テレワークにより、組織に対する心理的絆は失われてしまうのか?(Meiji.net)

山口 生史(明治大学 情報コミュニケーション学部 教授) COVID-19の感染拡大で、テレワークがニューノーマルなワーキングスタイルとなりました。定着とはいかないまでも、その後も多くの企業で感染拡大前よりはテレワークの割合が高い状況です。しかし、海外の巨大IT企業などではテレワークをやめて社員に出社させるワークスタイルに変える動きもないわけではなく、日本でも社員に出社を求める企業や管理職、対面でのコミュニケーションを重視する社員が少なくありません。テレワークの導入とICTによるワーキングスタイルは、日本人の組織に対する心理的絆、すなわち組織コミットメントにいかなる影響があるのでしょうか。

◇テレワーク導入によって、組織コミットメントはどうなっているのか 日本のテレワーク導入率は、公務を除く産業の社員100人以上の規模の企業を対象にした総務省の2023年8月時点のデータによれば49.9%です。2021年の51.9%、2022年の51.7%からわずかに減っているものの、コロナ禍が始まる前の2019年は20.2%だったため、日本の組織におけるテレワークは大きく普及したと言えるでしょう。ただ、規模による格差も大きく、東京商工リサーチの2022年度のデータであれば、資本金1億円以上の大企業で約57%、それ未満の中小企業で約24%でした。 2020年春の新型コロナウィルス感染拡大による緊急事態宣言をきっかけに、多くの従業員が突然に自宅勤務となり、テレワークをいわば「強いられた」わけですが、これは大変衝撃的な出来事であり、急激なワーキングスタイルの変化でした。ICT を利用してのコミュニケーションは、これまで慣れてきた対面コミュニケーションと大きく異なります。テレワーク導入により、組織に所属しながら組織にいないことで、「組織に対する愛着や忠誠心などの心理的絆(組織コミットメント)」が減衰するなどの影響があるのかどうかは気になるところです。 人と会わずICTによるコミュニケーションで仕事をし、対面による相互作用とコミュニケーションがない、あるいは制限される状況が、組織に対する従業員の心理的絆にどんな影響を与えたのか。組織における ICT の効果的活用、組織コミュニケーション、組織コミットメントの三者間の関係を解明することを目的に、コロナ禍の2021 年 12 月、インターネットで質問票調査を行いました。 回答者は、日本人のホワイトカラーワーカー、男性250人と女性250人の合計500 人です。年齢は 20 代、30 代、40 代、50 代、60 代のそれぞれ100人ずつでした。ICTの効果的活用に関しては、「Web 会議システム」、「社内グループウェア」、「電子メール」が、業務で効果的に活用されているかどうかに関し、それぞれ1(ほとんど効果的に活用されていない)~ 5(非常に効果的に活用されている)の 5 段階評価で訊ねました。なお、「SNS」に関しては、今回の調査では仕事に利用していない人の数が非常に多かったため、分析に含めないことにしました。 また、今回の質問票調査では、複数の変数間の関係を統計的に推定する共分散構造分析(CSA-SEM)という手法を用いています。ICT の効果的活用を外生変数、オープンコミュニケーション風土、直属上司・リーダーや組織(トップ)からの情報受信量満足度を媒介変数、組織コミットメントを内生変数として投入するモデルに対し、分析を行いました。組織コミットメントとは、組織への愛着によるつながりである「情緒的なコミットメント」、組織に対する恩義や忠誠によるつながりである「規範的コミットメント」、選択肢が他にないからといった消極的あるいは利己的な理由でのつながりである「継続的コミットメント」の3つです(Allen & Meyer(1990)による分類です)。

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