「無痛分娩」の呼び方変えませんか 日本麻酔科学会が〝新名称〟を提案 裏にある医師らの強い思いとは…

日本産婦人科医会の統計によると、すべての分娩のうち無痛分娩の割合は2024年で16.2%でした。 【2018~2024年】 2017年5.2%▽2018年5.0%▽2019年5.9%▽2020年7.1%▽2021年9.6%▽2022年11.6%▽2023年13.8% 医療保険の対象外であるため経済的な負担が大きかった無痛分娩ですが、助成する自治体もあります。 例えば東京都は2025年10月から無痛分娩費用に最大10万円の助成を始めました。 都によると、2025年10月から2026年3月末までに1万2059件の申請があったといいます。

かつて大正時代には、与謝野晶子が無痛分娩したことを自らの著書に書き残しています。 朝日新聞の紙面に「無痛分娩」という言葉自体が初登場したのは1984年。海外の出産について伝える記事でした。 「古来、産痛は女性の宿命とされてきたが、19世紀半ば英国で、吸入麻酔による無痛分娩が始まった。これに対し、ソ連の産科医チームが1948年、薬剤を使わずに、産婦自らの学習・訓練(呼吸法・筋肉リラックス法)により、産痛を和らげる方法を考案した。これが1952年、革命中国に伝わって評判になり、翌年、日本にも入って来た。日赤を中心に『精神予防性無痛分娩法』として妊産婦に指導されてきた」(1984年の朝日新聞紙面より) 横浜市立大学附属市民総合医療センターの麻酔科医・角倉弘行さんによると、呼吸法による「ラマーズ法」やマッサージなどを用いたリフレクソロジーのように、麻酔を使わない出産法も広い意味では「無痛分娩」の一種とされてきたそうです。 ただ、痛みを十分に軽減するには麻酔が必要だといい、背中から挿した管を通して麻酔薬を入れる「硬膜外鎮痛法」が標準的な無痛分娩の方法として世界的に普及しているといいます。 日本で近年「無痛分娩」というときも硬膜外鎮痛法を指す場合がほとんどで、この記事中でもその意味で使っています。


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無痛分娩でも「痛みがあった」という経験者は多くいます。 角倉さんは「無痛分娩という言葉は『全く痛くない』という過度な期待を持たせてきました」と話します。 「『痛みが減って楽になった』と言われることがほとんどですが、『痛かったのでお金は払わない』とおっしゃる方も世の中にはいるそうです」 トラブルを避ける意図もあって「和痛分娩」という言い方をする医療機関もありますが、角倉さんは「無か和かの議論は本質的ではない」といいます。 痛みは主観的なもので、感じ方は味覚と同じように人それぞれだといいます。 一方、痛みを「鎮める」ための処置であることは客観的な事実であるため、麻酔科医としては「鎮痛」という言葉が正確だと感じるそうです。

角倉さんが所属する日本麻酔科学会は学会や関係学会内で意見を募り、用語集に新しい名称を追加することを決めました。それには理由がありました。 日本の法律では、専門の麻酔科医がおらずとも産科医が麻酔を担当して無痛分娩を行うことができます。 そのため日本では多くの無痛分娩が麻酔科医なしで実施されており、無痛分娩を指す言葉は日本麻酔科学会の用語集にも収録されていませんでした。 角倉さんは「無痛分娩に麻酔科医が積極的に関与し、安全性向上に貢献していく」というメッセージを込め、今回初めて収録したといいます。

用語集には「分娩時鎮痛(鎮痛分娩、無痛分娩、和痛分娩)」として収録されました。 鎮痛行為への呼称として「分娩時鎮痛」という言葉を定め、分娩自体を指す言葉としては「鎮痛分娩」を新たにつくりました。 言葉があることによって、無痛分娩で麻酔科医が果たす役割を明確に言い表すことができるようになるといいます。

無痛分娩の希望者が増えるにつれ、無痛分娩が可能な医療機関も増えています。 一方で、高まるニーズに対応するため、安全性が十分に担保されないまま無痛分娩を始めようとする医療機関もあり、事故が起こりやすい状況にあると指摘する角倉さん。 日本産婦人科医会の2024年の報告によると、無痛分娩を扱う医療機関のうち、麻酔科専門医か厚生労働大臣が認定した麻酔標榜医が麻酔を担当しているのは47.8%。 2025年に開かれた国の「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」では「麻酔を実施する医師の確保や安全管理体制の標準化等、安全で質の高い無痛分娩の提供体制の確保に取り組む必要がある」と言及されていました。

角倉さんは知識と経験を持つ麻酔科医の存在が重要だと指摘します。 「麻酔科医の役割は麻酔で患者さんの痛みを取ることだけではなく、呼吸管理や、血圧などの循環管理もあります。鎮痛はあくまで一部なんです」 「出産が無事に行えるように安全管理のマネジメントをすることが麻酔科医の仕事です」

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