トランプ米新大統領の悲劇的宿命と「パンなきサーカス」の帰結点。日本は「USスチール買収妨害」の罠を回避できるか?

 

食糧と娯楽さえ与えておけば国民は政治的関心を失う、という愚民政策のたとえとして「パンとサーカス」という言葉がよく使われる。米国在住作家の冷泉彰彦氏によれば、トランプ新大統領が矢継ぎ早に繰り出そうとしている政策は、ほぼすべてがこの「サーカス」にあたるという。ただ、不幸なことに第二次トランプ政権は、米国民の最大の関心事である物価高への対策を持ちあわせていない。世界中を巻き込み、間もなく開幕するのは「パンなき空腹のサーカス」となりそうだ。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より)※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:就任直前、トランプ体制と日本外交を考える

トランプ新大統領が傾倒する「危険なサーカス」

まもなく米新大統領に就任するトランプですが、グリーンランド領有への野心、メキシコ湾の「アメリカ湾」への改名要求、パナマ運河支配権の奪還表明と、矢継ぎ早に「無茶振り」が繰り出されるのには驚きました。

カナダを「51番目の州にする」という話題もこれに連なります。こうした動きに対して「帝国主義的」だという批判はまあともかく、肯定的な観点から「汎アメリカ主義」などと評している向きもあるようですが、見当外れだと思います。

こうした「仕掛け花火」というのは、単なる「目くらまし」であり、もっと言えばローマ帝国末期の様相への批判として使われた「パンとサーカス」つまり民衆には「食わせて見世物を見せておけばいい」という種類の態度だと思います。

つまり、領土要求というのは「サーカスゲーム」であり、全体的にフェイク性も伴っていると考えるべきです。

大真面目に言うのであれば、アメリカの安全を保障するのは、周辺国との安定した関係のはずです。とりわけカナダとメキシコはどちらもアメリカと長大な国境を接しています。仮にトランプ次期政権が、麻薬の流入や不法移民、あるいはテロ容疑者の流入をコントロールしたいのであれば、カナダ、メキシコとの良好な関係は大前提になります。

今回の言動は、その反対方向を目指しているわけですから、どう考えてもアメリカの「安全」より「危険」を増大する話になります。またグリーンランドに関しては、デンマークだけでなくNATOの結束を根本から破壊する危険性を持っているとも言えます。

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「宿命」から逃れられないトランプ氏

この「デンマーク、カナダ、メキシコ、パナマ」をまとめて敵視して、一種の領土ナショナリズムの炎を相手にも、自国にも点火してしまうというのは、どう考えてもアメリカの国益にはマイナスです。

これによって誰が得をするのかですが、これはどう考えてもプーチンや習近平になります。では、トランプは彼ら、特にプーチンの調略を受けてやっているのかというと、直接的なものとしてはないでしょう。

例えば、トランプなどは金の弱みを握られていて、プーチンの意のままに動かされていたという説があるわけですが、現在はそのような可能性は少なくなっているからです。

現在進んでいるのは、イーロン・マスクのドイツ右派への肩入れなども含めて、特にNATOを壊すような動きですから、結果的にプーチンには大きなメリットになる話ですが、さすがに脅されてやっているということはなさそうです。

では、どこからこうした暴言がでてくるのかというと、基本的に本人と周囲の思いつきのレベルだと思います。芸人がネタを思いつくのと全く同じで、「サーカス」の出し物として観客の関心を惹くことができるからやっているだけです。

どうしてそんなバカバカしいことが必要なのかというと、それはトランプの背負っている宿命のためだと考えられます。

第二次トランプ政権の悲劇的宿命とパラドックス

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