米国が中堅国の武器国産化を容認、同時に米国排除に繋がる結束に警告
米国のコルビー国防次官は東南アジア訪問中に「中堅国が武器を国産化して米国製兵器の購入をやめても問題ないが、中堅国が手を組んで米国製兵器の排除に繋がる動き=米国排除に国防費を投資してはならない」と述べ、カナダのように中堅国が結束する動きを警告した。
参考:On Asia trip, DoD policy chief has praise for AUKUS, and a warning for ‘middle powers’
トランプ大統領は2月に署名した米国第一主義の武器移転戦略の中で「同盟国やパートナー国に購入を推奨する米国製武器の販売カタログを作成し、国防支出を増やした諸国の資金を米産業能力の構築に活用し、将来の武器売却において米国の優位性と利益を確保する」「諸国への武器売却は国防支出の増額をどれだけ達成したかで優先順位付けを行う」と宣言し、ヘグセス国防長官も5月のアジア安全保障会議で「国防費のGDP比3.5%引き上げ要求を拒むなら明確な変化に直面する」と警告した。
出典:The White House
“トランプ大統領は絶対的な基準を設定した。我々は同盟国やパートナー国に3.5%を要求しているが、我々自身はその数字をはるかに超えて投資をしている。すべての同盟国やパートナー国がこれと同等の決意を示すことを期待している。この課題に立ち向かい真のパートナーとして責任を受け入れる国々への恩恵は明らかだ。我々はモデルとなる同盟国、すなわち最も能力が高く、現実を直視し、自国の国益を守る準備ができている国々との協力を優先する。そうした国々に対しては優先的に対応し、武器販売の迅速化、産業基盤における緊密な協力、情報共有の拡大など、多くの国に利益をもたらす様々な施策を実施する”
米国政府にとって武器は同盟国やパートナー国の安全保障に影響力を行使するための政治的ツールで、これを支えているのが恩恵というスタンスの対外有償軍事援助(FMS)であり、同盟国やパートナー国の武器開発や武器輸出を事実上規制する国際武器取引規則(ITAR)であり、武器の政治利用は今に始まったことではないものの、トランプ政権になって米国製兵器離れが加速しているのは「武器の政治利用」が露骨すぎるためだ。
The simple fact of the matter is that no alternative country or countries can compete with the U.S. defense industrial base, either in quantity or quality. The United States, as the President says, makes the best equipment, and we make it at a scale that no plausible competitor…
— Under Secretary of War Elbridge Colby (@USWPColby) July 14, 2026
米防衛企業の代表者らは「米国と欧州の関係を巡る懐疑的な見方から、欧州は米国が規制する部品を使用した兵器購入から脱却する動きが本格化し、この懸念はもはや無視できないものになりつつある」と危惧しているが、エルブリッジ・コルビー国防次官は米防衛産業界への影響を懸念する声に「率直にいって量においても質においても米防衛産業に匹敵する国は存在しない。大統領が言うように米国は最高の装備品を作っており、競争相手が到底敵わない規模で生産している。どちらかと言えば米国防衛産業へのアクセスは権利ではなく特権なのだ」と一蹴した。
コルビー国防次官の発言は「同盟国だから米国製システムを買えて当たり前と思うな」「米国が与える最高レベルの軍事技術に対するアクセスや兵器を売ってもらえるのは特別な恩恵だと思え」「本当に世界最高の兵器が欲しいなら我々のルールに従え」「むしろ売ってもらえることをありがたいと思え」という意味で、コルビー国防次官は東南アジア訪問中のオンライン記者会見でも「中堅国が手を組んで国防投資の資金を政治的に産業戦略的に利用し、米国を排除することは許さない」と警告した。
出典:Under Secretary of War Elbridge Colby
“もしかすると現実的で刺激的になるかもしれないが、(東南アジア訪問中に)安心感を与える明確なメッセージを伝えるつもりだ。それはインド太平洋地域における米国の国益への関与がこれまで以上に強まっており、我々はその利益を断固として防衛することに注力しているということだ。これは米国による同地域への強力かつ拡大する投資を意味する。それと同時に同盟国やパートナー国に対しても、これまでよりはるかに大きな努力と貢献を求める。これは常識的な期待も伴うものだ”
“(中堅国がカナダのように類似国と結束しようとする動きについて)無益で無謀とも言える追求に乗り出せば、多大な時間、労力、資源などを無駄にするリスクがある。我々は中堅国が自らの力を強化することを望んでいるし、独自の防衛産業を発展させて武器を国産化するよう促している。しかし、こうした動きは抑止力と防衛力をできるだけ迅速かつ効率的に強化するよう設計されている必要がある。(中堅国が手を組んで)国防投資の資金を政治的に産業戦略的に利用している国もあるようだが、絶対にしてはならない”
出典:Under Secretary of War Elbridge Colby
コルビー国防次官は最も優れた同盟国はオーストラリアだと言及し「国防総省、政権全体、そしてオーストラリア政府との間には非常に綿密な協議と極めて明確な相互理解が存在している」「我々の緊密な同盟国としてオーストラリア以上に優れた同盟国はない」「この重要な地域における勢力均衡を維持するため設計された集団防衛と拒否的抑止の戦略を通し、オーストラリアが事態を的確に見据えていることに感銘を受けている」「米国とオーストラリアの間に思考の一致が見られる」と述べ、国防支出を増やし、米国との連携を深めようとしている中堅国には日本、ポーランド、フィンランドを挙げた。
Breaking Defenseは「中堅国の調達が自国の抑止力や防衛力の向上をさせるものである限り、米国製兵器の購入をやめて国産化を選択しても一向に構わないと強調したが、カナダのように中堅国同士が手を組んで米国を排除してはならないと警告した」と報じ、要するに「中堅国が自国の抑止力と防衛力を強化するため武器を国産化して米国製兵器の購入をやめても問題ないが、それが自国の抑止力と防衛力の強化を超えるもの、つまり中堅国が手を組んで米国製兵器の排除に繋がる動きに増やした国防費を投資してはならない」という意味だ。
出典:Mark Carney
コルビー国防次官の発言の背景には「中堅国が単独で武器の国産化をしても規模がしれているため米防衛産業の脅威にならないが、中堅国が手を組んで国産化した武器を共同調達するような動きは米国製兵器排除による影響力の低下に繋がるため容認できない」という思惑が見え隠れしており、これを東南アジア訪問中に言及したのは「武器に関してインド太平洋地域の中堅国が欧州のように団結されると制御が効かなくなる」「インド太平洋地域の中堅国は横に繋がるのではなく米国製兵器の影響力を通じて統制されるべき」と考えているためだろう。
ちなみに、カナダのカーニー首相は今年のダボス会議で「大国は独力でやっていく余裕があり市場規模、軍事力、条件を押し付けるレバレッジを持っているが、それがない中堅国が共に行動して交渉テーブルに着かなければメニューに載せられて食い物にされるだけだ。私たちが覇権国と二国間交渉する際は弱者の立場で交渉することになるだろう。提示された条件を受け入れ、誰が最も従順であるかを競い合うことになる。それは主権ではなく従属を受け入れながら主権がある振りをしているだけだ。大国の寵愛を求めて互いに競い合うか、あるいは団結して影響力のある「第三の道」を切り開くかだ」と訴えていた。
出典:U.S. Department of State
コルビー国防次官が「カナダのように類似国と結束しようとする動き」を警戒しているのは、欧州の米国製兵器離れと域内での武器生産加速を見て「カナダのように考える国の登場」を恐れているためだが、トランプ政権による「武器の政治利用」が露骨すぎた代償はインド太平洋地域でもいつか問題化するだろう。
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※アイキャッチ画像の出典:Under Secretary of War Elbridge Colby