イタリアが最優先事項を国防からエネルギーに変更、国防支出の増額基調に陰り

イタリアのメローニ首相はイラン戦争でエネルギー価格が高騰したことを受け「現在の最優先事項は国防ではなくエネルギー価格だ」と述べ、Defense Newsも25日「メローニ政権は来年の総選挙を意識した結果、追加の国防費として120億ユーロを確保する絶好の機会を自ら手放した」と報じた。

参考:National escape clause for defence expenditure 参考:Council activates flexibility in EU fiscal rules for 15 member states to increase defence spending 参考:Economic governance: Council approves Germany’s fiscal expenditure path and its flexibility to increase defence spending 参考:Economic governance: Council approves flexibility for Austria to increase defence spending 参考:Meloni minaccia di sforare i vincoli Ue: “Le spese dell’energia fuori dal Patto” 参考:Italy forgoes $14 billion deficit spending on defense amid wobbling economy 参考:Meloni e il rapporto con Trump: “Non sto facendo nulla per ricucire”

EUは加盟国に対して財政赤字をGDPの3.0%以内に抑えることを義務付けているが、欧州再軍備計画を加速させるため財政ガバナンスの仕組みに国家例外条項=National Escape Clause(NEC)を導入し、ベルギー、ブルガリア、クロアチア、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、ギリシャ、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、スロベニア、ドイツ、オーストリアの17ヶ国(2026年2月時点)は欧州委員会の審査、欧州理事会の承認を経て正式にNECを発動した。

出典:Council of the European Union

NECを発動すると国防支出を増やして財政赤字が3.0%を超えても財政ルール違反と見なされなくなるのだが、これは欧州委員会が審査して加盟国毎に条件(期間は最大2025年~2028年/上限はGDPの最大1.5%)を設定するため一律的なルールではなく、フランス、イタリア、スペインはNEC発動を要請するかどうか検討段階で、特にイタリアはGDPに占める国防支出の割合を2.0%から5.0%に引き上げる上で「3.1%の財政赤字」がネックとなっているためNEC発動に期待がかかっていたが雲行きが怪しい。

米国とイランの戦争でエネルギー価格が高騰し、メローニ首相はEUに「財政ルールの一時停止」「エネルギー企業の超過利益に対する課税」「排出量取引制度の凍結」を要求したものの全て却下されたため「エネルギー関連の支出を国防費と同じように財政赤字から除外してほしい」「それが認められないなら予算修正も辞さない=EUの財政ルールを破ってでも財政出動を行うという意味」と言及、そしてNEC発動についても「今は他に優先すべきことがある」「私にとっての優先事項はエネルギー価格であり国民のニーズに応えることだ」と発言。

出典:Palazzo Chigi-Presidenza del Consiglio dei Ministri

要するに「限られた資金をNECを発動して国防支出にまわすのではなくエネルギー関連の支出に回す」という意味で、ローマのIAI=国際問題研究所・防衛プログラム責任者のアレッサンドロ・マローネ氏も「政府内ではNEC発動について意見が分かれていた」「ジョルジェッティ経済財務相はNEC発動に反対だった」「国防支出の引き上げはEUが認めてもイタリアの財政赤字を押し上げてしまう」「現在のイタリアにとって財政の信頼性、エネルギー価格、インフレ対策が最優先事項だ」と指摘。

イタリアは2024年に国防予算として291.8億ユーロを支出したもののGDPに占める割合は1.54%に過ぎず、2025年に他の計上予算から「安全保障に関連する支出」を国防予算に組み込むことで2.0%に達したが、これは「財務警察や沿岸警備隊の予算、デュアルユースに関連する民間への投資などを国防支出に再分類する独創的な会計処理」と呼ばれており、EUが加盟国の再軍備を加速させるため融資条件が有利な資金供給=Security Action for Europeからも149億ユーロを引っ張る予定だ。

出典:Marina Militare

マローネ氏は「SAFE融資を活用してもイタリアの国防費はGDP2.5%止まりだ」と述べ、Defense Newsも25日「メローニ政権は来年の総選挙を意識し、最優先事項を国防予算の増額から高騰するエネルギー価格の抑制に切り替え、追加の国防費として120億ユーロ(3年分)を確保する絶好の機会を自ら手放した」と報じている。

今回の方針転換で何が影響を受けるかは不明だが、イタリア政府は上院国防委員会に提出した文書の中で「GCAP研究・開発フェーズ1~2(概念評価、予備設計、本格開発)のイタリア負担額を186億ユーロと見積もっている」「フェーズ1の一部をカバーする20億ユーロは確保済みだ」「フェーズ1~2を完了させるにはあと166億ユーロの確保が必要だ」と報告し、2037年までの負担費用として88億ユーロの支出を承認するよう要請した。

出典:Edgewing

残りの78億ユーロについては「将来確保する予定」とだけ説明し、五つ星運動は「このプログラムの価値に疑問を抱いてる訳では無いが、予想される負担の大幅増について詳細な説明もなく、委員会が数十億ユーロを端金のように発行するキャッシュディスペンサーとして利用されることは受け入れられない」と批判したが、連立政権は上院と下院の国防委員会で多数派を占めているため「88億ユーロの支出は承認される可能性が高い」と報じられていたが、その連立政権が国防からエネルギーに優先事項を変更してきたため状況は非常に流動的になってきた格好だ。

ちなみにトランプ大統領と決裂したメローニ首相は「彼とは何も話をしてない」「(トランプ大統領の関係修復については)何もしてない」と述べ、もうホワイトハウスと誰が最も親密であるかを競うチキンレースに再参加するつもりはないのだろう。

関連記事:イタリアメディア、トランプ大統領のクビ宣告でメローニ首相は救われた 関連記事:トランプ大統領とNATO主要国の対立、忠実な同盟者だったイタリアまで失う 関連記事:スペインとフランスが米軍機に対して領空を閉鎖、イタリアも国内基地への着陸を拒否 関連記事:イタリア国防相がGCAP開発コストの高騰を報告、3ヶ国の負担総額は約10兆円か 関連記事:国防支出を抑制するイタリアのトリック、独創的な会計処理で2%達成

※アイキャッチ画像の出典:Esercito Italiano

関連記事: