酷暑に備えよ、陸上自衛隊が暑さに慣れる訓練を導入…滝汗出して「疲労感も軽減」

 体を暑さに慣れさせることで熱中症を防ぐ「暑熱順化」。北部九州の防衛を担う陸上自衛隊第4師団(福岡県)が今年、全国の陸自部隊に先駆けて訓練に導入した。過酷な環境下で任務にあたる陸自では、熱中症での搬送件数が年間1000件に上ることも。気候変動という「強敵」に備える作戦だ。(矢野恵祐)

分厚い防護衣にゴム手袋

分厚い服を着込んで走り、汗だくになる自衛隊員たち(福岡県春日市で)

 第4師団が司令部を置く福岡駐屯地(春日市)で5月末、隊員約40人が数十分単位でランニングやウォーキングを繰り返した。通常の訓練と違うのは化学兵器から身を守る分厚い化学防護衣や厚手の迷彩服、ガスマスクを着けていることだ。

 この日の最高気温は20度程度だったが、隊員が厚手のゴム手袋を外すと、「バシャッ」という音とともに滝のような汗が地面にこぼれた。木村洋毅陸曹長(41)は「サウナに入っているような感覚で、下着までびっしょりになる」としつつ、「回数を重ねるうちに暑さに慣れ、疲労感も軽減している」と効果を実感する。

 訓練は8分で1キロのペースでランニングを約40分、同様に11~17分で1キロのウォーキング――といった具合で、約2週間をかけて服装も徐々に厚くすることで暑さへの耐性がつくという。

 第4師団によると、〈1〉発汗能力の向上〈2〉体内温度の抑制〈3〉最大心拍数の低下〈4〉汗がべとつかなくなり、不快感が軽減――といった効能が確認された。日々の体温やストレスなどのデータも記録し、隊員の健康管理に役立てている。

 管轄する福岡県太宰府市は昨年、35度以上の猛暑日が62日を数え、国内最多を更新した。今年は5月から福岡や佐賀、長崎、大分の4県に配置する約8000人が訓練を受け、6月中に全隊員の「暑熱順化」が完了したという。

 第4師団の戒田重雄師団長は「気候変動は止められないが、有事への備えを緩めるわけにはいかない」とし、「体を酷使する自衛隊員こそ熱中症対策が不可欠。万全の態勢で夏に臨みたい」と話す。

熱中症の搬送例は年間500件超、死亡例も

 熱中症の被害は深刻さを増すばかりだ。高齢者を中心に救急搬送される人は増加の一途をたどり、昨年は過去最多の9万7578人に達した。陸自でも2019年度以降、隊員が熱中症に陥る事例が年間500~1000件起きているという。

 熊本市の第8師団では21年9月、重装備で山間部などを長期間にわたって行動するレンジャー訓練中の男性隊員(当時31歳)が、発熱や 嘔吐(おうと) をくり返して動けなくなり、2か月後に死亡した。熱中症とみられ、陸自は一部を除いてレンジャーの養成訓練を中止し、再検討を進めている。

ストレッチや入浴有効

 労働安全衛生法の省令が改正され、6月から全国の企業で熱中症対策が義務づけられた。従業員が熱中症になった際の応急措置の手順づくりや担当者を置くことなどが求められ、怠った場合は代表者らに6月以下の拘禁刑か、50万円以下の罰金が科される。

日常生活での暑熱順化の一例

 厚生労働省によると、昨年、職場での熱中症が原因で亡くなった人は31人。周囲の対応が遅れた事例も目立つという。4日以上の休業を余儀なくされた人も含めると1257人に上り、被害は過去最多だった。

 日常生活の中で取り入れられる暑熱順化として、ストレッチといった軽い運動や入浴のほか、帰宅時に1駅分歩いたり、意識的に階段を使ったりすることが推奨されている。ただ、数日ほどの中断で効果がなくなるといい、長期休暇明けなどには注意が必要になる。

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