるかどうかについての研究はまだ行われていなかったことから、日本の健康的な食生活とうつ病に関連があるのかについて研究が行われました。

研究の方法

この研究は長野県在住の20〜72歳の日本人女性1,337名を対象に行われ、食事パターンとうつ症状との関連を調査しました。食事評価には過去1ヶ月の食事摂取を評価する質問票を使用しました。うつ症状の評価にはCES-D(The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale:自己評価式抑うつ尺度)という尺度を用いました。

研究の結果

食事パターンとうつ症状との関連を調べたところ、うつ症状がない人には日本食様式の食事をする傾向があり、野菜、きのこ、海藻、大豆製品、魚介類、果物などを摂取するという特徴が見られました。この健康的な日本食様式の食事をする人の特徴として、年齢が高い、既婚者が多い、家族と夕食を共にすることが多い、運動習慣がある、外食や朝食抜きが少ないというものがありました。一方でうつ症状がある人は、ほぼすべての栄養素の摂取量が低く、特にマグネシウム、亜鉛、ビタミンB6、ビタミンCの摂取量が少ないことが判明しました。

自身の糖尿病罹患と本論文で実感、「体の健康への心配りが心の健康に」

この研究では、健康的な日本食と、うつ症状の発現には負の相関があることがわかりました。つまり「健康的な日本食」を摂取することで、うつ病をはじめとする精神面の不調を予防することができる可能性が高いということです。ここでいう健康的な日本食には、きのこや海藻、タイズ製品、野菜、魚介類、果物が含まれます。またビタミンやミネラルの摂取が少なくなるようなバランスの悪い食事をしていると、うつ病になりやすいことも示されており、改めてバランスの良い食事をすることの重要性が浮き彫りになったと言えるでしょう。また、健康的な日本食を食べている人の特徴として、食事以外にも運動習慣があることや、外食や朝食抜きが少ないなど、食事のメニューだけでなく普段から健康を意識した生活をしている人が多いこともわかりました。この小西香苗氏の研究では、食事メニューを考えるだけでなく、普段から健康的な生活を送ることを心がけ、食事メニューも同時に見直すことが、肉体的な健康だけでなく精神的な健康にも関連していることが示されたと言えるでしょう。

私は大学医学部2年生のとき、1型糖尿病になりました。それ以来、1日に何度も血糖値測定し、インスリン注射をすることが必要となっています。当時、主治医からは「臨床医となることは難しいだろう。医学部を卒業することも自己管理ができなければあり得ない」と言われました。そのような厳しい宣告があったからこそ、健康を維持するために食事には細心の注意を払って、1型糖尿病と30年付き合っています。今回の研究はあくまでも女性に限ったものですが、私自身、体の健康に心配りをすることが、心の健康につながっているのだと改めて認識しました。

今回は女性の食事と健康の関係について解説しました。女性は男性よりもうつ病になりやすく、そのうつ病に食事パターンが大きく影響していることが示されました。女性は不健康な食事パターンの影響でうつ病に繋がりやすいということになります。日々の食生活に気を使い、多くの栄養素を取り入れ、健康に配慮することが重要です。

【提供】秋谷進

東京西徳洲会病院小児医療センター 小児神経科医師。1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。金沢医科大学研修医、2001年、国立小児病院小児神経科、2004年6月、獨協医科大学越谷病院小児科、2016年、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科を経て2020年5月から現職。専門は小児神経学、児童精神科学。

【編集部おすすめ記事】 低いBSE実践率乳がんによる死亡を減らすアプローチ一定の教育を受けた働く女性を調査思春期の「健康関連QOL」に性差、その要因を明らかに女性ホルモンと歯の関連を分析 思春期・妊娠期・更年期における特有のリスク成人女性における「月経痛の重症度」と「生活習慣」の関連が明らかに糖尿病合併症のリスクが低いのは男性より女性、予防行動者率の性差が影響か

関連記事: