米税制法案に込められた「報復税」、デジタル税課税の国の投資家標的

米下院が22日に可決し上院に送付した税制・歳出法案には、米国が不公正と見なす税制を採用している国々の投資家に対し、米国で得た収入に高い税率を課す規定が盛り込まれている。トランプ政権はこの法案を推進している

  具体的には、メタ・プラットフォームズなど米大手テクノロジー企業に「デジタルサービス税」を課しているカナダや英国、フランス、オーストラリアなどが対象となる。多国間協定の最低法人税の規定を利用している国々も対象とする。

  米国が租税条約を結んでいる同盟諸国を標的とする動きは、他国との長年にわたる協定であっても、変更や破棄を辞さないトランプ大統領の姿勢を浮き彫りにするものだ。

  カナダ・トロントを拠点とする税理士事務所モーリス・ケペス・ウインターズのパートナー、ロバート・ケペス氏は「米国が不公正と見なす他国による米企業への課税に対し、いわば『リベンジ(報復)税』と呼べるような内容」が含まれていると指摘した。

  米国に資産がある個人投資家や企業に加え、政府系ファンド(SWF)や年金基金などの機関投資家のほか、政府機関までも影響を受ける可能性がある。

  この規定では、標的となる国々に拠点を置く個人や法人が米国で得る配当や利子、ロイヤルティーなどの受動的所得に対し、連邦所得税率を引き上げる。1年目は5ポイントの引き上げで、その後毎年さらに5ポイントずつ引き上げられ、最終的には法定税率より最大20ポイント高くなる。

  租税条約は本来、同じ所得に対する複数回の課税を防ぐ趣旨がある。米法律事務所グリーンバーグ・トラウリグの弁護士はこの規定について、「米国の租税条約の特定の義務を事実上無効化するもので、長年にわたる条約上の約束からの重大な逸脱となる」との分析を示した

関連記事:ベッセント米財務長官、欧州のデジタルサービス税が交渉の障害と主張

  この規定は中央銀行などの政府機関に適用される特別規則の無効化も意味する。カナダの法律事務所ファスケン・マーティノー・デュモリンのパートナー、ロナルド・ノブレガ氏は一例として、米国の源泉徴収税の適用を現在免除されているカナダ銀行が新たに適用対象となると解説した。

  このほか、法案の広範な性質を踏まえると、税制優遇を受けている退職年金口座で得られる米国所得にも源泉徴収税が適用される可能性がある。「多くのカナダ人投資家やカナダ企業にとって、予期せぬ課税負担が発生することになるだろう」とノブレガ氏は述べた。

  カナダの業界団体「証券・投資運用協会(SIMA)」は、この規定によってカナダ人投資家に今後7年間で最大810億カナダ・ドル(約8兆4000億円)の追加課税負担が生じると推計している。

原題:‘Revenge Tax’: Trump Bill Hits Allies That Have Digital Taxes(抜粋)

関連記事: