市川実日子、SNSやらない理由「私の何かを見たい人いる?」…民放連ドラ初主演の思い、謎多き女優の趣味を聞く
女優の市川実日子(46)が、デビューから唯一無二の個性を放っている。作品の期待値や完成度を一段押し上げる力を持ち、その演技論を「吹いてきた風にふわっと乗る感覚」と語る。現在放送中の日本テレビ系「ホットスポット」(日曜・後10時半)ではキャリア初の民放連ドラ初主演も務める。本作の見どころやSNSを一切やらない理由、謎多き女優が夢中になっている趣味などを聞いた。(奥津 友希乃)
取材部屋に近づくと、市川の明るい笑い声が聞こえてくる。クールで謎めいたイメージもあっただけに、少しホッとした。目が合うと「市川です。ふふっ」と丁寧にお辞儀。すぐに記者のスマホケースの柄に視線を落とし「かわいい~」。チャーミングで、でもやっぱり独特なリズムと、つかみどころのない雰囲気を自然にまとっている人だ。
女優としては四半世紀のキャリアで、見る人の心に残る個性豊かなキャラクターたちを演じてきた。意外にも「ホットスポット」が民放連ドラ初主演で、「お話を頂いた時は『え、私が主演!?』とびっくりしました」。“地元系エイリアン・ヒューマン・コメディー”と題した本作の資料を目にした記者は「市川=宇宙人役」と勘違いしたことを白状すると、「あはは! 何か分かる。似合いそうだもん」と笑い飛ばす。
富士山麓のホテルに勤めるシングルマザーの主人公(市川)が、宇宙人に出会うことから始まる物語。バカリズムの脚本と、市川や平岩紙(45)らキャスト陣の絶妙な芝居による自然な会話劇が魅力だ。12日の第1話放送では宇宙人が、影の薄いホテルマン役の東京03・角田晃広(51)であると判明し「予想外」「はまり役」と反響を呼んだ。
「台本をめくるたびに出てくるセリフが本当に面白くて。『あるある~』って共感しながら笑っちゃいます。地球人の愛らしさとか、宇宙人なりの切なさも描かれていて、バカリさんの脚本って本当に魅力的です」
主演の市川のたたずまいは「独特な雰囲気がおしゃれですてき」などと視聴者の心をひきつけている。
市川本人は「よくミステリアスって言われるけど、私は全然分からない」と自覚はない様子。「でも若い時はどんなに仲良くなっても『いなくなっちゃいそう』って言われることがあって。顔かな? そういう雰囲気ですかね」と首をかしげる。
自身を連想するフレーズを聞くと、ハッとした表情で名前にもある「実」の文字を手のひらに書いた。
「これはすごく自分って感じがする。チャームポイントを聞かれたら、名前かなって思う。実日子は本名で、(姉で女優の市川実和子ら)2人の姉から一文字ずつもらってる。姉妹の絆もそうだし、『日々実る人になりますように』というのが由来なんです」
10代から特異な存在感を放っていた。キャリアの出発点はモデル。14歳から活動し、16歳でファッション雑誌「Olive」の専属に。当時から映画の出演オファーはあったものの、女優業には後ろ向きだった。
「怖がりだったし、映像作品に出るなんて全く想像もつかなくて。だけど当時の事務所の社長から『監督もあなたと会ってやっぱり違った、ってこともあるかもよ』と言われて。そっか!と思って監督にお会いしてみたんです」
本格デビューを飾った映画「タイムレスメロディ」(2000年公開)。現場は、「飛び込んだら職人さんの集まりで。光を作る人、撮る人、初めて会うかっこいい大人たちがいた」と、きらめきにあふれていた。「みんながだんだん輪になっていくのがたまらなく楽しくて…」。その胸の高鳴りや手触りは今も変わらない。
演技派や個性派とも形容されるが「生きてれば、みんな個性がある。わざわざフレーズはつけなくていいと思うよね」とポツリ。対面するとタンポポの綿毛のように、温かく柔らかで流れに身を任せて漂うような雰囲気がある。率直に伝えると「わた毛かあ…合ってるかも」とうなずき、「演じる時も、吹いてきた風にふわって乗る感覚がある。いろんな風やリズムがあるけど年々、力を抜きたいとも思っていて。でも抜きすぎてもなあっていうはざま。ふふっ」と軽やかに笑う。
インスタグラムやXなどのSNSは一切開設していない。理由は「私の何かを見たい人いるんですかね? 特にやらない理由を考えたこともない。自分の中で腑(ふ)に落ちてないから、やる予定はございませんね」と至ってシンプルだ。
取材に同席したドラマスタッフたちは、市川がスマホをいじる姿を現場で見たことがないという。
「携帯って魔力があるから見始めると止まらないでしょ。線引きしないとひどいことになっちゃうから。仕事をする時は携帯は、ぽーいっ!ってすごい遠くに置いていきます。人と会ってる時も携帯は見ないですね」
謎の多い私生活で、情熱を注いでいるのが「お茶と茶器収集」だという。
「お茶マニアですね。特に中国茶とか台湾のお茶が大好き。完全プライベートで畑や工場を見せてもらったこともあります。お茶の種類によって使う茶器や、水も変えてこだわってます。疲れた時、急須とか茶器の写真見てると元気になります。たまらんですよ」
人生の夢を聞くと、「お芝居も今回のような宇宙人と出会う役とか、新しい役や人との出会いは常に喜び。お茶もまだ巡り合ったことのないような、おいし~!ってお茶を飲みたい」と瞳を輝かせる。仕事でもプライベートでも“未知との遭遇”に胸をときめかせている。
◆市川 実日子(いちかわ・みかこ)1978年6月13日、東京都生まれ。46歳。モデルを経て、2000年映画「タイムレスメロディ」で女優デビュー。03年の初主演映画「blue」で第24回モスクワ国際映画祭最優秀女優賞。16年の「シン・ゴジラ」で第40回日本アカデミー賞優秀助演女優賞受賞。主な出演作は「アンナチュラル」「大豆田とわ子と三人の元夫」「カムカムエヴリバディ」など。