“北朝鮮が推す謎の少女”キム・ジュエ(13)が、愛子様のような国民的アイドルになれない“決定的な理由”と“納得の証拠写真”《20世紀から日本の皇室を研究していた?》
北朝鮮は5年ぶりの朝鮮労働党大会、7年ぶりの最高人民会議代議員(国会議員)選挙と同会議を終え、党・政府・軍・国会に至る新たな陣容を固めた。金正恩氏も党総書記と国家元首にあたる国務委員長に再選された。そんななか、西側メディアが「キム・ジュエ」と呼ぶ正恩氏の娘も、国際女性デーの記念公演の観覧(3月8日)、駆逐艦のミサイル発射試験のリモート視察(3月10日)、平壌セッピョル通りの植樹(3月14日)などで活発に活動した。
【画像】“北朝鮮が推す謎の少女”キム・ジュエが、愛子様のような国民的アイドルになる日が訪れない“納得の証拠写真”
なかでも、植樹では、ジュエ氏はスコップを持ったり、父親の金正恩氏と一緒に土を運んだりする姿も公開された。
平壌セッピョル通りの植樹で姿を見せるキム・ジュエ氏 写真は朝鮮中央通信より
「どうやったら、市民に尊敬してもらえるのかを考えた」
金正恩氏が掲げる「人民大衆第一主義」を体現すると同時に、「市民のために働く姿」を見せる狙いがあったとみられる。
北朝鮮は20世紀のころから、日本の皇室や英国、タイなどの王室を研究してきた。北朝鮮の職場や家庭、地下鉄、バスの中にまで掲げられた金日成主席と金正日総書記の肖像画は、戦前の日本のご真影などをモデルにしたとされる。北朝鮮を逃れた元党幹部は「どうやったら、市民に尊敬してもらえるのかを考えた。権威を高める方法を研究した」と語る。それが、プライベートをなるべく明らかにしない「神秘主義」や、「射撃の名手」といった「超人伝説」につながった。
ところが、困った問題が起きた。かつての英王室の「ダイアナ妃ブーム」や、最近の皇室の「愛子様ブーム」のような、「国民に愛される王(皇)室」づくりについていけなくなったからだ。前出の元幹部は「権威を高めすぎて、国民の中に入っていけなくなってしまった」と語る。3月14日の植樹作業も、作業に熱中して下着姿になった李日煥党書記を横目に、ジュエ氏は革のコート姿のまま。土も運んだが、かかとの高い靴をそのまま履いていた。とても「ノブレスオブリージュ(高貴な身分の者の義務)」を果たしているようには見えない。泥にまみれて汗を流すどころか、まるでお姫様のようだ。
ロイヤルファミリーと市民との意識のずれを象徴している“決定的写真”
もちろん、ジュエ氏は愛子様のように(おつきの人がいるとはいえ)単独で学校や会社に出かけることはない。常に金正恩氏の公開活動の中で行動している。最高指導者に近い存在であることをアピールし、国民に「次の指導者はジュエ氏」という意識を刷り込むことが目的とみられる。
ただ、最高指導者が参加する「1号行事」と呼ばれるイベントは最高の警備態勢が敷かれる。国民が気軽に「ジュエさん」などと呼びかけられる雰囲気でもない。それ以前に、まだ国民は「ジュエ氏」の名前すらも知らされていない。
そして、元幹部は朝鮮中央通信が2月17日に配信した写真を見て絶句した。
「これこそ、ロイヤルファミリーと市民との意識のずれを象徴している写真だ」という。そこには、新たに完成した平壌市和盛地区の住宅街を視察して回る正恩氏一家の姿が写っていた。
高級な楽器店なのか、ギターやトランペット、ピアノなどを見て回った。
北朝鮮で庶民が親しむ本格的な楽器の一番手はアコーディオンだ。各地区や職場ごとに配置される宣伝扇動隊が使うからだ。宣伝扇動隊は田植えや工事の現場に出向き、音楽を奏で、歌を唄いながら農民や労働者を励ます。
アコーディオンは一番使い勝手の良い楽器なのだという。ピアノやギターに親しむ人もいるが、それは職業として身を立てようとする場合か、ごく一部の富裕層だけに限られる。それこそ、平壌ですら、2LDKのアパートに全く知らない2世帯が同居しているのも当たり前という状況で、気軽に楽器など扱えたものではない。
さらに、決定的な写真も含まれていた。そこにはガラスケースの向こうにいる子犬たちを見ながら微笑む、正恩一家の姿があった。
前出の元幹部は「北朝鮮でもペットを飼う人間はいるが、高級幹部に限られる。飼っている幹部も、ブルジョア主義だとか非社会主義的傾向があると非難されることを恐れ、犬を外に散歩に連れ出すことはない」と話す。
「生活に心配のないお気楽な身分だ」と考える行動
犬を自宅で飼っている庶民もいるが、目的が異なる。3月27日付の党機関紙労働新聞は「平壌の大同江沿いにタンゴギ(犬肉)料理専門店が建てられ、竣工式が行われた」と伝えた。「北朝鮮の人々にとって犬は食べるもの。不足がちなたんぱく質を補う重要な栄養源だ」(元幹部)という。犬を自宅で飼う人は、トイレなどにつないで育て、大きくなると平壌の寺洞(サドン)区域など、主要な都市にある、ケチョン(犬村)と呼ばれる、犬肉だけを扱う店が集まった区画の市場に売りに行く。
こうした庶民が、ペットショップで子犬を見て笑うジュエ氏を見て、どう思うのか。
「生活に心配のないお気楽な身分だ」と考えるだろう。北朝鮮はすでに、抗日パルチザンは世を去り、朝鮮戦争(1950~1953年)を戦った兵士もわずかになった。金正恩氏が党大会などで新たに登用した世代は、もちろん苦労など経験したことがない。
それこそ、自宅で犬を飼い、子供にピアノを習わせているような連中ばかりだ。そういう側近がひねり出す、「庶民に親しみをもってもらうための演出」が滑ってしまうのは当然と言えるだろう。
朝鮮中央通信は4月3日、再び平壌・和盛地区のペットショップや楽器店を訪れた金正恩氏とキム・ジュエ氏の写真を多数配信した。市民の思いなど、全く耳に届いていないのだろう。
金正恩氏は2020年8月、自ら車を運転して水害の被災地を訪れたが、乗っていたのはトヨタ自動車の高級ブランド「レクサス」車だった。「庶民の生活を知らない側近たちがひねり出すアイディアに、庶民が喜ぶ案はありえない」(元幹部)。ジュエ氏が愛子様のように国民のアイドルになる日は訪れない。
(牧野 愛博)