【初公判を“詳しく”】保育士殺人事件の動機は“妊娠めぐるトラブル”か 「2人で育てたい」被害者の思いに「煩わしい」として殺害(仙台地裁)

去年4月、宮城県岩沼市の海岸で保育士の行仕由佳さん(当時35)を殺害した罪などに問われている佐藤蓮真被告の初公判が仙台地裁で開かれ、佐藤被告は殺人・死体遺棄罪の起訴内容を認めた。 2人の間には”金の貸し借り”そして“妊娠”をめぐるトラブルがあったことが裁判で明らかになった。

岩沼市の無職・佐藤蓮真被告(22)は去年4月12日、知人関係にあった仙台市の保育士・行仕由佳さん(当時35)を岩沼市の人目のない海岸の防波堤へ連れ出し、ペティナイフで行仕さんの胸などを複数回刺して殺害し、波消しブロックの隙間に遺体を遺棄した。また行仕さんの財布が入ったショルダーバッグを持ち去り盗んだ。

3月4日、仙台地裁で開かれた初公判には、開廷の1時間以上前から傍聴券を求める長い列ができた。 法廷に現れた佐藤被告は黒のスーツに白いシャツ、黒髪短髪でマスクを着用していた。 起訴内容を読み上げられ、証言台で佐藤被告は「殺人・死体遺棄・銃刀法違反については間違いありません」と認めた。 ※窃盗については殺人の当日ではなく、その翌日と指摘

≪交際のはじまり・借金のはじまり≫ 検察は「2人が交際関係」にあったとした。 マッチングアプリで出会った2人。 おととし10月、佐藤被告から交際を申し込み行仕さんが受け入れた。 しかし、ほどなくして佐藤被告がある相談を持ち掛けた。 「車で事故を起こした、保険の更新をしてなくて…」 状況を心配する行仕さんに対し、佐藤被告は「ややこしいことになった」などと説明。事故相手の車の修理費用を支払わなければならないが、保険に入っていないことにつけ込んだのか請求額を上げられた、などとして行仕さんに金を貸してほしいと願い出た。 行仕さんは小学生の息子と2人暮らしだった。 そんな彼女が生活費から捻出し、被告に対して車の修理費用などとして総額100万円以上を貸したのである。それは被告を信じていたから…。 「どんなことがあっても私は味方だから」 行仕さんから送られていたメッセージ。 ≪信じていた“彼”は“偽名”だった≫ 信用が揺らいだのは行仕さんが職場の後輩と共に、交際していた“彼”の話をしたときだった。 職場後輩:「じゃあ結婚したら佐藤になるんですね」 行仕さん:「え、佐藤?」 それは行仕さんが知っていた被告の苗字とは違っていた。 佐藤被告は「蓮真」の名前で活動していたプロのキックボクサーだった。 しかし格闘技好きの後輩が動画サイトで見た試合の場内アナウンスで「佐藤蓮真」と本名で紹介される場面があったという。 行仕さん:「私に偽名使ってる?」 佐藤被告:「偽名?なんのこと?」 行仕さん:「後輩が動画で見たことあるって」 佐藤被告:「何で疑ってるのか言って」 行仕さん:「私はシングルなことも言ったのに…。遊びじゃないなら隠してほしくない」 「お母さんが神宮寺って聞いたけど」「お金も返してくれるんだよね」 佐藤被告:「気分悪いから寝るわ」 行仕さんは真剣な交際関係を信じながらも、不信感が募っていった。 生活費を確保するため被告に返済を迫るも、「給料日まで待ってほしい」「これからは毎月返せるようになる」などと、先延ばしにされ続けた。 ≪妊娠発覚 “一緒に育てたい”と願う彼女、その一方で…≫ 3月、2人の関係に重大な転機が訪れる。 行仕さん:「たまにお腹が痛くなる。本当に妊娠してたらごめんね」 行仕さんは産婦人科を受診。 妊娠していることがわかった。 しかし、赤ちゃんについて話をしたいと電話をしても応答はない。 次第に2人は口論を重ねる。 「なんだと思ってるんだよこのこと」「一生遊んどけ」 我慢を続けた行仕さんが、遂に被告を責めるメッセージを送った。 「お金はいつ返せるの?」「子どもはどうしたいの?」と尋ねても、明確な回答はない。 それでも…行仕さんは新しい命を守りたかったという。 行仕さん:「お金は返さなくていいから、赤ちゃんを2人で育てたい。蓮真くんのこと好きだから赤ちゃんのこと守ってほしいです」 佐藤被告は「ごめん、1人で考えたい」と答えるのだった。


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3月末の佐藤被告のスマートフォンの検索履歴。 「人を殺せる薬」「テトラポット落ちるとどうなる」「不起訴とは」 4月、犯行計画を立てていたと思われるメモには 「由佳自宅周辺カメラ確認 スマホとお金 痕跡残さない テトラポット」 犯行への準備が進められていた。 また、犯行の数日後には「捜査本部設置するとどうなる」「警察から電話来たら番号何番」などの検索履歴も見つかっている

妊娠の発覚からおよそ1か月。 4月12日午後7時前、「話をしよう」と佐藤被告が車で行仕さんの自宅周辺まで迎えに行き2人は合流。 行仕さんは息子に対し「職場に忘れ物を取りに行く、すぐ戻る」と言って家を出た。これが最後の会話になった。 午後7時45分頃、2人は岩沼市の海岸付近に到着。そこは人目がなく、周囲に街灯もない暗闇の防波堤。犯行に及んだ。 佐藤被告は行仕さんをペティナイフで刺し殺すと、防波堤から波けしブロックまで引きずる。倒れた行仕さんの上には流木を乗せて遺棄した。そして行仕さんのショルダーバッグを持って、現場を後にしたのだ。 その後、自宅近くの公園で凶器のナイフやバッグを投棄。財布は自宅に持ち帰っている。

検察は犯行の動機について「行仕さんが2人での子育てを希望したことを煩わしく思い犯行に至った」と主張する。 また量刑を判断するうえで重視する点を上げた。 ・佐藤被告は嘘をつくなどして行仕さんから100万円以上の借金をして、返済を先延ばしにしていたこと ・行仕さんから妊娠や、一緒に子育てをしたい旨を伝えられたことに対し、真摯な話し合いをせず、明確な態度をとらなかったこと ・佐藤被告は結婚して子育てする意思も、養育費を支払う意思もなく、責任逃れのために殺害を決意したこと ・一緒に子育てをしたいと告げられ間もなく殺害計画を立て、証拠隠滅の方法を探り、凶器を準備していたこと

弁護側の主張には検察と争う点がある。 ≪交際はしていない≫ キックボクサーとして活動しながらアルバイトをしていた佐藤被告。行仕さんと交際はしていない。恋愛関係ではない、という認識を主張する。借金返済の意思はあり、2人の関係性の捉え方には温度差があった。 ≪将来が絶たれる…殺害の動機≫ 行仕さんの妊娠を知り、佐藤被告は「中絶をしてほしい」と考える。話し合いは平行線をたどり、時に行仕さんがナイフを持ち出したこともあった。行仕さんがこの問題を佐藤被告が所属するキックボクシングジムに報告すると言った時、佐藤被告は「報告されるとキックボクサーとしての将来が絶たれる」と恐れ殺害を考えるようになった。事件当日も行仕さんがジムへ報告すると口にしたことで、殺害を実行した。 ≪弁護側の主張≫ 冷酷な犯行に見えても、事件の背景には被告人の「未熟さ」「対処能力の低さ」があり、それを踏まえて量刑を判断してほしいと情状酌量を求める。 また財布の入ったショルダーバッグを盗んだとされる「窃盗罪」の起訴内容については、財産を奪う目的ではなく、証拠隠滅が目的だったとして、窃盗罪は成立せず「占有離脱物横領罪」として認める。

佐藤被告は初公判を前にミヤギテレビの記者に手紙を送り、面会も行った。 「今の私にできる唯一の贖罪は被害者の方と私がどういった関係で何があってこのような事件を起こしてしまったのか、ありのままの真実を裁判でお話し、誠心誠意謝罪させていただきたいと思っています」 「どのような事情であったとしても、できる手段は他にも多くあった。後悔の気持ちしかありません」 「一生をかけて償い続けていきます」 佐藤被告は法廷で何を語るのか。 裁判は被告人質問などを経て、3月17日に判決が言い渡される予定。

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