超富裕層への増税の次は消費減税? 「高市課税」から荻原博子さんが予測する驚きの解散シナリオ

経済ジャーナリストの荻原博子さん この記事の写真をすべて見る

「超富裕層への課税強化」を打ち出した高市政権。東京都の税収を地方に再配分する「偏在是正措置」も含めて「取れるところから取る」課税方針は加速するのか。経済ジャーナリストの荻原博子さんは、中間層の支持を背景とした解散シナリオを予測する。

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 「税制の公平性の確保に向けては、現行制度を躊躇なく見直す」

 2025年末に発表された与党税制改正大綱の「基本的考え方」で示された方針だ。

 東京都の税収を全国に再分配する「偏在是正措置」や、年間所得額が1億円を超えると税負担率が下がる「1億円の壁」の是正に向け、超富裕層への課税を強化する方針も盛り込まれた。

「東京都にしろ、超富裕層にしろ、『取れるところから取る』っていうと異論が出にくいですよね」

 こう話すのは経済ジャーナリストの荻原博子さんだ。

 大綱では、給与所得者の「年収の壁」も見直され、所得税の非課税ラインが年収160万円から178万円に引き上げられることが盛り込まれた。年収665万円以下の人が対象となり、納税者の約8割に減税の恩恵がもたらされることになる。

「これも高額所得者は恩恵を受けないように設計されています。高市政権は日本維新の会との連立が不可欠な脆弱政権なので、少しでも多くの世論の支持を集めたい。そうなると、裾野の広い中低所得者層に受けのよい政策を推進する一方で、超富裕層などの『取れるところからは取る』という考え方が優先されるのも分かります」(荻原さん)

「中間層」は高市早苗首相も意識しているようだ。

 国会内で国民民主党の玉木雄一郎代表と「年収の壁」の引き上げなどをめぐる合意書に署名した2日後の昨年12月20日。高市首相は自身のX(旧ツイッター)で、こんなアピールをしている。

「低所得の方々だけでなく、同じく物価高に苦しむ中間層の方々の負担軽減をも重視したものです」

 超富裕層の課税強化をめぐっては、楽天の代表取締役会長兼社長最高執行役員の三木谷浩史氏、実業家の前澤友作氏といった「当事者」ともいえる側から疑問を呈する声が与党大綱の発表前から相次いだ。これについて荻原さんはこう指摘する。


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「三木谷さんも前澤さんもお金持ちですから、どうせお金持ちだから反対するんだろうな、と多くの人から思われてしまうのは否めないでしょう。そもそも『税の公平性』は再配分機能によって担保され、それを推進するのは政治の役割です。日本は米国のような極端な格差社会にはなってほしくないと考える人は、日本では多数派だと思います。高市さんのほうに風が吹くのも必然ですね」

 高額所得者の課税強化をめぐっては、金融所得課税の税率アップも近年取り沙汰されているが、株式市場への悪影響を心配する声もあり、今回の大綱には盛り込まれなかった。一方で、今回盛り込まれた「1億円の壁」の是正に向けた取り組みは、追加の税負担を課す年間所得の基準を現行の30億円超から6億円超に引き下げ、対象者への適用税率も22.5 %から30%に引き上げる、というもの。だが、6億円以上の高額所得者は約2千人。30億円以上が約200人だったのに比べると、課税強化の網は広がるのは確かだが、これをどう受け止めるべきか。荻原さんは高市政権でも金融所得課税の税率アップは困難ではないか、と話す。

「『貯蓄から投資へ』という流れのなか、経済的余裕のない人にまで国が投資を奨励しているさなかに、それに冷や水を浴びせるような課税強化には容易に踏み切れないと思います。自民党の票田ともいえる高齢者の反発を招くリスクもありますから」

 とはいえ、中間層もうかうかしていられない。

「今は政権が発足したばかりですから、まずは世論を味方につけ支持基盤をしっかり固めたい。しかしこの先、財源不足になる可能性もある。そうなると、『広く浅く取る』方向に逆回転していく可能性はありますね。超富裕層の次は中間層がターゲットになる、というわけです」(同)

 大綱には、防衛力強化の財源を確保するための所得税増税の開始時期を27年1月とすることも盛り込まれた。気になるのは「逆回転」の時期の目安だ。

安倍晋三さんも首相時代、2度も消費税増税を繰り延べました。でも結局、5%から8%、10%に引き上げたのは安倍政権ですからね。注視すべきはどのタイミングで税率引き上げを繰り延べたり、踏み切ったりしたのか。要は選挙ですよ」(同)


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 政権基盤が弱い選挙前には「増税を延期」もしくは「減税」、選挙に勝って政権基盤が安定したタイミングで「増税」ということなのか。

 荻原さんは、高市首相が1月中にも衆議院の解散・総選挙に踏み切る可能性があると予告する。その際、首相には「隠し玉」があると言う。

「衆議院の解散・総選挙に踏み切る際、高市さんには『食品の消費税ゼロ』という隠し玉があります。これを公約に掲げれば大勝ですよ」

 これは「財政規律派」の石破茂前首相には踏み越えられない関門だった。しかし高市首相の場合、もともと消費減税派であり、折に触れて消費減税は「政策オプションの一つ」と言及している。

「財務相に片山さつきさんを配置したのも、財務省に『消費減税』をのませるための地ならしの意図があると見ています。この隠し玉は最も効果的なタイミングで打ち出さないと意味がありません。それは衆議院の解散前しかない。そのことを高市さんは政治家として百も承知のはずで、一発逆転の最強カードともいえる千載一遇のチャンスを絶対に逃さないと思います」(同)

 そうなると困るのは野党だ。

「先の参院選では野党が軒並み『消費減税』や『消費税廃止』を訴えたのに対し、自民は『維持』という構図でした。自民が『消費減税』に回れば野党は争点を失います。これに代わる争点は、政治資金規正法改正ぐらいしかありませんが、消費減税に対抗できるほど世論の関心は高くありません」(同)

 巷では、年明け解散は「見送りの方針」と報じられ、通常国会が終わる6月解散説が有力視されている。しかし、高市政権の「積極財政」のもと、国債需給の悪化懸念と財政への信頼低下が強まれば、円安傾向が一段と進み、国内物価のさらなる上昇につながる可能性も指摘されている。金融市場が財政リスクの警鐘を鳴らしている、との警戒感も足もとでくすぶる。こうした状況も踏まえ、荻原さんは言う。

「6月解散だと、高市政権の支持率はすでに失速しているかもしれません。一方で、政権発足から3カ月間といわれるハネムーンの時期が続いているうちに高市さんが解散に踏み切れば、長期盤石政権になる可能性があると見ています」

 (AERA編集部・渡辺豪)

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