米屋がため息「新米が高すぎて売れない」 スーパーに在庫が山積 おいそれと「値下げ」できない切実な理由

税込み5キロ5000円超えが当たり前になった新米=米倉昭仁 この記事の写真をすべて見る

 慢性的なコメ不足から一転、新米が余り始めている。高すぎて売れないのだ。「シャッターを下ろした米屋もある」という。

【コメ問題】なぜここまで値上がりしたのか【徹底解説】

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 新米が、売れていないという。

「例年の新米シーズンとは、消費者の動きが全く違います」

 首都圏の老舗米店の店主、中村真一さん(仮名)は、そう言って肩を落とした。

「この時期にいらっしゃるお客さんは、例年なら『新米があるなら、買っていこう』と言われることが多いのですが、今年は値札を見て、昨年産の古米を買っていくんです」(中村さん)

 店頭に並べられた新潟県・魚沼産コシヒカリの新米は、税込み5キロ5800円、6年産は5キロ4900円。

「6年産の他の米は5キロ4000円台前半です。そういった割安な米から売れていく。新米の販売量は前年に比べて相当落ち込んでいます」(同)

農家からの買い取り価格が高かった

 新米が5キロ6000円近く、古米ですら5キロで4000円超。ほんの1年前は想像すらしなかった高値が続いている。

 米価、特に新米の価格高騰の背景には、JAなどの集荷業者が、農家から高値で米を買い集めたことがある。それぞれ販売する在庫を確保するためで、田植え前から買い取り金額が農家に提示された地域もあるという。はじめの値づけが高かったため、米店は卸売業者から高い価格で仕入れせざるを得ず、それが販売価格に反映されたかたちだ。根本に米が不足することへの不安があるとはいえ、米価はこうした動きからも吊り上がる。

 中村さんは米を仕入れる前の夏ごろ、こう悩んでいた。

「今年の新米はかなりの高値になる。消費者は納得してくれるだろうか」

 いま、その心配が「現実になった」と感じている。米店への打撃は深刻だ。

米屋がつぶれる恐れ

「シャッターを下ろした米屋もあります」(同)

 売れる見通しの立たない一般客向けの新米の在庫をかかえるのは、「リスクが大きすぎる」と判断し、飲食店向けなど、業務用の米に売り先を絞ったのだ。当然、売り上げは落ちる。

 中村さんらの米穀小売商組合のメンバーからも、「来年秋までに何軒の米屋がつぶれるかわからない」と、苦しい声が上がっているという。


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なぜ米は値上がりした? 徹底解説

 中村さんは、販売する主力の銘柄米について卸売業者と年間契約を結び、仕入れている。販売量の減少を見越して、仕入れる米の量を減らすことはできなかったのか。

「長年の取引関係がありますから、難しいです。昨年、品薄に苦しんだとき、『なんとか米を入れてもらえないか』と何度もお願いしたのはこちら。それなのに、『今年はそんなにいらない』とは言えない。信頼関係がありますから」(同)

 年間契約以外の米については、少しずつ米を仕入れる「当用買い」で対応するという。

 中村さんが本当に懸念するのは、米の市場のこれからだ。

「在庫は今後、だぶついてくると思います」(同)

バックヤードに新米山積み

「スーパーに納品に行くと、バックヤードにはこれまで見たことがないほど、新米があふれています」

 こう話すのは、別の老舗米店の店主、小島敏郎さん(仮名)だ。

 スーパーの売り場に並ぶのは、精米した米だ。精米した米の品質は徐々に下がっていくため、保存は利かず、おおむね1カ月程度で破棄されることになる。

「新米が売れないからといって、値引き販売すると、他の米の値づけにも大きく影響する。破棄する前に社員に割引価格で販売している店もあります」(小島さん)

年明けに値崩れする可能性

「新米」と表示できるのは、当該年度に収穫して年内に精米・包装した米のみと、食品表示法の食品表示基準で定められている。

「『新米』のプレミアがなくなる来年1月ごろから、スーパーでは米の特売が始まるでしょう。1割くらいは安くなるのでは。赤字覚悟で、もっと安く売る店もあるかもしれません」(同)

 米の値崩れは、米店やスーパー、小売店にとっては打撃だろう。だが、高値が続くいま、物価高に苦しむ消費者にとっては朗報になるといえる。

 生産者と消費者間の不幸な利益相反が解消されるのは、いつになるのか。主食である米の価格混乱はまだ続きそうだ。

(AERA編集部・米倉昭仁)

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