iPhone「ゴリラガラス」のコーニング、AI特需でも株価100分の1の悪夢を忘れない(Forbes JAPAN)

maurice norbert - stock.adobe.com(フォーブス ジャパン編集部)

1851年創業の米ガラス大手コーニングは、アップルのiPhoneやサムスンのスマートフォン「Galaxy」シリーズなどに使われる強化ガラス「ゴリラガラス(Corning Gorilla Glass)」で知られる。その同社が、生成AIブームを追い風に急成長している。現在の成長を牽引するのは、スマートフォン向けガラスではない。サーバーやデータセンターをつなぐ通信ケーブルに使われる、細いガラス繊維「光ファイバー」だ。2026年上半期には、光ファイバーが売上高の45%を占めた。しかし、コーニングには通信網の建設ブームが崩壊した苦い経験がある。1990年代末から2000年代初め、インターネットの普及を見込み、通信事業者が通信網の建設に巨額の資金を投じた。2001年に「通信バブル」が崩壊すると、主要顧客からの光ファイバーの注文が突然途絶え、コーニングは経営危機に陥った。株価は2年足らずで113ドルから1.10ドルへと暴落した。最高経営責任者(CEO)のウェンデル・ウィークス(67)は、AIブームが終わった後も成長を続けられる企業を目指している。自動車用ガラスや太陽光パネル、工場から排出される二酸化炭素の回収など、長年培ってきた材料技術を新たな事業に生かし、光ファイバーへの依存を減らそうとしている。■生成AIを動かすデータセンターが、コーニングの業績を押し上げる生成AIの普及を支えるのは、エヌビディア製の半導体と膨大な電力・水、そして大量のガラスだ。コーニングは、AIインフラに必要なガラスを他のどの企業よりも多く生産している。正確には、コーニングが大量に生産するのは、髪の毛のように細い光ファイバーだ。光ファイバーは光信号でデータを伝えるガラス繊維で、保護材で覆って配線に使えるようにした製品が「光ファイバーケーブル」だ。光ファイバーケーブルは、サーバー間や建物間、データセンター間をつなぎ、大量のデータを運ぶ。●大型契約が相次ぎ、2030年の売上高目標は約6兆3200億円コーニング製品への需要は極めて強く、コーニングはアマゾン、エヌビディア、メタ(Meta)、米通信大手ベライゾンと数十億ドル規模の契約を相次いで結んだ。米国時間2026年9月29日には、米通信大手AT&Tが家庭向けインターネットサービスの改良に向け、コーニングと30億ドル(約4740億円)の契約を結ぶと発表した。アップルも、iPhoneやApple Watchに使う、傷が付きにくい強化ガラス「ゴリラガラス」に追加で25億ドル(約3950億円)を投じることを約束した。創業175周年を迎えたコーニングは、トーマス・エジソンの電球に使われたガラスから、調理器具「パイレックス」まで手がけてきた。米国の老舗技術企業にとって、AIインフラ事業は活気に満ちた「第3の成長期」となっている。2026年10月初めの時点で、コーニングの株価は1年前のほぼ2倍となり、同期間に16%上昇したS&P500種株価指数を大幅に上回った。2025年の売上高は前年比19%増の156億ドル(約2兆4600億円)、純利益は16億ドル(約2530億円)だった。アナリストは2026年の売上高が約25%増の193億ドル(約3兆500億円)に達し、純利益も倍増すると予想している。ウィークスは、2030年までに売上高を400億ドル(約6兆3200億円)に引き上げる目標を掲げる。

「光ファイバーをはじめ、現在、生成AIを動かすサーバー間やデータセンター間の通信に使われている当社製品は、すべてもともと通信事業向けに開発したものだ」とウィークスは話す。ハーバード大学で経営学修士号(MBA)を取得したウィークスは、米西海岸のハイテク富豪が好むジーンズとスニーカーではなく、仕立てのよいスーツを好む。「数十年前に発明した多くの製品が、全面的に生まれ変わろうとしている」。


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■通信バブル崩壊の記憶、株価は約100分の1に暴落コーニングが過去数十年で最も好調な年を迎える中でも、経営の不安定さを思い起こさせる出来事があった。2026年上半期に株価が200%近く急騰した後、7月には50%急落した。主なきっかけは、株価上昇で割高となった企業評価と、膨らむAIバブルに対するアナリストの懸念だった。1983年に入社し、1996年に光ファイバー事業の責任者となったウィークスにとって、過去の苦い経験を思い出させる値動きだったはずだ。1990年代末から2000年代初めにかけては、インターネットの急成長に伴う通信網の建設が数十年にわたり続くと、多くの人が信じていた。コーニングは多額の借金を重ね、企業買収に100億ドル(約1兆5800億円)を投じた。ところが2001年に通信バブルが崩壊すると、通信機器メーカーのノーテルをはじめとする主要顧客からの光ファイバーの注文が突然途絶えた。コーニングの株価は2年足らずで113ドルから1.10ドルへと暴落した。2005年にCEOに就任したウィークスは、「就任時の会社はかなり暗い状況にあった。ドットコム・バブルの崩壊が多くの顧客に壊滅的な打撃を与えた後だった」と振り返る。「久しく実施していなかった大規模な人員削減に踏み切り、経営を立て直さなければならなかった。会社の使命は何か、何を目指し、どうすればもっとよい会社を築けるのか、深く考える必要があった」。●液晶テレビとゴリラガラスが経営危機からの復活を支えたコーニングを経営危機から救ったのは、材料科学の分野で蓄積してきた数々の発明だった。最初の転機は、同社製のガラスを使った超薄型の液晶テレビが2000年代初めに大量に売れ始めたことだ。続いて、1960年代に開発されたゴリラガラスが大ヒット商品になった。2006年末、アップルのスティーブ・ジョブズがウィークスを説得し、2007年6月のiPhone発売に向けて、傷が付きにくい小型の画面用ガラスを数百万枚生産することになった。さらに、乗用車や軽油(ディーゼル)を使うトラックの排ガス浄化フィルター、医療用の特殊ガラス、テレビやノートパソコン向けの薄型ガラスなども、新たな収益源となった。■コーニングが光通信以外に求める次の収益源は何かかつての通信バブル期と同様に、2026年は光ファイバーがコーニングの成長を牽引している。同年上半期の売上高86億ドル(約1兆3600億円)のうち、45%が光ファイバーによるものだった。ウィークスは需要の拡大が今後数年続くと考えている。それでも、以前のような経営の急失速を繰り返すことはないと強調する。通信バブル崩壊の経験から、事業の多角化に力を注いでいるためだ。新たな構想には、自動車メーカーにゴリラガラス製のフロントガラスを採用してもらうことがある。価格は高くなるものの、ひび割れや飛び石による損傷に強く、フロントガラス自体の重量も大幅に減らせる。

太陽光パネルに必要な材料と製品を、米国内の工場ですべて生産する構想もある。具体的には、多結晶シリコンを固めた「インゴット」、薄く切った「ウエハー」、光を電気に変える「太陽電池セル」、セルを組み合わせた「モジュール」までを供給する。現在、こうした部材と製品のほぼすべてがアジアでつくられている。


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■研究開発と企業間の提携が、次の製品を生み出すコーニングは以前から研究開発を最優先事項としてきた。2026年の予算は約10億ドル(約1580億円)となる見込みだ。2025年実績では、研究開発・エンジニアリング費用が売上高の7%を占めていた。●研究施設サリバンパークで、長く働き続ける科学者と技術者同社は研究を重視するだけでなく、優れた研究環境も用意している。ニューヨーク州コーニング市郊外のシェマング川流域の丘陵地には、約162ヘクタールの敷地に延べ床面積約18万6000平方メートルの研究施設「サリバンパーク」が広がる。最高技術責任者(CTO)のジェイミン・アミンによると、科学者や技術者の多くは数十年間、場合によっては現役生活のすべてを同社で過ごす。「ここで働き始めると、ずっと残りたくなる。まるで、一度入ったら離れられない『ホテル・カリフォルニア』のようだ」とアミンは冗談めかして話す。アミン自身も英国のサウサンプトン大学で光電子工学の博士号を取得して入社し、勤続29年になる。保有する特許は50件に上る。金融分野出身のウィークスも研究に携わり、47件の特許に発明者として名前が記載されている。●アップル向けガラスの供給と、クラウド大手との共同開発コーニングは、他社との協力関係を築くことにも長けている。コロンビア大学ビジネススクールのキャサリン・ハリガン教授は、「コーニングは戦略的提携や共同技術開発において、非常に謙虚な姿勢を取る」と評価する。代表例が、アップルとの数十年にわたる提携だ。ケンタッキー州ハロッズバーグのコーニング工場は、世界中のiPhoneとApple Watchに使われるゴリラガラスをすべて供給する拠点となった。2025年の関連売上高は約14億ドル(約2210億円)で、コーニング全体の売上高の9%を占めた。

また、巨大なデータセンターを運営するクラウド事業者と協力し、通信の遅れを小さくしながら、より多くのデータを運べる高密度・高性能の光ファイバーを開発している。将来は、AIの計算に使う画像処理半導体(GPU)の内部で銅製の配線をガラス製の光配線に置き換え、過熱を防げる可能性もある。


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■米国で生産を拡大する太陽光事業、売上高は前年同期の2倍近くに関税を巡る混乱が続く2026年、コーニングにとって太陽光パネル用の多結晶シリコンや新しいモジュールの生産を米国内で拡大するには、絶好の時期となっている。太陽光関連は同社で最も急成長している事業だ。2026年上半期の売上高は前年同期の2倍近い8億800万ドル(約1280億円)に達した。「必要な技術はすでに持っていた。だから事業を立ち上げた。太陽電池セルを構成する材料の90%は、我々が得意とする材料だ」とウィークスは語る。「他の産業で繰り返してきたことを、太陽光分野でも実現できると考えた。低コストで生産できる企業になり、新製品を発明し、改良を重ねていく」。●ひょうに強いガラスと、紫外線を発電に利用する技術アミンによれば、コーニングは、ひょうや強風で飛んでくる破片などによって壊れにくい、新型の太陽光パネル用ガラスを開発する見通しだ。発電量を増やすため、可視光だけでなく紫外線や赤外線など、より広い波長の光を取り込む太陽電池セルの研究も進めている。「発電に利用しにくい光子を、利用できる光子へ変える方法はないだろうか。紫外線の光子を可視光に変換できないだろうか」とアミンは問いかける。「太陽電池セルに特定のガラス層を設ければ、実際に変換できる」。■排ガス浄化技術を、工場から排出される二酸化炭素の回収へ応用ウィークスは、自動車の排ガス処理用に開発したセラミックス製フィルターの技術も、別の産業に応用できると考えている。製油所や化学工場、製鉄所から排出される二酸化炭素を、より低いコストで回収する方法に転用する構想だ。ウィークスは、工場などの排出源から回収する方法とは別に、大気中から二酸化炭素を直接回収する必要性についても考えを変えつつある。「大気から二酸化炭素を直接取り出さなければならない状況に陥るとは、以前は考えもしなかった。エネルギーを使うのだから、ばかげた話だと思っていた」と述べる。「しかし、我々はそこまで愚かな選択をしかねないと考え始めている」。

老舗ガラスメーカーが長年培った技術を使い、新しい事業に挑戦できることを改めて示している。

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