火星に生命はいたか、サンプルリターン計画で大注目の岩石6選

火星の古い火山の上空を、水氷の雲が漂っている。しかし数十億年前には、火星の表面はより温暖な環境だった。岩石のサンプルからは、かつて火星に生命が存在したかどうかが判明するかもしれない。(Photograph by NASA)

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 NASAの火星探査車「パーシビアランス」は2021年から火星の上を動き回り、岩石の収集を続けてきた。いずれはこうして集められた岩石によって、火星の歴史、火星と地球との違い、そして生命の起源についての理解が塗り替えられる日が来るかもしれない。「この探査車に積まれたサンプルの一つひとつが、火星に関する極めて重要な問いへの答えを持っている可能性があります」と、米アリゾナ州立大学の惑星科学者ミーナクシ・ワドワ氏は言う。

「火星サンプルリターン(MSR)」と名付けられたこのミッションにおいて、ワドワ氏は主任科学者として、これらの岩石を1億キロ以上離れた地球に輸送する計画の立案に携わっている。(参考記事:「解説:小惑星ベンヌからのサンプルリターンに成功、NASA探査機」

 火星で集められたサンプルには、それがどれくらい古いものか、また「火星の古代環境についての重要な情報」が記録されている可能性があると、米カリフォルニア工科大学の地球化学者で、パーシビアランス計画の副主任科学者を務めるケン・ファーリー氏は説明する。

 しかし何より注目すべきは、それらのサンプルが、宇宙にはわれわれのほかにも生命体が存在するかどうかを明らかにする力を持っている点だ。この根本的な問いへの答えをもたらす可能性を秘めているサンプルを、以下にいくつか紹介しよう。(参考記事:「NASAの火星探査計画で活躍する若き日本人」

「ギャラリー:水がつくった火星の美しい風景 写真8点」(見出しのクリックで表示)

NASAの火星探査車「パーシビアランス」が着陸した直径約45kmのジェゼロ・クレーターは、かつて湖だったと考えられている。これはNASAの火星探査機マーズ・リコネッサンス・オービターに搭載された2つの機器による観測データを合成した画像。ここに見える太古の三角州の跡からは、かつて微生物が存在した証拠が見つかることが期待されている。(PHOTOGRAPH BY NASA/ JPL/ JHUAPL/ MSSS/ BROWN UNIVERSITY)

扇状地デルタ(サンプル12-13)

 パーシビアランスの着陸地点としてジェゼロ・クレーターが選ばれた理由のひとつは、ここに30億年以上前に湖に流れ込んでいた川のデルタ地帯(三角州)があると考えられるからだ。一帯では、流れる水によって堆積物が扇型に広がっている。パーシビアランスは2022年から、この扇の上部の探索に取りかかっている。(参考記事:「20億年前の火星に大河? 火星史の見直し迫る発見」

「扇状地の先端部分の探索は、非常に興味深いものでした。なぜなら、われわれは湖底に溜まった古代の泥状の堆積物を探していたからです」と、米パデュー大学の惑星科学者で、パーシビアランス・ミッションの共同調査員・長期計画者のブライオニー・ホーガン氏は説明する。「要するに、さまざまな有機物が混ざり合ってドロドロになったものが湖に流れ込み、底に溜まっているような場所を調べたかったのです」

 当初、扇状地の堆積物はドロドロというよりもサラサラしているように見えた。しかし、詳しく調べたところ、サンプルの内部に「泥質の層」が閉じ込められていることが判明した。

「最初は気づきませんでした。泥の層は、塩分を含む砂でできた板状の層の下に隠されていたからです」とホーガン氏は言う。「しかし、ドリルでさらに深く掘ってみたところ、その下から黒っぽい泥が見つかりました」

 地球上では、このような水が干上がって最後に残った泥は、有機物や古代の微生物の化石を保存するのに理想的な場所となる。「湖の底を足で踏んだときに感じる、あのねっとりとした泥を思い出してみてください。そこにはあらゆる生命の痕跡が詰まっています」と氏は言う。「われわれが採取したのは、まさにそうしたものです」。ただし、この火星の泥の中に化石が含まれているかどうかは、まだわかっていない。

【動画】「パーシビアランス」が採取したサンプルのコレクション。(NASA/JPL-Caltech)

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