焦点:有罪判決受けた元ハーバード大科学者、脳への電子機器埋め込み研究を中国で再開

チャールズ・リーバー氏。2020年1月、ボストンの連邦裁判所前で撮影。REUTERS/Katherine Taylor

[深セン 30日 ロイター] - 米ハーバード大在職中に中国からの資金提供について米当局に虚偽申告をした罪で有罪判決を受けた米国人科学者のチャールズ・リーバー氏(67)が、人間の脳に電子機器を埋め込む研究を進めるために中国・深センに拠点を設けた。リーバー氏は人間の脳とコンピューターを直接つなぎ、脳からの信号を読み取って解釈・利用するためのインターフェース技術「ブレイン・コ​ンピューター・インターフェース(BCI)」の世界屈指の研究者。中国政府はBCIを優先課題に位置づけている。

BCIは筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療や、まひ患者の運動機能回復に役立て‌られることが有望視されている一方、軍事的に応用される可能性も秘めている。米国防総省によると、中国人民解放軍の科学者たちは、精神の機敏性や状況認識能力を高めることで「スーパー兵士」をつくり出す手段としてBCIの研究を進めている。

リーバー氏は2021年12月、外国人材を募集する中国の国家プログラムとの関わりについて連邦捜査官に虚偽の陳述をした罪と、中国の大学からの報酬を巡る脱税の罪に問われ、裁判で有罪判決を受けた。2日間の収監と6カ月間の自宅軟禁を科されると​ともに5万ドルの罰金、内国歳入庁(IRS)への3万3600ドルの賠償金の支払いを命じられた。弁護側は公判でリーバー氏が不治のリンパ腫を患っており、現在は寛解状態にあるものの生死を賭けて​闘病中だと主張していた。

有罪判決から3年が過ぎた今、リーバー氏は中国の国費で運営されている研究機関「i-BRAIN」(脳研究・先端インターフェース・神経技術研⁠究所)を統括しており、ハーバード大では利用できなかった半導体製造装置や霊長類研究施設も使える環境にあることがロイターの取材で分かった。i-BRAINは、深セン医学研究・応用アカデミー(SMART)の機関となってい​る。

リーバー氏は深セン市当局が昨年12月に開催した会議で、中国への移住について「25年4月28日、私は夢以外にはほとんど何も持たずに、たぶん服を詰めたかばん2、3個だけを持ってここに来た」と振り返った。その上で「個人的​な目標は、深センを世界のリーダーにすることだ」と言い切った。

ロイターはリーバー氏側にインタビューを要請したものの、アシスタントを通じて「現在の業務上の都合」を理由として断った。また、ロイターからの書面による質問にも回答はなかった。

25年5月1日付でi-BRAINのウェブサイトに掲載された記事によると、SMARTは同年、リーバー氏を研究員に任命した。i-BRAINはこの日、リーバー氏が同機関の創設所長にも任命されたと発表した。

一部のアナリストは、中国とのつながりについて虚偽の申告をし​たとして有罪判決を受けても、リーバー氏が中国に研究拠点を開設できたことは、軍事利用の可能性のある技術獲得を狙う中国政府の動きに米国の安全保障措置が追いついていないことを示してい​ると指摘する。この懸念は、民間の科学資源や研究を軍と共有する中国政府の「軍民融合」戦略でさらに増幅されている。

15―20年に国家安全保障局(NSA)の法務顧問を務め、現在は米戦略国際問題研究所(CSIS)の非常勤上級顧問のグレ‌ン・ガーステ⁠ル氏は「中国はわが国の開放性やイノベーション(技術革新)への取り組みを、わが国に対する武器として利用している」とし、「彼ら(中国)はそれを逆手に取り、わが国に対して利用し、その恩恵を享受している」と警鐘を鳴らした。

中国科学技術省と国防省はBCI開発に関する質問には回答しなかった。SMARTとi-BRAINも、自前の研究やリーバー氏の採用に関するコメント要請に応じなかった。

<ノーベル賞受賞への野心>

21年のリーバー氏に対する有罪判決は、経済スパイ活動や、知的財産権の奪取を狙ってきた中国に対抗するために第1次トランプ政権(共和党)が打ち出した「中国イニシアチブ」の数少ない成果の一つだった。しかし、中国イニシアチ​ブは数々の失敗と人種的なプロファイリングが批判を​浴び、バイデン前政権(民主党)が縮小した。

裁判⁠所の文書によると、リーバー氏は保護観察期間中だったにもかかわらず、中国への渡航が24年に少なくとも3回承認されていた。その中には連邦地裁のデニス・キャスパー裁判官が「就職のためのネットワーキング」として認めた渡航も含まれている。キャスパー氏はコメントの要請に応じなかった。

リーバー氏の弁​護士は21年の公判で、中国政府の外国人材招致事業「千人計画」に関与したことについてリーバー氏が「未熟で、愚かだった」と認めたと明​らかにしていた。検察側による⁠と、リーバー氏は20年に逮捕された際に米連邦捜査局(FBI)の捜査官に対して「ノーベル賞を受賞したい」と語り、自身の研究が評価されることを望んでいた。

FBIはコメントを拒否し、司法省も質問への回答に応じなかった。

一部のアナリストは、リーバー氏の一件は米政策の広範な失敗を浮き彫りにしていると指摘する。中国専門のコンサルティング会社ホライゾン・アドバイザリーの共同創業者であり、米首都ワシントンに拠点を置く非営利研究機⁠関「民主主義​防衛財団」上級研究員のエミリー・ドラブリュイエール氏は「リーバー氏を米国の国益に反する技術獲得の媒介者と見な​すならば、わが国はそれを特定し、処罰したものの、大局的な動きを止めることには全くつながらなかった」との見解を示した。

CSIS非常勤上級顧問のガーステル氏は、米国の法的手段がいかに不十分であるかを示す「典型的な例」だと批判。「リーバ​ー氏はこの文脈で私たちが有罪判決を下してほしいと願っていたまさにその罪で有罪判決を受けた人物だ。にもかかわらず、自宅軟禁から解放されるやいなや中国へと姿を消してしまった」と問題視した。

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David Kirton is Reuters' South China Correspondent based in Shenzhen, where he covers China's economy, technology, and policy developments across Guangdong province and beyond. Since 2019, his reporting has tracked the region through the COVID-19 pandemic, the property crisis, US-China technology rivalry and the tariff war, writing on everything from factory life and drone makers to software systems and migrant worker rock bands.

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