「人質司法」批判、聖域だった裁判所 技術者の死が起こす静かな変化
毎日新聞 2025/5/31 06:00(最終更新 5/31 06:00) 有料記事 2149文字
東京高裁判決を受け、相嶋静夫さんの遺影を前に記者会見に臨む長男(右)=東京・霞が関の司法記者クラブで2025年5月28日午後3時55分、宮武祐希撮影
「違法な逮捕、勾留請求で直ちに医療機関を受診できなかった」「起訴取り消しの事実を知らぬまま死亡した」
化学機械メーカー「大川原化工機」(横浜市)の冤罪(えんざい)事件を巡る国家賠償訴訟で、28日の東京高裁判決は、一人の技術者の望まぬ最期に触れた。
警視庁公安部、東京地検の違法捜査が厳しく断罪される一方、被告に含まれなかったため責任が追及されなかった組織がある。
法服に身を包んだ裁判官たち自身が所属する裁判所だ。
大川原化工機冤罪事件で、東京高裁は1審よりも踏み込んだ認定で、警視庁公安部と東京地検の捜査を違法と断じました。連載「暴走した権力」(全3回)の最終回です 1回目 ゆがめた捜査 2回目 検証しない警察・検察 3回目 「人質司法」は変わるのか
理不尽な刑事司法への怒り
大川原化工機元顧問、相嶋静夫さん(享年72)は2020年3月に外為法違反容疑で逮捕・起訴された。約7カ月後、勾留中に胃がんが見つかる。
「いつ命に関わる事態になってもおかしくない。早期に外部の病院で治療を受ける必要がある」。
弁護人は保釈を請求した。これに対し、地検は社内で口裏合わせをして「罪証を隠滅する恐れがある」と反対。東京地裁もこれを追認した。
面会で衰弱する相嶋さんを目の当たりにした妻は命の危険を感じ、「保釈のためにうそをつくしかない」と懇願した。
だが、相嶋さんが首を縦に振ることはなかった。
体調の悪化から勾留は一時停止され、病院へと移った。
「今に見てろよ」。病床でも製品開発に情熱をささげた技術者としてのプライドと、理不尽な刑事司法への怒りが消えることはなかった。
相嶋さんは21年2月7日に息を引き取った。保釈請求は最後まで認められなかった。