【米国市況】S&P500横ばい、米中協議に市場身構え-145円台前半
9日の米株式市場でS&P500種株価指数は方向感の定まらない展開となり、ほぼ横ばいで取引を終えた。米国債相場も総じて小動き。世界の二大経済大国である米国と中国による貿易協議を週末に控え、投資家は積極的な取引を控えた。円相場は1ドル=145円台前半。
株式 終値 前営業日比 変化率 S&P500種株価指数 5659.91 -4.03 -0.07% ダウ工業株30種平均 41249.38 -119.07 -0.29% ナスダック総合指数 17928.92 0.78 0.00%10日にスイスのジュネーブで始まる米中貿易協議は緊張緩和の糸口となる可能性はあるものの、現段階では包括的な合意には至らないとの見方が多い。
世界中のトレーダーは、これまで市場を混乱させ、世界経済の減速リスクを高めてきた関税戦争の緩和につながる兆しを注視している。トランプ米大統領はこの日、中国製品に対する関税率を80%とする案に言及。中国は米国製品にもっと市場を開放すべきだと促した。
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インタラクティブ・ブローカーズのホセ・トーレス氏は「今週末の展開次第で市場は上下どちらかに動くだろうが、米中間の貿易摩擦がすぐに解決するとは思わない方がいい。今後も米中が歩み寄りを試みつつ、それぞれの経済的利益の確保も目指す中で紆余曲折をたどるだろう」と語った。
トランプ大統領のチームは、初期交渉の焦点として約20カ国・地域をリストアップしたと、事情に詳しい複数の関係者が匿名を条件に明らかにした。米通商代表部(USTR)は、それら交渉対象について議員に説明を行ったという。
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ネーションワイドのマーク・ハケット氏は「市場は貿易に関するニュースに引き続き敏感になっている」と指摘。その上で「数字など具体的な結果が出てくるまで、当面は方向感の乏しい相場になる公算が大きい。最終的な結果がどうなるかは誰にも分からない。従って、今は情報を注視する一方で、過剰反応したり、感情的になったりしないようにすべき時だ」と述べた。
バンク・オブ・アメリカ(BofA)のストラテジスト、マイケル・ハートネット氏は、米株の力強い反発は終了した可能性が高いと指摘。同氏によれば、関税引き下げを巡る楽観的な見方を背景に、これまで株価は「正しく」反発してきた。しかし、投資家は「期待で買って、事実で売る」ことから、これ以上の上昇は見込めないという。
EPFRグローバル・データに基づくBofAのリポートによれば、過去4週間で米国株から約248億ドル(約3兆6000億円)が引き揚げられた。これは過去2年間で最大の流出。
アポロ・グローバル・マネジメントのチーフエコノミスト、トーステン・スロック氏は「米国が中国との完全なデカップリング(経済的分離)を余儀なくされた場合には、最終的にはS&P500種構成企業の業績が大幅に落ち込むことになる。中国の消費者に製品を販売できなくからだ」と述べた。
国債
米国債市場は総じて小動き。主要経済指標の発表がなかった一方、この日は米金融当局者の発言が相次いだ。
国債 直近値 前営業日比(bp) 変化率 米30年債利回り 4.84% -0.5 -0.09% 米10年債利回り 4.38% 0.6 0.13% 米2年債利回り 3.89% 1.5 0.39% 米東部時間 16時38分米連邦準備制度理事会(FRB)のクーグラー理事は、政策当局者は当面、金利を据え置くべきだとの見解を示した。米経済が安定していること、トランプ大統領の関税政策を巡り不確実性があることが理由。
バー理事は、トランプ政権の貿易政策がインフレ圧力と失業の増加をもたらし、FRBを難しい立場に追い込む可能性があると警告した。ただし金利については、関税の影響がより明らかになるまでは現状で適切な水準にあるとの見解を示した。
オプション市場では、米金融当局が年内に利下げをしないことに賭ける逆張りポジションが急速に拡大している。
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為替
外国為替市場ではドルが下落。市場参加者の関心は週末の米中貿易協議に集まっている。円相場は対ドルで反発。一時は1ドル=144円83銭まで買い戻された。アジア時間での取引では一時146円19銭と、4月10日以来の安値を付けていた。
主要10通貨ではカナダ・ドルが軟調。カナダの4月失業率は6.9%と、昨年11月以来の水準に悪化。トランプ関税の影響で製造業部門では多くの雇用が失われた。これを受けてオーバーナイト・スワップ市場では、カナダ銀行(中央銀行)が次回6月4日の政策決定会合で利下げを実施するとの見方が約60%に高まった。
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ブラウン・ブラザース・ハリマン(BBH)のシニアストラテジスト、エリアス・ハダッド氏は「米国とカナダの貿易摩擦はピークを超えた可能性があるものの、関税率は間違いなく現在より高くなるだろう」と指摘。「新たな米英貿易協定を見ても、10%の関税は維持されている。そのためカナダの労働市場はさらに弱含む見通しで、カナダ銀行には利下げの余地がある」と語った。
為替 直近値 前営業日比 変化率 ブルームバーグ・ドル指数 1227.18 -3.05 -0.25% ドル/円 ¥145.31 -¥0.60 -0.41% ユーロ/ドル $1.1252 $0.0024 0.21% 米東部時間 16時39分原油
ニューヨーク原油相場は大幅続伸。週末の米中貿易交渉を控えて市場に楽観が戻り、アルゴリズムを駆使するトレーダーによるショートカバーが入った。
中国との緊張を緩和し、米中両国の経済的苦痛を和らげようと、トランプ米政権は関税引き下げを検討している。だが、これに伴う相場上昇は対中関税は80%が「適切」としたトランプ氏のコメントで一部相殺された。
ブリッジトン・リサーチ・グループのデータによれば、5月8日時点で100%だった商品投資顧問業者(CTA)のショートポジションは、ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)と北海ブレントの両方で91%まで手じまわれた。CTAの取引は相場の変動を増幅する傾向がある。
原油価格は1月中旬に付けた高値から転落している。貿易戦争が経済成長を損なうとの懸念が広がる中、石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成される「OPECプラス」は、供給増の加速にかじを切った。今週の原油市場は2021年以来の安値で取引を開始した後、貿易交渉に対する慎重な楽観に支えられて価格は反発した。
CIBCプライベート・ウェルス・グループのシニア・エネルギー・トレーダー、レベッカ・バビン氏は「WTIが60ドル台に回復したのは、新たに建てたショートポジションの買い戻しがきっかけになった可能性が高い」と指摘。「中国との交渉が進展するとの楽観も、価格を支えている」と述べた。
トランプ氏が自賛する英国との「歴史的な」枠組み合意は、詳細に目を向けると同氏が約束した「完全で包括的な」協定には及ばない。トランプ氏は中国とは「中身のある」交渉になると述べたが、中国側は8日、関税撤廃をあらためて米国に求めた。
一方で米政府は「ティーポット製油所」と呼ばれる中国の独立系小規模製油所と、港湾運営会社、船舶会社および個人を、イラン産原油の取引に関与したとして制裁リストに追加した。
英政府もロシア産石油の流通を助けたとして、石油取引網の経営幹部に制裁を科した。石油タンカー100隻余りも制裁対象に加える計画だという。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物6月限は、前日比1.11ドル(1.9%)高い1バレル=61.02ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント7月限は1.7%上げて63.91ドル。
金
ニューヨーク金は反発。今週は米中の貿易交渉の行方が関心を集め、値動きの荒い展開となった。
金は週間ベースで約3%高。10日に始まる米中貿易協議に詳しい関係者によると、米側は第一歩として関税率を60%未満に引き下げる目標を設定しており、中国側がこれに応じる可能性があると見ている。2日間の協議で進展があれば、早ければ来週、引き下げが実施され得るという。
金相場は今年、米政権が仕掛けた貿易戦争を背景に27%上昇。過去最高値を相次ぎ更新し、4月には1オンス当たり3500ドルを突破した。米政府が貿易の姿勢を和らげれば逃避需要が鈍る可能性もあるが、金には中央銀行の大規模な購入と中国での活発な投機買いという支援要素がある。
金のスポット価格はニューヨーク時間午後2時18分現在、前日比1%高の1オンス=3339.33ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物6月限は、38ドル(1.2%)高い3344.00ドルで引けた。
原題:S&P 500 Wavers After $6 Trillion Run on Trade Risk: Markets Wrap
Dollar Trims Weekly Advance as US-China Talks Eyed: Inside G-10
Oil Rises as Focus Shifts to US-China Trade Talks After UK Deal
Gold Advances as Market Weighs Upcoming US-China Trade Talks