[社説]出生率1.15は変革怠る社会への警鐘だ
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少子化に歯止めがかからない。厚生労働省の人口動態統計によると、2024年に生まれた日本人の子どもの数は68万6061人(前年比5.7%減)で過去最少を更新した。ひとりの女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率も0.05ポイント低下し、1.15と過去最低になった。
少子化は若い世代の問題ではない。結婚・子育ての希望を阻む壁を変えられずにいる社会全体の問題だ。長年の少子化で、若い世代の数自体がすでに少ない。職場も地域も、今こそ変わるときだ。
現状は厳しい。国の23年の推計では68万人台になるのは39年のはずだった。現実は15年も早い。
少子化の大きな要因は未婚化や晩婚化だ。将来にわたり安定的に働き、収入を得られるか。その不安が、若者を家族形成から遠ざけていることを、直視すべきだ。
壁のひとつが、雇用・労働慣行である。硬直的な長時間労働などは両立を志向する若い世代を悩ます。正規雇用の人が子育てでいったん離職すれば、再就職は非正規となる場合が多く、キャリア形成や収入面で大きな損失だ。最初から不安定な非正規になれば、望まない未婚にもつながりやすい。
「育児は女性」という性別の役割分担意識も大きな課題だ。日本の家事・育児負担は、先進国の中でみても飛び抜けて女性に偏っている。これらは少子化が社会問題になった1990年代から繰り返し指摘されてきた。政府が2023年に決めた少子化対策でも、児童手当や支援サービスの充実などとともに取り上げられているが、踏み込みは十分とはいえない。
やるべきことは多岐にわたる。長時間労働の見直しはもちろん、働く場所や時間を柔軟にする、多様な正社員制度を導入する、正規転換や転職によるキャリアアップをしやすくする――などがあげられる。働き方・暮らし方の根本にまで踏み込む必要がある。
地域別にみると、東京は合計特殊出生率が0.96と2年連続で1を割った。働く場が多く、若者が集まる都市部は今後の出生数への影響が大きい。住環境の整備や労働慣行の見直しを急ぐべきだ。
いずれにせよ日本全体として当面の人口急減が続くのは避けられない。それに耐えうる社会保障制度、地域・社会機能の維持に知恵を絞らないといけない。
年金、医療、介護などは現役世代の保険料で引退世代を支える「仕送り方式」になっている。出生数の減少は支え手の縮小に直結し、制度の持続性を揺さぶる。
特に今国会で審議中の年金制度改革法案は、出生率が長期的に1.36で推移するとの人口推計が議論の土台となっていて、足元の出生動向との隔たりが大きい。年金の将来像は一段と厳しくなるとの前提にたち、制度のあり方を議論しなければならない。
自民、公明両党と立憲民主党が合意した修正法案では、厚生年金の積立金を活用した基礎年金の底上げは、成長型経済への移行を見極めるため29年の財政検証を見てから実施するかどうかを判断するとしている。足元の出生率の落ち込みはそんな楽観を許すのだろうか。底上げ策を速やかに実施する方向で再検討すべきだ。
医療・介護を持続させるには高齢者を一律に弱者と位置づけるのをやめ、能力に応じて負担を求める仕組みを徹底しなければならない。マイナンバーに金融口座をひも付けて、所得だけでなく資産の状況も勘案して負担を求める仕組みが早急に必要となろう。
石破茂首相は地方創生の会議で「人口減少が急激に進むなか、かつて増加期に作り上げられた経済社会システムを検証し、中長期的に信頼される持続可能なシステムへと転換していくことが求められている」と強調した。
現状認識はその通りだが、問題は想定を超える人口減少のスピードに社会システムの転換が追いついていないことだ。
人口減が進む市町村では、すでに行政サービスが滞り始めており、インフラの維持・管理や介護などで手の回らない分野が出ている。都道府県や周辺の自治体が肩代わりしたり、相互に人員を派遣し合ったりする広域連携の体制づくりを急ぐべきだろう。
人手不足にともない、地方では女性が働く場も広がりつつあるが、男女格差を是正し、適正な処遇を進めなければ、長続きはしない。多様な選択や生き方ができる職場や地域をもっと積極的につくることが、地方の出生数減少を食い止める大前提になる。
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