Arc Browserはなぜ開発終了したのか、開発会社のThe Browser Companyが経緯を説明

2025年06月08日 15時00分 ソフトウェア

The Browser Companyは、同社が開発するウェブブラウザ「Arc」が既存ブラウザに対する漸進的な改善に留まると判断し 、AIがもたらす技術的変革期において、ブラウザのあり方を根本から再定義する必要があるとの結論に至りました。その結果、Arcの積極的な新機能開発を停止し、新たなAIブラウザ「Dia」の開発に注力する方針を固め、その経緯を自社ブログで説明しました。

Letter to Aarc members 2025

https://browsercompany.substack.com/p/letter-to-arc-members-2025 The Browser Companyはまず、過去の判断における3つの誤りを認めています。第一に、Arcの成長と定着率に関するデータが示唆していた事実を1年早く受け止め、開発を中止すべきだったと説明しています。第二に、AI技術への強い関心があったにもかかわらず、業界の誇大広告などへの抵抗感から、製品への大胆かつ迅速な導入が遅れた点を挙げています。第三の誤りはコミュニケーションであり、詳細が未定のまま新製品Diaの計画を発表して過度に透明であった一方、ユーザーが抱える疑問への回答が遅れるなど、十分な情報提供ができなかった場面があったと述べています。 2019年当時、あらゆる業務がブラウザ上で行われるようになり、クラウド収益が急増するなど、ウェブへの移行は加速していました。しかし、主要なブラウザは旧態依然としており、その変化に対応していませんでした。この状況に対し、使う人のための配慮と感性が込められた「インターネット上の我が家」のような製品を提供したいという思いから、Arcは開発されたとのこと。

Arcは一部の熱狂的なファンを生みましたが、多くの一般ユーザーにとっては習得すべき新機能が多すぎる割に、得られる価値が十分ではなかった、とThe Browser Company。実際の利用データでは、SpacesやLive Foldersといった特徴的な機能の利用率は低く、製品がマスマーケットに浸透していないことが示されました。根本的な問題として、Arcは既存ブラウザに対する漸進的な改善であり、市場を席巻するほどの大きな変革ではなかったとThe Browser Companyは論じ、AIが検索エンジンや開発環境などの分野で変革を起こしているのを見て、ブラウザにも同様の技術的ブレークスルーが必要だと述べました。 DiaがArcへの統合ではなく新製品として開発されたのは、Arcで直面した課題を根本的に解決するためでした。まず、Arcの複雑さへの反省から、Diaではシンプルさが追求されました。さらに、パフォーマンスを最優先事項とし、肥大化したArcのアーキテクチャを一新して、軽量で応答性の高い基盤がゼロから構築されました。そして、AI時代のエージェントの登場などを見据え、セキュリティを製品の基盤として重視し、専門チームが拡充されたとのこと。しかし、こうした根本的な変更は既存のArcに後から適用するには規模が大きすぎると判断されました。

Arcの積極的な新機能開発は停止されていますが、セキュリティアップデートなどの保守は継続されています。オープンソース化の要望については検討されたものの、複雑な事情から実現は困難であると説明されています。Arcは、同社の競争力の源泉であるカスタム開発基盤「ADK(Arc Development Kit)」上で動作しています。このADKは新製品Diaの基盤でもあるため、会社の価値を損なうことなくArcを意味のある形でオープンソース化することは、現時点では不可能だとしています。 The Browser Companyは、Diaへの移行を単にArcの欠点への対応ではなく、AIという時代の大きな地殻変動に対応するための必然的な選択であると位置づけています。同社は、AIの登場により従来のブラウザはその役割を終えるとの見方を示し、自らを「ろうそくビジネスからの撤退」と表現し、「未来のAIブラウザはウェブページが主要なインターフェースではなくなりチャットが中心となる一方で、ウェブコンテンツの重要性も維持されるため、その両者を融合した形になる」と予測しています。

The Browser Companyは、Diaは同社が創業当初から目指してきた「インターネットコンピュータ」という野心的な目標を実現するための挑戦であり、次世代のスタンダードを築くべく開発を進めていると説明しました。