万博の夜間退場巡り、海外勢が怒りの抗議 BIEの閉場時間延長案に飛びつけぬ運営事情
2025年大阪・関西万博の来場者数底上げに向け、日本国際博覧会協会などが夜間の集客を強化している。23日の一般来場者数は開幕後最多の13万9千人(速報値)に上ったものの、会期中の2820万人達成にはさらなる誘客促進が必要。閉場時間の延長はハードルが高く、夜ならではの魅力をいかに発信するかが鍵を握りそうだ。
夕方の入場時間繰り上げ
17日、人工島・夢洲(ゆめしま)の万博会場で博覧会国際事務局(BIE)のケルケンツェス事務局長と大阪府の吉村洋文知事らが会談した。「夜の万博」のPRが話題に上り、BIE側は午後10時の閉場時間を1時間延長することなどを提案した。
問題意識は協会などの運営側も共有している。現在、入場予約はおおむね2週間先まで開場直後の午前9~10時台に集中し、空きがない。一方で正午以降の枠は比較的余裕があり、夜間は短時間で入場できる予約不要のパビリオンも増える。
協会が想定する会期中2820万人の来場には1日平均で約15万3千人が必要だが、現時点では届いていない。底上げを狙い、5月7日から夜間券(大人3700円)の入場者を対象にキャンペーンを始め、夕方の入場可能時間を午後5時から同4時に繰り上げた。
水と光の演出
23日夜は、ソーセージやビールを味わえるドイツ館などに列ができた。噴水と光の演出を組み合わせた水上ショーが開かれたほか、色とりどりに輝く約千基のドローンが上空で幾何学模様などを描き、多くの来場者が大屋根リングの上で撮影を楽しんだ。午後から家族と訪れた大阪府豊中市の女性(40)は「夜はパビリオンがライトアップされ、昼とは違う光景を楽しめた。日差しがなく人気のパビリオンにも並びやすい」と話した。
ただ課題もある。ドローンショーが午後9時すぎに終わると、来場者らは一斉に退場し、東ゲートに近い大阪メトロ中央線夢洲駅が混雑する。
関係者によると、大型連休中の5月4日夜も退場者が東ゲートに集中した。協会はスタッフを含めて人流を制御するため、関係者ゲートを閉鎖したが、帰宅に時間がかかった海外パビリオンの関係者が反発。協会はBIEを通じて抗議を受け、翌日から関係者ゲートの閉鎖を取りやめた。
閉場時間の延長について、協会幹部は退場者の分散につながるとする一方、運営費の増加や帰宅時の交通手段がなくなることを課題に挙げる。
「夜ならではの魅力発信を」
そこで吉村氏は、飲食店や土産物店が閉場直前の午後9時50分ごろまで営業時間を延長することを提案。ドローンショー終了後の退場者の分散にもつながるとし、「夜の万博には昼にはないポテンシャル(潜在力)がある」とアピールする。
ただ日本では、欧米や東南アジアなどのように日頃から夜遅くまで催事を楽しんだり、ナイトマーケットで食事したりする文化に対するなじみが薄い。会場内の飲食店関係者は「午後9時台の売り上げがどれだけ見込めるか。従業員の労務管理を考えると頭が痛い」と話した。
大阪公立大の橋爪紳也特別教授は「夜の来場者を増やすには、夜ならではの魅力を生かし、会場でなければ味わえない体験を提供する工夫が必要だ」と指摘する。「皆が一体となって盛り上がるイベント」の例として、参加型のダンスフェスティバルを挙げた。
また「日本もお祭りの日の夜はにぎわう」として、万博会場の広場などでちょうちんを飾り付けたり夜店を出したりするなど「(昔ながらの)日本的な祝祭の雰囲気を演出すれば海外を含む来場者に楽しんでもらえるのではないか」と語った。
ドバイの先例、暑さ対策も
夏場を控えた万博会場で、日中に比べて涼しくなる夜間の集客を促進することは暑さ対策としても有効だ。BIE側が閉場時間の1時間延長を提案した背景には、2021~22年に中東のアラブ首長国連邦(UAE)で開かれたドバイ万博で、夜間に来場者が集中した経験があるとみられる。ドバイ万博の運営当局は当初午後10時だった閉場時間を開幕後に1時間延長した。
夜間に多くの来場者でにぎわうドバイ万博=2022年3月ドバイ万博開幕直後の21年10月初旬、日中の気温は40度を超え、パビリオン観覧のために屋外で長時間並ぶことは難しかった。そのため日中の来場者は少なく、夕方以降に家族連れなどが多く訪れた。
こうした状況を踏まえ運営当局はより多くの来場者受け入れを狙い、午後10時の閉場時間を同11時まで延ばした。BIE側はこうした経緯を踏まえて大阪府市側に延長を提案したとみられるが、大阪・関西万博は会場へのアクセス手段が限られるなど、海外の万博とは条件が異なる。
既に熱中症で搬送者
日本国際博覧会協会の公表資料によると、5月に入り、少なくとも7人が熱中症(疑い含む)で搬送されており、猛暑に備えて会場内外に送風機や休憩所、給水施設などが増設される。吉村洋文知事は「入場時やパビリオンでの待機時間が短くなる夜の万博会場を楽しんでもらうことは、暑さ対策にもつながる」と強調している。(山本考志、山口暢彦、黒川信雄)