「臭いにおびえて転居」の現実 コンセント穴から隣家のタバコ臭 抗議でクレーマー扱い

「住宅での受動喫煙被害を考える会・兵庫」のホームページ

近隣の住戸からの受動喫煙に対して改善を訴えた人の半数以上がクレーマー扱いされるなどの二次被害に苦しんだとの調査結果がある。市民団体「住宅での受動喫煙被害を考える会・兵庫」が行った調査。受動喫煙は乳幼児突然死症候群や脳卒中、虚血性心疾患など、命にかかわる疾患を引き起こすとされ、専門家は「空気取り入れ口やコンセントの穴などから、近隣のたばこの煙が部屋に流入するケースがある」と指摘している。

「配慮して喫煙している」に同情論

同団体代表の女性(58)は兵庫県明石市の分譲マンションに住んでいたが、令和3年に隣の部屋に喫煙者が入居。窓を開けていなくても一日に何度もたばこの臭いが室内に漂い、気分が悪く、喉や目が痛むようになった。10代だった長女や近隣の他の住人も体調不良を訴えた。困っていることを直接伝えたり、管理会社に注意を促す貼り紙を掲示してもらうなどしたが、被害は続いた。

管理組合にも相談したが、喫煙者側が「紙巻きたばこから加熱式たばこに変えた」「配慮して喫煙している」と釈明。管理組合の理事の中には同情し、「先方はこんなに努力している」「お互いさまの精神はないのか」と女性を責める人も現れた。ただ、体調不良は続いており、対応を求めざるを得ない。「理解されず、苦しかった」と振り返る。

トラブル恐れ我慢

結局、女性は昨年6月に転居した。「受動喫煙が続いたことで少しの臭いにも敏感になってしまった。臭いにおびえる日が続くと思うと、引っ越すしかなかった」。同じように苦しんだ経験を持つ人とともに団体を設立した。

団体ではインターネットで受動喫煙被害の実態についてのアンケートを続けており、これまでに21人が回答。そのほとんどが近隣トラブルに発展することを恐れ、我慢していた。

喫煙者側や管理会社に対応を求めるなど、何らかの行動をとった人は5人。このうち3人が、女性と同じように「神経質すぎる」「気のせいではないのか」と逆に非難されるなどの二次被害を経験していたという。

「喫煙者を糾弾するために大げさに言っているわけではなく、健康を害している。いつ誰の身に起こるか分からない問題だと知ってほしい」と女性は訴える。

たばこの副流煙には発がん性物質などが含まれ、国内では年間約1万5千人が受動喫煙で死亡しているとの推計もある。煙が少ないとされる加熱式たばこからも有害物質は排出されることも明らかになっている。

家族を守る換気扇喫煙、煙は隣の室内へ

国家資格「臭気判定士」を持ち、悪臭を分析し、問題を解決する「におい・かおり環境アドバイザー」として活動する石川英一さん(66)によると、たばこの煙は刺激が強く、濃度が低くても感知しやすいのが特徴だという。

「マンションの場合、台所などの換気扇の下で吸ったたばこの煙はベランダか外廊下に排出され、風向きによって近隣に流れる。最近の住宅には外気とつながる『空気取り入れ口』がついており、そこからたばこの煙を含んだ空気が吸い込まれることがある」と石川さん。このほか、古い集合住宅では壁の裏側や天井裏が隣接する住戸とつながっていることがあり、部屋の換気扇を回すと、コンセントや電灯の穴を介して隣の部屋の空気が流れ込んでくることもある。

石川さんは依頼を受けて現場に赴き、目には見えない臭気を調査する。「原因が分からなければ対策は立てられない。臭気の原因を見つけ出し、対策を提示する」。ベランダの仕切りを変えるなどの対策で流入を防げるケースもあるという。

5月31日は世界保健機関(WHO)が定める「世界禁煙デー」。厚生労働省は同日から6月6日までを禁煙週間とし、「受動喫煙のない社会を目指して~私たちができることをみんなで考えよう~」をテーマに、禁煙や受動喫煙防止を呼びかけている。(加納裕子)

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