「グリ下」から消えた若者、300m西の「浮き庭」が新たな溜まり場

 大阪・ミナミの「グリ下」に若者が集まって犯罪やトラブルに巻き込まれないよう、塀が設置されて4か月が過ぎた。長時間滞在する若者は減ったが、一部は近くの別の場所に移り、滞留している。

塀が設置された「グリ下」(23日)

20人超の日も

 週末の26日午後8時半頃、記者がグリ下を訪れると、椅子代わりになっていた段差部分に塀(高さ約2・4メートル、長さ約16・5メートル)が仮設され、たむろする若者の姿はなかった。

若者が座り込むなどしていた「グリ下」(昨年12月12日)塀が設置されたグリ下(3月26日)

 一方、道頓堀川沿いを西に約300メートル進むと、デッキや階段に20人以上の若い男女の姿があった。近くの浮庭橋にちなみ、「浮き庭」と呼ばれている場所だ。男性(20)は「月に何度か来ている。日中は日陰があるのでグリ下が多いけど、広い階段もあるので、夜は浮き庭に移る」と話した。

「浮き庭」に集まる若者ら(26日)

 浮き庭では、6月中旬の夜に訪ねた際も20人以上の若い男女が集まり、ダンスを踊ったり、缶酎ハイを手に談笑したりしていた。

 目を強調した「地雷系」と呼ばれるメイクをした女性は18歳。SNSで知り合った友達に誘われてグリ下に通っていたが、最近、この場所に移動したという。記者に「家や学校が嫌いだから、逃げ場を作らないと。ここは楽しい」と語った。

 グループには、金髪の20歳代の男性の姿もあった。男性によると、トラブル防止のため、互いに「 界隈(かいわい) 名」というあだ名で呼び合う。市販薬を過剰摂取するオーバードーズ(OD)やリストカットは、他のメンバーの前ではやらないという自主的なルールも決めているという。

 その後、巡回中の府警南署員5人が訪れ、若者らを見知った様子で、界隈名で呼びながら身元確認を始めた。若者らも面識のある警察官の名前を呼んだり、「初めて見る人や」と口にしたりしていた。高校生とみられる少女は署員に促されて家族に電話をかけた後、家族の迎えを待つために署へ向かった。署員は記者に「親が迎えに来ない場合は署で保護します」と話した。

4か月

 グリ下が若者の 溜(た) まり場になるのを防ごうと、大阪市が塀を設置したのは3月26日。市によると、5月9日~6月2日に塀付近に滞留した若者の人数は延べ363人で、前年同期(同511人)に比べて3割減ったという。

 グリ下にはコロナ禍で飲食店が休業した2021年頃から、家庭や学校で悩みを抱える少年少女がSNSなどを通じて集まるようになった。性犯罪や過剰摂取を目的とした薬のトラブルに巻き込まれるケースが相次ぎ、大阪府・市、府警などが23年から「グリ下会議」を開き、課題や対策を協議している。

 市は当初、大阪・関西万博の閉幕後に塀をいったん撤去し、代わりに段差部分にパネルを設けて座れなくする計画だった。だが、会議で「若者らの排除につながりかねない」との意見が出たことを踏まえ、この方針を改めて検討しているという。

 南署によると、浮き庭では元々、少人数の若者がたむろすることはあったが、塀の設置後に増加したという。同署幹部は「多い日には20人を超え、補導される未成年も多い」と話した。

 ◆ グリ下 =道頓堀の観光名所、グリコの看板近くにある戎橋下の遊歩道。近年、東京・歌舞伎町の「トー横」などとともに、悩みを抱える若者が集まる場所として知られるようになった。

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