「突然難民に」「予約700件がキャンセル」カンボジア在住の韓国人たちの悲鳴(中央日報日本語版)
「突然、難民のような立場になってしまった」 カンボジアのボコール山で、1万909平方メートル(約3300坪)規模のイチゴ農場を運営するチャン・ジヨンさん(56)はため息をついた。10月15日、イチゴの配送のためにプノンペンを訪れたチャンさんは、思いがけず足止めを食らった。大学生のパクさん(22)が拷問の末に死亡した状態で発見されたボコ−ル山地域、およびバベット市・ポイペト市などベトナム・タイとの国境地域に対して、韓国外交部が16日午前0時をもって旅行警報の第4段階である「旅行禁止」を発令したためだ。韓国国籍者が旅行禁止地域に訪問または滞在した場合、旅券法に基づき処罰される可能性がある。 【写真】カンボジア当局による犯罪拠点取り締まりで摘発され、拘禁されていた韓国人たちが仁川空港を通じて送還される様子 永住や企業活動などの理由があれば「例外旅券」の発給を受けることもできるが、手続きが厳格で、チャンさんは再び絶望した。居住地・警備契約書などの書類を提出しなければならず、審査には1カ月以上かかるとの外交部ホームページの案内を見たためだ。チャンさんは17日、政府合同対応チームと面会して事情を説明したが、解決策は見つからず、プノンペンに留まっている。彼は「イチゴの栽培が難しいカンボジアで、苦労の末に花開いた事業だ」と話し、「政府が容疑者を国内に送還することと同じように、生計がかかった在留韓国人の問題も迅速に扱ってほしい」と訴えた。 これに対し外交部は19日午後、報道向けの案内を通じて「該当の在留韓国人には安心して帰国しても構わないという点を伝え、例外旅券の使用許可手続きに関しても支援する予定だ」と説明した。 ◇「犯罪国家」の烙印 在留韓国人への打撃は深刻 カンボジアでの監禁・暴行事件の波及被害を受けた韓国人たちのため息も深まっている。「犯罪国家」の烙印が押され、生業に打撃を受けている在留韓国人への支援や対策が必要だという指摘が出ている。外交部によると、昨年時点でカンボジアには1万626人の韓国人が暮らしている。ポイペト在住のある韓国人は「韓国語を教える世宗(セジョン)学堂は撤退命令で職員がすべて引き揚げ、ハングルの日の行事にも支障が出て困っていると聞いている」と話し、「第4段階といえば戦争に準ずる状況だが、実際にはそのような雰囲気ではない」と語った。 予約キャンセルは日常茶飯事となった。プノンペンで10年間旅行会社を経営しているイ・セヒョンさん(58)は「11月から2月までは繁忙期なのに、事件が起きてから700件あまりの予約がキャンセルされた」と述べ、「コロナ禍をようやく乗り越えて上向きになりかけていたのに、再び暗い状況に陥った。」と肩を落とした。イさんは「経緯はどうあれ、自国民が死亡に至った事件が起きたことに在留韓国人も深い悲しみを感じている」としつつも、「旅行や出張など平凡な目的の訪問であれば安全だと説明しても、客が信じず『誘い込みではないか』と疑われる状況がもどかしい」と打ち明けた。 韓国関連の業務を担当するカンボジア人たちも、同様に被害を被っている。通訳士のシエム・レイカナさん(35)は「予定されていた出張がすべてキャンセルされたという通知が相次いでいる」と語り、「カカオトークや電話が鳴るだけで怖くなるほどだ」と話した。 今回の監禁・暴行事件の被害者と、一般の観光客を区別して扱うべきだとの指摘も出ている。現時点で政府が確認している被害者の多くは、自発的に犯罪拠点に入り込むか、「就職詐欺」など通常ではない経路でカンボジアに入国したケースがほとんどだからだ。 在韓カンボジア韓人会は18日、懇談会を開き、旅行禁止令の早期引き下げを求めた。出席者のパクさんは「拘束されていた60人あまりを送還して、すべて解決したかのように政府は話しているが、実際は何も変わっていない」と指摘し、「結局、ここにいる私たち在留韓国人がその後始末をすべて背負わされることになる」と訴えた。在留韓国人の意見を聴取した世界韓人総連合会のコ・サング会長は「政府開発援助(ODA)の中断や軍事作戦などの発言を軽々しくするが、国民感情が高ぶる中でも、政府と政治圏は冷静かつ理性的に判断しなければならない」と述べ、 「万が一カンボジアで反韓感情に火がつけば、現地韓国人の生計はもちろん、安全にも深刻な影響が及ぶ」と警告した。 共に民主党・在外国民安全対策団の副団長としてカンボジアを訪れた洪起元(ホン・ギウォン)議員は、18日フェイスブックで「代表団が実際に視察したカンボジア(プノンペン)の治安状況は、他地域と比べて特に危険だという印象は受けなかった」とし、 「1万人を超えるカンボジア在住同胞も、政府の保護を必要とする大韓民国国民だ」と強調した。 外交部の金珍我(キム・ジンア)第2次官は、17日に開かれた記者会見で在留韓国人被害に関する質問に対し、「旅行禁止地域に指定した場所には、現地在住者が10人程度と非常に少数であることを確認している」と説明したうえで、「(禁止令引き下げの)検討は続けているが、結局のところカンボジア国内の詐欺犯罪の環境が根本的に変わらなければ、引き下げには至らない」と述べた。