人はいつからネコを飼うようになったのか、定説覆す驚きの発見
南アフリカ、クルーガー国立公園の岩の上でくつろぐヤマネコ(Felis lybica)。(RICHARD FLACK, NATURE PICTURE LIBRARY)
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街の雑貨屋でも離島でも、あらゆる場所で見かけるネコ。しかし、人はいつ、どこで野生のネコを飼うようになったのだろうか? この謎解きは簡単ではないが、古いネコの骨のDNAを広く分析した研究の結果から、従来の説とは異なり、現在のイエネコ(Felis catus)の起源は北アフリカで、ヨーロッパにやってきたのはわずか2000年ほど前であることがわかった。論文は11月27日付けで学術誌「Science」で発表された。
考古学や古い遺伝子の研究に基づいた従来の説によると、イエネコを飼い始めたのは1万年ほど前の中東で農業をしていた人々で、ネズミの駆除に役立つことから、ヨーロッパに移住する際に連れていったとされていた。(参考記事:「イエネコの祖先、6000年前の中欧での暮らしぶりが判明」)
古代の美術品や工芸品にネコが多く登場することを考えれば、今回明らかになった遅さは驚きだ。また、この結果は、世界のほかの地域でどのようにネコが飼われ始めたのかというさらに大きな謎を解く貴重なデータになるだろうと、米ミズーリ大学でネコ科の動物の遺伝子について研究しているレスリー・ライオンズ氏は述べる。なお、氏はこの研究には関わっていない。
「ネコはまだ謎だらけです。その謎が少しずつ明かされつつあるところです」
ミトコンドリアDNAだけではわからない
考古学的に見れば、古いネコの骨が出土するのはまれだ。しかも、イエネコの骨か野生のネコの骨かを見分けるのは難しい。
この点で、ネコとイヌは大きく異なる。イエイヌは家畜化に伴い、かわいらしい目など、オオカミに近かった祖先から身体的特徴を変化させてきた。(参考記事:「誰もが弱い「子犬のような目」 人との交流で進化」)
2004年、最古のイエネコの証拠と思われる骨が発掘された。キプロスにある墓を発掘したところ、人のとなりから丸くなったネコの骨が見つかった。
この墓は、約9500年前の新石器時代のもので、地中海東部で農業が行われるようになった直後にイエネコが登場したという仮説とも一致する。のちの時代のエジプトの美術品には、首輪をつけたネコやネコに似た神が描かれており、4000年前の古代エジプト人もネコを飼っていたことがわかる。(参考記事:「古代エジプトの多彩な動物の神々、ネコからトキまで 写真18点」)
ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(探求者)で、今回の研究の最終著者を務める古遺伝学者クラウディオ・オットーニ氏によると、当初は古遺伝学的な解釈もこの時系列と一致していた。同氏が著者の一人として2017年に発表した論文でも、複数の古いネコの標本から得られたミトコンドリアDNAを分析した結果から、イエネコが最初に中東から広がり始めたのは6500年前ごろだったと結論づけていた。(参考記事:「ネコは自ら家畜化した、遺伝子ほぼ不変、最新研究」)
しかしオットーニ氏らは、ミトコンドリアDNAだけでは全容がわからないと感じていた。動物はミトコンドリアを母親だけから受け継ぐため、この痕跡からでは母系の系譜しかわからない。進化の全容を解明するには、生物のゲノム(遺伝情報)が必要だ。
「完全なゲノムには、多くの先祖の個体情報が組み込まれているので、たいへん細かい情報が手に入ります」とイタリア、ローマ・トル・ベルガータ大学で研究を行っているオットーニ氏は話す。