「事件は捏造」証言は真実か虚構か 捜査員VS警視庁 対立の行方
正しいのは捜査員3人の証言か、それとも警視庁なのか――。
冤罪(えんざい)事件の捜査を巡り、捜査員と警視庁の主張が真っ向から対立する異例の裁判が続いている。
3人の捜査員は公開の法廷で「事件は捏造(ねつぞう)」などと証言し、捜査を指揮した幹部らを批判した。
一方、警視庁側は3人の証言を「壮大な虚構」と否定している。
対立の行方は裁判所の判断に委ねられ、28日に判決が下る。
起訴取り消しの冤罪事件
冤罪事件は、警視庁公安部が手掛けた「大川原化工機事件」。
横浜市の中小企業で化学機械メーカーの大川原化工機が、軍事転用可能な装置を中国と韓国に不正輸出したというぬれぎぬを着せられ、社長ら3人が逮捕された事件だ。
初公判が2021年8月に開かれる予定だったが、東京地検はその4日前に突然、「起訴内容に疑義が生じた」と起訴を取り消した。
大川原化工機側は、捜査は違法だったとして、東京都と国に約2億5000万円の国家賠償を求める訴訟を起こしている。
捜査を批判する捜査員3人の証言は、この訴訟のなかで飛び出した。
1人目の捜査員「立件は個人的な欲」
「まあ、捏造ですね」
1審・東京地裁で行われた証人尋問で、事件についてそう証言したのが濵﨑警部補だ。
事件当時、捜査を手掛けた公安部外事1課5係のメンバーだった。
「軍事転用可能」と公安部が判断した大川原化工機の噴霧乾燥器について、生物兵器の製造が可能かどうかを検証する温度実験の責任者を務めた。
その濵﨑警部補の証言は、そもそも事件自体が「なかった」というものだ。
この事件では、噴霧乾燥器の輸出規制の内容を定めた経済産業省の省令の解釈が問題となっている。
省令の規定が曖昧だったため、公安部は国際基準と異なる独自の解釈をし、大川原化工機の製品が輸出規制品に該当すると判断したと濵﨑警部補は明かした。
濵﨑警部補は法廷で、東京地検幹部が起訴取り消しの理由を公安部に説明する際、法令解釈をねじ曲げたと裁判官に判断されるリスクを挙げたと証言した。
そして、こう振り返った。
「立件しなければならないような客観的事実はなかった。立件したのは捜査幹部の個人的な欲」