欧州国債市場で起きた下克上、イタリアとギリシャが勝ち組に変身

財政赤字懸念が世界の国債市場を揺るがした5月、従来ではあり得ない現象が発生した。イタリア、ギリシャ、スペインの国債が上昇したのだ。

  ほんの数年前であれば、こんなことは考えられなかったただろう。これらの国は長らく欧州周辺国と呼ばれて二線級の扱いを受け、放漫財政と肥大した官僚主義がその特徴であるとされた。政府債務急増への不安が世界的に広がった先月のような局面では、これらの国の国債こそ強烈な売りを浴びたはずだ。

  だが、現在のイタリア、ギリシャ、スペインは強制的な緊縮財政に追い込まれた過去の教訓に学び、赤字を抑制し比較的慎重な財政運営を行っている。一方、ドイツや米国、日本など、規模が大きく経済力に優れる政府は、債務負担を増大させる支出計画に突き進んでいる。

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  巨額の借り入れを行う国への警戒感が高まる中で、ドイツ債の代わりにイタリア債を保有することで投資家が要求する上乗せ利回り(スプレッド)は急低下し、1ポイントを割り込んだ。10年余り前には最大5.7ポイントに上っていたことを踏まえれば、欧州の「持つ者と持たざる者」、より全般的には先進国全体の差がなくなってきていることを浮き彫りにする。

  「周辺国の方があらゆる部分で好ましい」とニューバーガー・バーマンのシニアポートフォリオマネジャー、パトリック・バーブ氏は指摘。「財政運営や赤字の見通しは予想以上に良好で、中核国の多くを上回る高い成長を遂げている」と60億ドル(約8670億円)相当の債券を運用する同氏は述べ、イタリア債がアウトパフォームを続けると見込んだ。

  これに対し、フランス10年債利回りは上昇して同年限のスペイン債を上回り、いまやギリシャ債をわずか3ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)下回るに過ぎない。

  欧州の国債利回りが全体的に収れんすると見込むトレーディングは、つい最近まで痛みを伴うものだった。ゼロ付近の金利と大量の緩和マネーで周辺国を支える欧州中央銀行(ECB)の意思がなければ、壊滅的な打撃を被っていただろう。それが今や、ECBの助けなどまるで必要とせずに、この戦略が完全に息を吹き返した。

  この変化はとりわけイタリアで顕著だ。イタリアは長らく、政治混乱と低成長、放漫財政、不安定な国債相場のイメージが定着していたが、少なくとも他国と比較すれば、市場に気に入られる存在へと生まれ変わった。

  イタリア債とドイツ債のスプレッドは、認識の変化を物語る。スプレッドは今や0.91ポイントでしかなく、この急転換でイタリアは今年、記録的な額の対内投資を獲得した。対照的にドイツ債に対して日本の投資家は4月に売り越しに転じ、その規模は2014年以来の大幅だった。

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  ニューバーガーのバーブ氏とその同僚のヤニク・ロワラ氏は、トランプ関税で市場が混乱した4月にイタリア債を購入した。両氏は独伊スプレッドが年末までに0.8ポイントまで縮小することを目標としている。バークレイズのストラテジストはさらに強気で、同スプレッドが向こう6カ月で0.7ポイントまで縮小すると見込む。

  「率直に言うと、これほど収れんするとは思っていなかった」とバーブ氏は述べ、「米国債については多くの疑問があるが、イタリア債を巡ってはしばらく市場を驚かせるようなことが起きていない」と続けた。

  バンク・オブ・アメリカ(BofA)の欧州周辺国債指数は4月以降に2.3%上昇し、四半期で2020年以来の好パフォーマンスを記録する勢い。一方、主要7カ国(G7)国債指数は同期間にプラスマイナスほぼゼロだ。ブルームバーグがまとめたデータによると、年初からの世界の株式市場の値動きをドルで換算したところ、スペインとギリシャ、スロベニア、ポーランドが上位10位以内に入った。

原題:In Upside-Down Bond Market, Italy and Greece Are the Big Winners(抜粋)

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