ヤマ場迎えるトランプ関税相場、あく抜けに期待も乱高下リスク消えず
トランプ米大統領の関税政策に翻弄(ほんろう)されてきた金融市場が一つのヤマ場を迎える。2日の自動車関税発効と相互関税の発表で、材料出尽くしによる「あく抜け」への期待がある半面、日本や米国経済への影響が読み切れず、株安や為替相場の乱高下が続く可能性もある。
トランプ政権は米国産以外の全ての自動車を対象に25%の輸入関税を発動、米東部時間3日午前0時1分(日本時間同日午後1時1分)から徴収を開始する。また、より広範な相互関税と追加のセクター別関税を2日に発表する予定で、トランプ大統領が言うように「寛大」な内容となるのか、適用除外や軽減措置の有無など市場は固唾(かたず)をのんで見守っている。
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東京株式市場は昨年11月の米大統領選挙以降、トランプ関税への警戒感に上値を抑えられてきた。とりわけ基幹産業である自動車への関税賦課は日本経済に甚大な影響を及ぼしかねず、外国人投資家は今年に入り日本株を大幅に売り越している。為替市場はリスク回避の動きから円高に振れる場面が目立ち、ヘッジファンドなど投機勢による円の買い越しは過去最高水準に膨らんだ。
相互関税は金融市場を覆ってきた先行き不透明感の根源の一つで、全容が明らかになれば過度な警戒ムードが和らぎ、日本株は上がりやすくなるとの見方がある。一方で、中国やカナダは報復措置を講じる構えで、貿易戦争の激化が新たなボラティリティーを生み、株安・円高の連鎖を呼ぶ可能性も否定できない。そもそもトランプ大統領の関税政策は「朝令暮改」を繰り返しており、今回の発表で不透明感が払拭される保証はない。
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3月31日の日経平均株価は、関税政策で米経済がスタグフレーション(景気低迷の中での物価高)に陥るとの懸念から急落。下げ幅は1500円を超え、今年最大となった。
UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメントの小林千紗日本株ストラテジストは、相互関税の発表後はいったん材料出尽くしで、IT、銀行、内需系など関税の直接的な影響が少なく連れ安してきた株を中心に上昇しやすいと予想する。ただ、相手国による対抗措置など不透明要因が残るほか、「今後迎える本決算でもガイダンスは減益となる可能性が高く、相場がV字回復することにはならない」とみている。
以下は市場関係者が想定する相場への影響だ。
株式
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の大西耕平上席投資戦略研究員
- 日本にとって影響が大きいのは相互関税より自動車関税。実際に発動されれば自動車株の1株当たり利益(EPS)が下がり、日本株全体のEPSも下がるとの観測から日経平均で1000円から2000円程度下がることもあり得る
- その後、来週にかけては減益を織り込んだ水準になり、材料出尽くし感で買われる可能性もあるだろう
りそなアセットマネジメントの黒瀬浩一チーフ・ストラテジスト
- 4-6月は各国の交渉次第となり、日本を含め株価は不安定だろう
- ただ、日本は各国の中でも有利な位置。25%関税で自動車の収益は厳しくなるが、円安メリットをもらっているのは日本だけで、関税導入後もドル建ての現地価格を維持できる余裕はある
- トランプ政権は関税で得た資金を減税に回すとみられ、そうなれば悪い話は出尽くす可能性がある
ニッセイアセットマネジメントの松波俊哉チーフアナリスト
- 相互関税発動後に各国と交渉が短期で進む可能性があり、実体経済に大きな影響を与える前に軽減措置などが出ることもあり得る
- 4月2日から最長1カ月が交渉の勝負だろう。軽減措置が出れば株価は戻る。不安にかられて最悪を織り込んだ今こそ株は買い時だ
為替
野村証券の後藤祐二朗チーフ為替ストラテジスト
- 関税が想定範囲内にとどまり、先行きの不確実性も少し晴れる内容なら、円ロングポジションの取り崩しでドル・円が153円程度までリバウンドする可能性はある
- 不確実性が強く残る場合や、中国や欧州の対抗措置の動きが出てくるとクロス円含め上値の重い展開が続き、ドル・円は150円を下回る円高が定着するリスクが高い
三菱UFJ信託銀行資金為替部マーケット営業課の酒井基成課長
- 関税発動後の相場の反応は読みづらい。相互関税でトランプ大統領がどのくらい寛大さを出してくるか次第
- リスクセンチメント改善に伴うクロス円の買いでドル・円も上昇するのか、リスクオフでドル・円下落か、片方にベットすることはできない。基本的にはどちらでも動けるように、新たなポジションを作らず半身で構える
オーストラリア・ニュージーランド銀行外国為替・コモディティ営業部の町田広之ディレクター
- 関税発動への反応は普通に考えればリスクオフで、米国経済にとってはスタグフレーションの方向に働くので、為替ポジションもその方向
- 株価下落でドルが売られる展開に備えてドルインデックスの売り、インフレによる米国金利上昇で日米金利差の拡大に備えてドル・円を買うポジションが有効だろう
債券
岡三証券の長谷川直也チーフ債券ストラテジスト
- 関税で世界景気の下振れリスクが強まり大幅な株安が続くと、昨夏の市場不安定の状況が意識され、日本銀行は利上げに慎重になるとの見方から債券買いの材料になりやすい
- トランプ政権が景気を大きく押し下げる政策を続けるかが注目で、米政府の対応次第では従来通りに日銀利上げが継続されるとの見方に戻る可能性がある
りそなアセットマネジメントの藤原貴志債券運用部長兼チーフファンドマネジャー
- 自動車産業の広がりから国内景気に影響するとみられ、債券は売れない
- ただ、今回の国内景気回復は外需よりも内需、人手不足による投資によるため、鉱工業生産指数など経済指標で実際に関税発動の影響を見る必要。景気への影響がそれほどでなれば、債券も買われていかないだろう
パインブリッジ・インベストメンツ債券運用部の松川忠部長
- 自動車関税による景気悪化を見込んですでに日本国債は買われて金利が大きく低下したので、万が一関税がないということになれば金利は上昇するだろう
- 新年度入り直後なので、国内投資家は決め打ちせずに、関税の内容や市場の反応を見て動こうという姿勢が中心だ
クレジット
SMBC日興証券の原田賢太郎チーフクレジットアナリスト
- 各社の信用力によって影響度合いは変わってくるが、日本では自動車セクターへのインパクトが大きい
- 米国の景気、株価、クレジット市場の動向が国内のクレジット投資センチメントに影響を及ぼすだろう
土屋アセットマネジメントの土屋剛俊社長
- 自動車産業が巨大である日本への影響は大きいが、特に日産自動車にとっては経営統合がうまくいかないさなかでの関税であり、ダブルパンチ
- 投資家にとっても新発債は買いづらく、リファイナンスはしにくいだろう