南シナ海の軍事バランス影響出るか? 史上初「フィリピン軍潜水艦」誕生の機運 ヨーロッパ企業が猛プッシュ

フィリピンが初の潜水艦を導入しようと計画中です。そのための戦略的パートナーシップをイタリアとドイツの造船会社が結びました。いったいどのような潜水艦を提案しているのでしょうか。

フィリピン軍の近代化計画の一環で導入を計画

 イタリア造船大手のフィンカンティエリは2025年4月16日、フィリピン海軍に対して先進的な潜水艦を提供するための産業協力協定(Industrial Cooperation Agreement)を、ドイツの造船企業ティッセンクルップ・マリン・システムズ(TKMS)と締結したと発表しました。

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潜水艦のイメージ(画像:海上自衛隊)。

 これは両社による幅広い戦略的パートナーシップの一環で、フィリピンに提案しているのはイタリア海軍向けに開発・建造中のU212NFS級潜水艦とのこと。実現すればフィリピン初の潜水艦となります。

 このプロジェクトの注目点はU212NFSの輸出だけでなく、イタリア海軍による運用支援が含まれていることです。フィリピン海軍はこれにより、訓練、ドクトリン、ロジスティクスといった恩恵を受けることになります。

 専門的な技能の教育と潜水艦の運用訓練まで支援パッケージの中に含まれているため、これによりフィリピン海軍は、高度なスキルを習得した潜水艦乗りを迅速に育成することができるでしょう。これらに加えて、フィンカンティエリとTKMSは、フィリピンの「自立防衛態勢活性化法」の一環として行われる、新たな海軍基地の建設も支援する模様です。

 フィンカンティエリのピエロベルト・フォルジエロCEO(最高経営責任者)は「我が社は数十年にわたって潜水艦を建造してきた実績により、海軍向けの高性能なソリューションを提供できるノウハウも確立している。今回の協力は、イタリアとドイツの最先端技術と品質を活用し、自社の国際輸出戦略を推進するうえで重要なマイルストーンとなるだろう」とコメントしています。

 U212NFSは、ドイツとイタリアが協力して開発したU212A級潜水艦の発展型です。全長は59m、最大直径は7m。排水量は1600トンで、乗組員数は29名です。すでに、イタリア海軍向けとして4隻が建造中で、2027年12月に1番艦が引き渡される予定。さらに大型化した排水量2000トン超の「U212 NFS EVO」も計画されています。

 フィンカンティエリによればU212NFSは音響、磁気、視認性を低く抑え、極めて高いステルス性を備えるとしています。また非大気依存推進(AIP)システムによって長時間の水中航行が可能な点は戦略的に大きな優位性を得られるうえ、アマノックス非磁性鋼の使用や新しいステルス技術などと組み合わせることで探知を事実上不可能にしていると同社ではアピールしています。また、主要な技術と部品はTKMSが供給することで、最高の品質基準と厳格な規制要件を満たしているそうです。

 フィリピンは南シナ海において中国との緊張感が増すなか、海軍を中心に戦力の強化を図る近代化計画「Re-Horizon 3」に約350億USドル(約5兆750億円)の予算を計上しています。

 前出の潜水艦の導入計画はこの一環で、同国海軍は2隻の調達を検討しており、新たな潜水艦基地の整備と合わせて800億~1100億フィリピンペソ(約2000億~2750億円)を予算に盛り込んでいます。

1988年生まれ。大学卒業後、防衛専門紙を経て日本海事新聞社の記者として造船所や舶用メーカー、防衛関連の取材を担当。現在はフリーランスの記者として活動中。

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