〈千葉・行列のできる北朝鮮料理店〉「この味、日本でも通じると思った」脱北した女性店主が明かす、絶品冷麺の秘密(集英社オンライン)
――どのようなきっかけで千葉にお店をオープンしたんですか? 文蓮姫(以下、同) 私は2015年に、母と弟は16年にそれぞれ脱北しました。母は平壌の最高級ホテル「高麗ホテル」の一角に店を出していたほどの料理人で、脱北後に韓国の事情を研究してソウルの中心部に北朝鮮料理店を開業し、私と弟も一緒に働いていました。 そのころ、ソウルで焼肉店を経営していた旦那さん(成さん)と出会って結婚し、彼も私たちの店の厨房に入って働いていました。 次の店を出そうかという話をしていたときに、NHKが私たちの店を取り上げたのがきっかけで日本人のお客様がソウルの店にたくさん訪れるようになったんです。 皆さん、冷麺のスープまで飲み干していて、空になったお皿を見るたびに「この味なら日本でもきっと通用する」と確信したんです。 それで、夫の地元の千葉にお店をオープンしました。私自身、「いつかは日本にお店を出したい」と思っていたけど、まさかこんなに早く実現するとは思わなかった。NHKのおかげです。 ――お店の名前の「ソルヌン」はどんな意味ですか? 「正月の雪」という意味です。2019年の正月に北朝鮮ですごく有名な「正月の雪よ、降れ」という曲に合わせて北朝鮮の子どもたちが踊っている公演の動画をYouTubeで見たのがきっかけです。北朝鮮では正月の雪は農業もうまくいって縁起がいい兆しと言われているのでそういう意味も込めています。 ――北朝鮮で生まれ育って結婚前に日本を意識したことがありましたか? 私の祖父母はみな在日朝鮮人で(1959年に始まった)「帰国事業」で北朝鮮に渡りました。その後、日本にいる親戚が毎年、北朝鮮に来て服やいろんなものを持ってきてくれて、「日本ってすごくいい国だよ」とよく言っていました。 外国の情報がほとんどない北朝鮮で育ったけど、日本のことは親戚から直接聞いていたので、自然と信用できたんです。だから、日本の文化には昔から親しみがありました。 ――日本でオープンしたころ、お店はどんな様子でしたか? 宣伝は何もしていなかったんですよ。チラシ1枚も配っていませんでしたし、夫と2人で始めたので、「地元の方に少しずつ広まってくれたらいいな」と思っていたんです。 でも、初日から大盛況で、本当にびっくりしました。オープンして最初の1ヶ月は、2人だけで営業していたので、休む時間もほとんどありませんでした。 夜9時にお客さんが帰ったあと、全てのテーブルの片付けと皿洗いを終えて、ようやく帰れるのが深夜2時。そんな日々が続いていました。まさか、ここまで繁盛するとは思ってもいませんでした。