<主張>改正再審法が成立 不断の見直しが不可欠だ 検察は公益代表者の自覚持て 社説
再審の手続き規定を見直した改正刑事訴訟法が成立した。
現行刑訴法の制定から78年、再審に関する規定が改正・整備されたのは初めてである。刑事司法の歴史に残る大改革だ。
刑訴法は捜査から裁判まで、刑事手続きを約500の条文で定めた治安の担保だ。同時に、人権の砦(とりで)でもある。冤罪(えんざい)の疑いが強まった場合の再審手続きはここで規定されるが、現行法にはわずか19条分しかなかった。「再審をどう進めるか」が不明瞭で、判断に何十年という異常な長期歳月を要してきた。
■証拠開示が後退せぬか
誤判による死刑執行が発生すれば、死刑制度への支持は失われ、日本の法治は崩壊する。だからこそ再審規定の整備が不可避だった。今国会で法改正がなされたことは、刑事司法の持続性に向け一歩前進ではある。
だが、その内容は、真に適切な改正になったのか。改正法は問題をはらみ、「改悪」となる危険がある。
最大の問題は、検察が持つ証拠が適切に開示されぬ懸念があることだ。
現状は再審での証拠開示規定がなく、裁判官の運用格差があった。この解消へ、改正法では検察に開示を命じる規定が新設された。
ただし、開示対象は「請求理由(新証拠)に関連するもの」に限定された。「3審を経た確定判決は安易に覆すべきでない」と法的安定性を重視する法務省の意向が反映した。
過去には裁判所の勧告で幅広く開示された「一見、無関係に見える資料」から無罪方向の証拠が発見され、再審無罪に結び付いた事件が多い。改正法の限定「明記」は、こうした裁判官の柔軟な職権発動を縛ることになりかねず、「証拠開示範囲が後退する」との懸念が強い。
これに対し、「検察官の任意での証拠提出や開示は事案に応じ適切に行う」との文言が付則に追加されたが、効力は疑問だ。開示ルールを明文化しても、その結果、開示範囲が狭くなったら本末転倒だが、改正法にはその危険がある。「改悪」指摘が出る所以(ゆえん)だ。
そもそも弁護側は、検察がどんな証拠を持っているか分からない。国会審議では、証拠一覧(リスト)を開示させる規定の新設を求める意見が出たが、政府側は応じなかった。
開示証拠を再審請求以外で使うことを罰則付きで禁じた規定も修正されなかった。再審請求審の手続きは非公開のため、国民の目が届かない。報道によって証拠情報が共有されるのを、この規定は禁じる。国民の知る権利を侵す問題規定である。
これらの懸念は国会提出時から指摘されていた。
国会提出前の事前審査で自民党は法務省案を3回にわたって突き返し、検察官抗告を「原則禁止」まで修正させた。政治の良識を感じさせる対応だったが、提出期限が迫り、抗告以外には修正が及ばなかった。
■司法不信の原因考えよ
必要性が指摘されながらも動かなかった再審見直しが本格化した契機は、超党派の国会議員連盟が立ち上がり、議員立法をまとめたことだった。政治の力はまことに大きかった。
だが、実際に国会審議に入ると与党が修正に応じず、問題を残したままの成立となった。
この再審法制が真に冤罪救済につながるか。刑事司法の持続性に資するか。本質的な論点を巡る議論が、与野党対立による国会空転で中断されてしまったのは、残念の一言に尽きる。
改正法によって国民が納得する公正な再審制度となるかは、検察の態度にかかっている。
検察は法改正の趣旨を重く受け止め、公益の代表者たる自覚を強めるべきだ。無罪方向の証拠の開示を拒み、組織防衛の如(ごと)き抗告を繰り返すような態度をとってはならない。有罪追及者としてだけでなく、真相解明を牽引(けんいん)する存在になるよう組織を引き締めなければいけない。
刑事司法への不信は、袴田巌さん、前川彰司さん冤罪事件で判明した検察の振る舞いへの国民的反発に負うところが大きい。当初の法務省案がなぜ強い反発を招いたか、法務検察は真摯(しんし)に反省する必要がある。
改正刑訴法は施行後5年ごとの見直しが付則に明記された。整備された制度の運用実態はどうか。懸念された証拠開示や検察官抗告はどうなるか。再審をはじめとする裁判制度の見直しは終わっていない。再び政治が主導し、臨機応変に適切な見直しを行うことを期待する。