ゼレンスキー大統領、モスクワに届く弾道ミサイルの準備がまもなく整う
ウクライナのゼレンスキー大統領はロイターの取材に「我々にも(モスクワに届く)FP-9が必要だ」「私はFP-9が今秋に準備が整うだろう」と明かし、最大800kgの弾頭を最大850km先まで運搬可能な短距離弾道ミサイルの登場を予告したが、これはFP-9の量産が可能になるという意味ではない。
参考:EXCLUSIVE: Ukraine will hit Russian refineries in response to Moscow’s ‘new doctrine’ of airstrikes, Zelenskiy says | Reuters 参考:Ухудшение на Славянском направлении
ゼレンスキー大統領は10月1日「ウクライナ製の戦術弾道ミサイルFP-7が初めて実戦投入された」「次は量産だ」と発表し、ロイターの取材に「プーチン大統領が新たな攻撃方針を採用したことを示す文書を入手した」「その文書によればインフラや物流、特に都市や村などあらゆる場所、道路、学校、病院などを攻撃し、人々を首都や都市から離れさせる圧力をかけるつもりだ」「この攻撃方針の転換はロシア軍が前線地域で勢いを失い始め、犠牲者が増えているため強さを示すことをプーチン大統領が望んだために起こった」と述べた。
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ウクライナにおけるロシア軍の前進は昨年と比べて大幅に低下し続けており、ウクライナ人が運営する情報分析グループ=DeepState、フィンランドのBlack Bird Group、視覚的証拠の位置情報をまとめているロシア人ミルブロガーのСливочный капризが提示するロシア軍の前進=占領面積の増加率は各観測者によって数字は異なるものの、ウクライナ陣営、中立陣営、ロシア陣営に共通するのは「ロシア軍の勢いが昨年と比べて大幅に減少している」という傾向であり、現在のペースで2026年中にドネツク州全体を手に入れるのはほぼ不可能、2027年中にドネツク州全体を手に入れるのも難しいだろう。
過去の教訓に照らせばドネツク州のスラビャンスクやクラマトルスクを一方向からの圧力で制圧するのはほぼ不可能で、ロシア軍は北のリマン方面と南のドブロピリア方面からスラビャンスクやクラマトルスクの背後に回り込もうとしているものの、ウクライナ軍の第三軍団が夏に開始したヴィヴァルディ作戦によってリマン方面のロシア軍が押し返され、ロシア人ミルブロガーが運営するRYBARは10月1日「リマン方面に続きスラビャンスク方面でも状況が悪化している」「敵がリマン方面に大規模なドローン部隊を投入したためスラビャンスク方面のロシア軍が側面からの攻撃に晒され補給路の再構築や攻撃の停滞を余儀なくされている」と報告。
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さらにロシア軍や露国営メディアが主張するハルキウ州のレズニコヴォ包囲網やザポリージャ州のオレホボ包囲網は今のところ視覚的に裏付けられておらず、前線の状況が思わしくなくなったときに発動する壮大なプロパガンダか、百歩譲っても成功の前借りである可能性が高く、ゼレンスキー大統領が言及した「新たな攻撃方針の採用理由」は実際の前線状況と一致し、その対応について「ウクライナはロシアの戦術変更に対応していくものの民間インフラを無差別に攻撃することはない」と述べ、ロシアに戦費を与える石油産業への攻撃を強化していくと示唆した。
ゼレンスキー大統領がロイターの取材中に明かした内容で特に興味深いのは「私はファイアポイントに我々のFP-9はどこにある?と言った」「我々にも(モスクワに届く)FP-9が必要だ」「私はFP-9が今秋に準備が整うだろう」と述べた点だろう。
ゼレンスキー大統領が10月1日に実戦投入を発表したFP-7は米国製のATACMS相当の戦術弾道ミサイルで、ファイアポイントがWEBサイトで公開している最新の公式スペックは弾頭重量200kg、最大射程250km、正確さ=恐らく平均誤差半径(CEP)は14mで、ウクライナ国境から約500km離れたモスクワを攻撃することは不可能だが、FP-9は最大800kgの弾頭を最大850km先まで運搬可能な短距離弾道ミサイルだ。
今秋に準備が整うという言葉の意味(国内試射の準備が整う、ロシア領に向けた試射の準備が整う、実戦投入の準備が整う、量産準備が整うなど)が何を指しているのか不明で、そもそもFP-9が射程850kmを達成するには4.6トンの推進剤(FP-7は1トン)が必要になり、ファイアポイントが建設を進めているデンマーク工場の推進剤生産能力は年間4,000発超相当(ミサイルが使用する推進剤の量によって異なる)を想定し、ここがFP-7やFP-9を安定的に大量生産するための鍵となる。
出典:Fire Point
このデンマーク工場の稼働は2027年末を予定しているため、ゼレンスキー大統領の言及は現実的に「ロシア領に向けた試射の準備が整う」といったところだろうと予想され、仮に国内の推進剤供給でFP-9の生産を始めても月数発程度では大した意味がない。
付け加えるなら、10月1日に実戦投入を発表したFP-7についても「次は量産だ」と述べているため、FP-7のステータスも「安定的に大量生産が始まって兵器として完全に軌道に乗った」ではなく「ロシア領に対する試射=実戦環境におけるテストを行った」と解釈するのが妥当で、国内の推進剤生産や生産規模の拡張は非常にリスクが高いため、現在の自爆型無人機のようにFP-7やFP-9が量産兵器として安定的に供給できるのは早くて2027年後半以降になるだろう。
出典:Президента России
それでもウクライナにとってモスクワに届く弾道ミサイル=FP-9は「長距離攻撃能力の対称性実現」に欠けている最後のピースで、ロシアにとって2027年後半は享受してきた「長距離攻撃能力の非対称性」の賞味期限が切れることを意味し、戦いが長引けば長引くほどロシア国民はウクライナ国民が耐えてきた苦痛を味わうことになる。
念の為に言っておくとウクライナがロシアの弾道ミサイルを含む長距離攻撃に耐えてきたので、ロシア国民の士気と産業基盤が同じ脅威に晒されても崩壊するという極端な成功には繋がらず、この戦争を左右するようなゲームチェンジャーにはならないが、1つだけ決定的に異なるのはウクライナは欧州の支援で戦費を賄うことができるものの「ロシアは自力で戦費を捻出しなければならない」という点で、その文脈からいくと最大800kgの弾頭を運搬可能なFP-9(FP-1の約7倍)による石油産業への攻撃はアキレス腱になる可能性を秘めており、いつものように攻撃されてから本格的な対策に乗り出すなら極めて深刻なダメージを受けるだろう。
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※アイキャッチ画像の出典:Fire Point FP-9